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座談会 厚生労働省創設で雇用・福祉的就労施策はどう変わる

―障害のある人々の新しい就労生活をどう拓く―

大山泰弘(おおやまやすひろ) 社団法人全国重度障害者雇用事業所協会(全重協)会長
斎藤公生(さいとうこうせい) 全国社会就労センター協議会(セルプ協)会長
新保祐元(しんぽゆうげん) 社会福祉法人全国精神障害者社会復帰施設協会副会長
西嶋美那子(にしじまみなこ) アイ・ビー・エム・ワールド・ドレード・アジア・コーポレイションマネージャー
〈司会〉藤村出(ふじむらいずる) 仲町台発達障害センター、本誌企画委員

厳しい就労・雇用の現状

藤村(司会)

 私は横浜市にある仲町台発達障害センターで、主に自閉症の人たちの支援をしています。3年ほど前から本誌の企画委員をしておりまして、司会をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
 今日は、厚生労働省が発足して雇用や福祉的就労の施策がどう変わっていくのか。期待できそうな点、課題などについてご意見をいただいて、厚生労働省への政策提言に結びつくような話し合いができればと思います。まず、障害のある人たちの就労・雇用の現状について、それぞれのお立場からご発言をお願いします。

大山

 重度障害者を大勢雇用している事業所の会長をしております。全国300の事業所が会員になっていますが、ほとんどが中小の企業で、大企業の第三セクターは50社前後です。以前に比べると大企業の障害者雇用率が伸びているという話を聞きますが、かつては中小企業の雇用率が高く、また雇用している事業所も多かったわけです。それが最近、減少傾向にあるのは、中小の企業ではとくに重度障害者の雇用はたいへんだということが言えるのではないかと思います。
 300の事業所の総従業員数は2万5千人。うち障害者が7千人、そのうち重度の障害者が3500人を超え、雇用率は42%に達しています。重度の障害者の内訳は、身体障害者と知的障害者、少ないのですが、精神障害者もおります。毎年のアンケート調査では、今のままで企業経営が成り立つという事業所は35%しかなく、3分の2の事業所が現在の状態では企業経営がやっていけないと答えています。
 なぜかというと、経営環境がたいへん厳しくなっています。加えて率直に言えば、企業の負担をカバーしようということでできた国の助成金制度が、数年前までに比べると全体の予算が少なくなったり、いろいろな条件がつけられたりと活用が狭められていることもあります。何らかの手を打たなければいけない、打ってもらわなければいけない状況です。

斎藤

 全社協の中にある授産施設の組織、社会就労センター・セルプ協の会長をしております。全国約2千の授産施設で、約7万6千人の社会的にハンディキャップをもつ人たちが働いていますが、1100の施設が会員に登録しています。個人的には、知的障害者と身体障害者、それぞれ二つずつの授産施設を東京で運営しております。
 授産施設は、今いろいろな面で問われています。一つは、授産施設から一般企業への就労に結びつく人が年間わずか1%前後だということです。賃金も1か月2万円ぐらいしか支払えないのが現状です。また、入所施設では畳2枚に一人が利用するというような、非人道的な側面があります。
 もう一つは、社会福祉法の改正等におきまして、長年続いてきた措置制度が平成15年から利用者契約制度に移行します。その中で、授産施設の経営がどう変わっていくかは大きな問題です。授産施設の定義・目的・性格等は曖昧模糊としておりまして、訓練施設なのか、働く施設なのか、都合によって局面が変わっています。我々の施設を利用している人たちの3分の2が重度重複障害者と言われています。通過施設というとらえ方で、一般企業の就労に結びつけることだけでいいのかどうか。厚生労働省とは、こういった面を含めて話を詰めていきたいと思っています。

新保

 私は茨城県つくば市にある社会福祉法人「創志会」の理事長をしておりまして、全国精神障害者社会復帰施設協会では副会長をしております。私どもの協会も、就労支援に一生懸命に取り組まなければいけないところですが、取り組みは少し弱いと思っております。協会傘下の施設、事業所では、就労支援、生活総合支援事業などに個別に取り組んでいます。
 精神障害者は、就労意欲というか就労希望が非常に高く、80%は優に超えるというのが現実です。しかし、就労に結びついていないという大きな問題があります。就労に結びついた事例では、就労の紹介先は、精神障害者が治療や訓練を受けている機関と本人自らの開拓が、同比率で多くなっています。いちばん期待したいハローワークでの紹介就労は、ほとんどないのが実態です。
 私自身の施設でも、就労支援をかなり強力に推し進め、ハローワークとさまざまな協議をしてきましたが、残念ながらこれまでの制度はほとんど活用できませんでした。その理由について、日本障害者雇用促進協会に文書回答を求めたところ、本年2月13日付で会長名の「助成金受給資格不認定通知書」がまいりました。認定できない理由に、「障害者の雇用の促進等に関する法律に定める障害者に該当しないため」と書かれています。いままで日本障害者雇用促進協会や労働省が定めたさまざまな施策に「精神障害者」という文言が記載されているのに、たいへん残念です。

西嶋

 精神障害者への助成金はありますよね。

新保

 いろいろな施策はありますが、活用できませんでした。ハローワークを経由して就労に結びつけることはむずかしいと考え、やむを得ず、私どもで有限会社をつくりました。スーパーマーケットの中にテナント店で入り、障害者を雇用することにしました。ハローワークを経由しての就労斡旋があれば、助成金がもらえますので、斡旋をとお願いしたのですが、「社会福祉法人の方が会社をつくって、法人の利用者が就職するのだから、就労斡旋にあたりません」と言われました。
 たしかに同じ人間がつくっているかもしれませんが、社会福祉法人、企業の社長は別人格です。その辺を配慮していただけないかと申し上げたのですが、無理でした。最終的にその助成金しか残らなかったので、障害者を雇用継続するために、店舗を借り上げるための助成金の申請をしたのですが、以上の回答でした。
 個人的には、厚生省と労働省という縦割り行政ではうまく施策が使えないのではと判断していました。厚生労働省への移行段階でもこういう状況だったということは、働きたいと思っている多くの精神障害者の願いに、現状の施策は十分に応えられない以前の課題をまだ抱えているのではという気がしてならないのです。この辺をきちんと整理していかないと、現状の打破ができないだろうと思っています。

大山

 精神障害者の方が助成金の対象にならなかったとか、雇用率に入っていないということですが、重度障害者多数雇用事業所では知的障害者が雇用率に入る以前から雇用をしてきました。7000名のうち3500名が重度と申し上げましたが、7000名のうち半分以上が知的障害者です。雇用率にはカウントされないけれど、雇用していたら制度を準用させてあげますよという通過時期があって、そういう実績をふまえて雇用率に入ったわけです。精神障害者もこのような積み重ねをされたらと思います。企業と精神障害者の団体と全重協が歩調を合わせて実績をつくっていけば、知的障害者と同じように展開できるのではないかと思います。

西嶋

 現在は、日本IBMの親会社、IBMアジアパシフィックの人事で、女性や障害者の問題のアジアパシフィック全地域を担当しています。これまでは、日本IBMの人事で障害者の問題に10年余り携わり、この5年ほどは日経連に出向しておりまして、障害者緊急雇用安定プロジェクトを立ち上げ、運営にもかかわっていました。今日はその観点からお声がかかったと思っています。
 企業における障害者の雇用は、この10年間で非常に変わったと思っています。とくに大企業が知的障害の方たちの雇用にも取り組むようになりました。以前は、納付金で対応していけばいいという企業が多かったのですが、雇用率を達成していてもさらに知的障害の方たちの雇用の場を設けるという企業も増えてきています。ただ、残念なことに一部の企業にとどまっているのも事実です。
 もう一つは、これまで中心的な役を担ってきてくださった中小企業が、経済環境が非常に厳しい中で、倒産もしくは解雇せざるをえない状況にぶつかっていることです。仕事の場がなくなっていることに対して、労働省が緊急雇用対策の一環として障害者緊急雇用安定プロジェクトを立ち上げたわけですが、タイミングがよかったことと、目的がはっきりしていたことで、成果が上げられたことは非常によかったと思っています。
 また、知的障害者の方たちが雇用率に算入されたことで、これまでにない課題が企業に向けられてきていますので、その対策を急いでいただきたいと思います。

厚生労働省の発足に期待すること

藤村

 これまで障害の軽い人は労働省の雇用の対象に、重い人はどちらかというと厚生行政の中でカバーしてというような役割分担の意識があったのではないかと思います。厚生労働省の発足で厚生省と労働省が結びつくことによるプラスはどんなところにあるのでしょうか。

大山

 私は障害者を軽いと重いとに分けて、重い人は厚生省にという認識はちょっと違うと思います。欧米では、障害をもっていても一人前に働ける人は機会均等で雇用しますが、日本の場合は社会連帯ということを考えて、一人前に働けなくても、納付金制度による助成金などで負担の重たい部分はカバーしましょう。だから、障害の重い人も雇用に入れてくださいということで進んできています。
 障害が重いから福祉というのではなく、一人の障害者が地域で働きながら生活できることがいちばん幸せなわけです。重度の障害者も一般企業の戦列に入ることが、人間にとっていちばん重要なことだと思います。今まで労働省は働く側面で、厚生省は生活の保護の側面でしか、一人の障害者と接していなかったでしょう。人間が幸せになる社会をつくることがノーマライゼーションなのですから、その意味では厚生省と労働省が一つになったことに期待をしています。

斎藤

 現在、セルプ協では、厚生省より助成金をいただき「障害者が授産施設を出て地域で自立生活できるように援助するための方策についての研究事業」を行い、まとめに入っている段階の調査結果では、授産施設の入所者で企業で働きたいという希望をもっている人が、身体障害者で44.4%、知的障害者で56.1%、精神障害者は61.5%です。まちの中で自立生活をしたい人は、身体障害者43.7%、知的障害者63.3%、精神障害者77.3%です。平均すると60%ぐらいの人たちが働きたい、まちで生活したいと答えています。
 それがなぜ1%の人しか就労に結びつかないのか。弊害要素がいくつかあります。我々の施設は一般就労に直結しない、しかし労働意欲をもっている、そんな障害の重い人に利用していただいて、その障害をいかに軽減させるのかが仕事だろうと思います。しかし指導者には、障害が重いから手作業をという体質がかなりあります。一定の機械設備をしたり、人的支援をしたりすることが、これまでの厚生行政では限界があったと思います。そこへ労働行政が入ってきて、ジョブコーチや企業内授産の新しい制度が年々拡充されていくことによって、少しは変わってくるだろうと期待しています。同時に、福祉施設という体質から脱却して、就労施設の機能をもった体質に変えていかなければならない。一般企業等で働けない人たちの就労の場が授産施設だろうと思います。
 厚生省と労働省の統合に期待しているのは、労働権、労働三法の保障などの問題です。幸いに措置制度から支援費支給制度に変わり、一つ明るさが見えたと思います。措置制度では委託されるだけで、契約がないわけです。今度は本人と我々の間で契約を結ぶわけですから。授産の中に福祉工場がありますが、労働三法が適用されております。こちらの方向に移行させていく必要があると思っています。

大山

 それぞれが考えているのに、なぜいままで働くことができなかったのか。厚生省と労働省が別々だったことがいちばん大きいですね。私はよく例に出すのですが、イギリスのデイケアセンターでは、昼間だれもいないんです。日中は仕事の訓練をする時間で、デイケアの先生たちは仕事についてはアマチュアだから、仕事のプロである企業でコーチをしてもらいながら仕事をしたほうが、本人のためにもよりいい訓練ができるというのです。福祉の施設でありながら、働く場は企業にという発想が必要だと思います。そのほうが本人も興味も意欲もわくでしょうし、より成果が上がると思います。
 働く場面はできるだけ企業を活用して、生活の面では福祉の施設の応援を仰ぐ。就職の前段の訓練は、企業内授産とか、企業の中で訓練を受けるシステムを作ったら、いまよりもピッチがあがるのではないかと思います。

西嶋

 企業側の立場からは、知的障害の人たちの雇用義務化の法改正を検討しているときに、生活支援に関する問題提起を労働省にさせていただきました。大山さんがおっしゃったように、雇用の場は提供しますが、企業が生活の場まではみられない。知的障害の人たちの場合は生活が崩れてくると、就労にも問題が出てくるので、生活支援の仕組みをきちんとつくってほしいと問題提起をさせていただきました。
 そのとき、労働省が主催したのですが、初めて厚生省と障害をもった方たちの教育を担当する文部省も入って、トータルでその問題を考える委員会を2年間続けました。その結果が地域支援ネットワークの形成という報告書で出されています。
 障害をもった方たちが就労できるときは就労して、就労ができなくなったときに福祉にスムーズに移れる仕組みが必要です。また、就労時間内は企業が面倒をみるけれど、夕方以降、地域で生活する場は福祉でみていくという仕組みができていかないと、知的障害の方たちの就労はむずかしいと思います。まさにここが、厚生労働がいっしょになってできるはずのところです。我々としても、メリットは大きいと期待しています。

新保

 厚生労働省に期待したいことは、20世紀の負の遺産を解消してもらいたいことだと改めて強く感じています。みなさんのお話を聞いていて、まだ負の遺産を引きずっているのかという気がしました。たとえば、生活の場まではみられないということをあげられましたが、精神障害者は病院から企業へ通うという社会復帰の方法(外勤作業)があったわけです。この人なら大丈夫そうだと退院させる。寄留先がないので、会社の寮などにお願いをする。会社の善意にすがってやってきたわけです。そうすると、まもなく再発してしまう。仕事上は面倒をみるけれど、生活上の問題、本人の苦しさ、悲しさなどさまざまな事柄が受けとめられずに病気の再発につながって、病院に戻ってしまうということが繰り返されていました。
 精神障害者の就労を継続させるためには生活の場の提供が重要だということで、共同住居というシステム、現在のグループホームができて、お互いが支えあう自助のシステムから生活の場をつくって、就労との関わりの中で生活上の課題を弾力的に減らしていこうとしてきています。こういった事柄は、これまでの縦割り行政では、医療・福祉のサイドでは認識されていても、雇用サイドではなじめない感覚があると思います。また、精神障害者の課題を理解していただいて受け入れてもらいたいと思いすぎていた部分もあると思います。
 厚生労働省になって、雇用という立場からその辺りへ接近してくる機会が生まれてきたわけです。逆に厚生省サイドは、就労につなげようとしていた部分について胸襟を開いていただいて、厚生労働双方が雇用のあり方について話し合い、うまい施策が展開できるようになればいいと思います。働きたいという願いをかなえる。言い換えると自己実現をはかれるようにしてあげる。自己実現をはかる過程では社会関係を維持し、発展させられるようなシステムをつくることができればという思いを強くしています。

藤村

 障害の重い人の就労ということを考えた時に、福祉の世界の人間は「こちら側」の人間だと囲いこみ、労働サイドの人間は「あちら側」の人間だと門戸を閉ざしてきた経過があったと思います。どうしたら彼らが社会の中で働ける人になるかを双方が考えられるようになれば、変わっていくのだと思います。福祉、労働、企業が協力しあって、障害をもっている人たちの雇用や就労を支えていくという仕組みができあがっていけばいいと思いますが、厚生労働省の発足で、期待できる具体的なプランは何かありますか。

新保

 平成13年度予算の中で強いて一つあげれば、地域雇用ネットワークによる精神障害者の自立支援事業があります。地域障害者職業センターが、福祉、医療、教育等々とネットワークを形成して効果的に支援を行いましょうということですが、精神障害者に限らないと思いますが、地域障害者職業センターを中枢とするという考え方ではなくて、民間企業や福祉など、その地域で中枢になれる機関が中心になってネットワーク事業を進めていくというように、柔軟に事業展開ができればと思います。
 そうすると、企業、就労支援のための専門機関、福祉、教育などが総合的にネットワークを組めるわけです。試行事業ではなくて、もっと具体的に進めていただければ、関連のトライアル就労などももっと効果的になるという気がします。

大山

 いまのお話が理想ですが、ニュージーランドでは、ワークブリッジという方式があります。ある企業が人を求めている。お役所の人は働きたい人をもっている。そのお役所の人が就労の橋渡しをするんです。設備が必要なら設備、人的な支援が必要なら支援、あるいは生活の支援、生産性からいって賃金が払いきれないなら、賃金を補填する。その人がすべての権限をもっていて、企業と対応する。企業が申請する形ではなくて、それが本来の姿だと思います。地域障害者職業センターは、まさにそうでなくてはね。

西嶋

 ジョブコーチみたいでいいですね。ハローワークの方たちがやっていただければいいと思いますが。

雇用・就労を進める新しい仕組みづくり

藤村

 今施設にいる人たちも、労働行政、厚生行政双方の支援が受けられれば、雇用の場、地域の職場にいられたのではないかと思います。彼らの雇用・就労を進めるためには、何が必要なのでしょうか。

西嶋

 知的障害の方たちの問題として、生活支援のことを申し上げましたが、精神障害の方の場合はちょっと違う側面があると感じています。たとえば治療のために休職していた方が「大丈夫だ」と言われて職場に戻ってこられるときに、ソフトランディングできる仕組みがない。お医者様に「大丈夫」と言われて就労の場に戻ってきても、医学的には問題ないとしても職場にすぐに復帰できるかというと、必ずしもそうではない場合もあり、中間的な職業リハビリテーションの場がもう一段階あってもいいのではないかという気がしています。今はその仕組みがなくて、職場に戻られてもまた発病することが多いのです。精神障害者の雇用に関する研究会では、そこの仕組みがまず必要だと問題提議をさせていただいています。新たな雇用につなげるうんぬんよりも、大きな企業ではそういう問題を抱えています。ここが精神障害者の雇用については大きな問題だと思っています。
 企業は医療または職業リハの専門家ではありませんので、働くという環境整備はできますが、病気から治ったと戻ってこられたときに、具体的なところまで配慮するのはむずかしいと思います。専門家の方たちが入りこめるような状況をつくるとか、厚生労働がいっしょになって、医療と職場の中間のところを手当てできる仕組みができればと思います。

新保

 同じ建物の中にいても、就労支援のほうはその知識の枠組みの中で就労支援を行い、生活支援は生活支援でと、視点が違うという問題もあるわけです。障害特性を熟知しながら就労支援ができるというマンパワーの育成と配置が必要だと思います。

大山

 全重協では、知的障害者の場合はグループホームなどをつくってほしいとお願いしてきましたが、精神障害者対策ではつねに医療的なケアをしてくれるところがほしいとお願いしています。雇用関係を結んでも、行ったりきたりできるような柔軟な仕組みを労働行政で考え、医療的なケアは福祉の領域で用意してくれれば、我々はもっと精神障害者の雇用にチャレンジできると思います。
 大胆に表現すると、働く部門は企業に任せてください。それ以外は、福祉がときには生活、ときには医療の面倒をみる。しかも、企業に任せるのは、雇用関係だけではなく、企業内授産とか、いろいろなものがあるわけです。施設の中に授産をつくるよりも、企業の中に授産をつくったほうが、企業にとっては教えやすいし、その人が成長すればすぐ雇用につながるわけです。本人も会社に行くほうがより意欲が出ます。
 企業本位の考え方かもしれませんが、障害者が地域の中で働きたいということを大前提に考えるなら、それが雇用の関係であっても、授産の関係であってもいいと思います。ふつうに雇用している以上の負担があるとき経済的にカバーしてもらえるなら、企業はもっともっと障害者雇用を展開すると思います。
 たとえばベルギーでは、知的障害者など労働力の対象になっていない人たちを企業に入れると、地域の最低賃金3万ベルギーフランをそっくり行政が企業に出します。企業は3万ベルギーフランを本人に最低賃金として支払い、得た収益は企業が自由に使えるという考え方です。たとえば企業内授産でも、障害者には障害基礎年金があるわけですから、基礎年金が仮に7万円とすれば、企業が5、6万円を加えれば最低賃金が確保できますよね。そういう考え方をとっていけば、企業の中で職場ができると思います。

新保

 基礎構造改革の中での民間参入が言われているわけですから、そういうシステムができてもおかしくはないと思います。

斎藤

 さきほど本人たちの就労希望の数値と地域で暮らしたいという数値をあげましたが、家族の考えはまったく逆なんです。家族の47.2%が働いてほしくないと言うのです。とくに精神障害者の場合は、まちで暮らしてほしくないが84%です。それは、本人の能力の問題と不安があるんです。安心政策が欠けている結果だと思います。
 私は障害者の人たちが働いて、自立生活をするためには、五つのことをやらなければならないと思っています。一つは所得保障です。企業や授産にすべて押しつけるのではなくて、保護雇用などの政策で所得補填をすること。2番目はバリアフリー化された住宅の確保です。三つ目は人的支援。四つ目はアクセスの問題です。五つ目に失敗したときの対応です。この五つを厚生行政と労働行政が統合してやっていただければ、かなり企業や福祉就労に結びつくと思います。
 私の法人で3年前に入所施設を廃止し、40人をまちの中での生活に移行させました。所得保障をしないと生活に結びつきませんので、賃金を平均10万円払っています。10万円と年金を合わせると年間約200万円になりますから、生活できるんです。法人で支援スタッフを3人雇いまして、支援しています。簡単なことをやらないところに制度、施策の欠陥があると思います。

新保

 ある意味では、家族がいちばん障害受容ができていないんですね。地域の方々の精神障害者に対する受容は進んではきましたが、かなりの部分で誤解や偏見があって、家族もまた同様の気持ちをもっていますので、障害受容ができていないところがあるんです。そういう根っこの部分を改善していく必要性があると思います。町中で自然に市民とのふれあいができれば、本人も自尊心が高まりますし、家族もよかったと思うでしょう。本人たちが働けるような支援が自然な形でなされていけばいいと思いますが、そういう意味では雇用にチャレンジできるとおっしゃる大山さんのお話は心強いです。

大山

 今の状態の雇用関係で、最低賃金を保障しながらどんどんやりなさいというだけではダメだと思います。生産性に見合った賃金に足りない部分は補填してほしいとか、これは企業が言うよりも、障害者に関係する人たちが「国はこういうバックアップをしてください」と言ってくださるとありがたいのですが。

西嶋

 企業は経営が成り立っていなかったら、雇用の場を提供できないわけです。そこが基本ですから、それに見合うような形で、障害をもっている方たちもぜひ働いてもらいましょうという仕組みつくっていく必要があるんですね。それは厚生労働が一緒になってグッと近づくと思うので、ぜひお願いしたいと思います。

藤村

 障害者緊急雇用安定プロジェクトを実施されましたが、どんなことを感じましたか。

西嶋

 日経連が緊急雇用安定プロジェクトの委託を受けて実施しましたが、いろいろな経験ができたと感じています。今回、成果が出せた理由の一つは「私たちが受けるからには結果を出すことが必要だし、やるからには企業のやり方でやらせていただきます」ということで、プランを立てるときに担当された労働省の方たちが「できることはやりましょう」という姿勢を出されて協力体制ができたことです。たとえば、通常だと何十枚も書類を出さないと制度を活用できないことが多いのですが、どうしても必要なもの以外は削除していったら、1枚でできたんです。企業の効率化、結果を出すということを計画段階から一緒に考えることによって、労働省の方もとてもいい経験だったとおっしゃっていました。
 このプロジェクトでも、求人・求職の窓口はハローワークでしたから、窓口の対応で全然違うということを実感しました。最初はこの制度の主旨が徹底されず利用が進まなかったのですが、制度の有効性を理解してくださったハローワークの窓口ではグーンと数が伸びてきました。行政の方も、今回のプロジェクトを通して企業もしくはNPOの感覚を取り入れると、同じ予算もうまく活かすことができるという経験をしてくださったのではないかと思いますので、今後に生かしていただきたいと思います。

斎藤

 このプロジェクトは、平成13年度からは雇用機会創出事業と名前が変わって職場実習が外されていますね。我々は、縛られない職場実習、縛られない職場体験の機会が柔軟に使えるようになっていると、安心して施設から出せるんです。それががんじがらめになっていると、不安で出られないし、出せない。短期間の実習でも、措置解除をしないといけないのですが、障害者それぞれの適性とかがあるので、対応できる幅が必要です。ですから、厚生省と話し合って、定員の5%まではリターン枠をとってありますが、もう少し幅のある対応が必要であると考えています。

西嶋

 既存の職場実習のプログラムの枠組みを少し緩めて、それを活用して1か月職場実習をして、3か月のトライアル雇用に結びつけるということで、職場実習を外したようです。雇用予約をしなくても、既存のプログラムの中で職場実習ができる仕組みをつくって、プラス3か月のトライアル雇用をすると聞いています。リターン枠も、厚生省から出向されていた労働省の方が交渉して枠がとれるようになったんです。それぞれの立場がわかっている方だからこそ、ブリッジができたという気がします。

斎藤

 わが国の雇用体系が変わってきて、終身雇用が崩れてきています。去年の労働調査でも非常用雇用者が27%という採用状況が出ていますし、近々50%を超えると言われています。企業も一歩誤れば倒産ですから、企業だけに責任を押しつけるのはおかしいと思います。常勤雇用だけでやってきた企業が、人件費削減のためにパートや派遣に切り替えているという社会背景の中で、重度の障害者を雇用してくれる企業を探すのはいままで以上にむずかしくなります。そこは、制度でカバーしていただきたいと思います。

西嶋

 そういう意味では、障害をもった方が働くということに焦点をあてて、そろそろ雇用率制度と福祉をトータルに考え直す時期ですよね。これまでの仕組みのよさを踏まえて、今後どうしたらいいかを考えるいいチャンスだと思います。

残された課題、これだけはぜひ

藤村

 これまで厚生行政の中で支援を受けていた人が労働行政の支援を受けるには、それまでの支援から離れなければなりませんでした。その間の施策の結びつきが十分にできていないというのが、これまでのご指摘だと思います。そのことをきちんと総括しておかないと、一緒になったからといって、すぐに一緒に仕事ができるとは思えないのですが、何が課題となるでしょうか。

大山

 リハビリテーションをして一人前にある程度働ける人が「働ける人」という時代ではなくて、企業の実態は、リハビリテーションの訓練体系では到底一人前には働けないという人も、機械設備の自動化等企業の対応で戦列に入っています。お金さえかければ、たとえば9人の職人でメッキをしていた仕事も、身体障害者と知的障害者一人ずつ、二人でできるラインをつくることは、日本の企業の技術力で可能にしています。重度の障害でも通勤できる人たちは、その気で企業にやらせれば、企業に経済的なマイナスさえなければ受け入れられると思います。
 働けるか働けないかは、学校や福祉のサイドで判断するだけではなくて、本当に働けないのかどうかを企業に投げかけてくれればと思います。私どものところには数がわからない、駅名も読めない人が現に通勤しています。そのような重度の人たちが働けるノウハウを、企業はもっているわけです。そのあたりを学校や福祉の先生たちにみていただきたいですね。

新保

 福祉サイドの支援のあり方、援助のあり方を見直す必要があると思います。これまでは、働けるようにしてあげるというかかわり方ですよね。障害者のほうも働けるようになりたいと思って、受動的に訓練を取得しているのが実態ですので、企業に行っても指導されたことしかできないとなってしまうわけです。
 私どもの授産施設はハサップ(HACCP:危害分析重要管理点)の認定事業所になり、民間企業と同じようなスタイルで事業をしておりますが、就労を考えるのであれば、施設サイドも視点を大きく変えて民間企業に近い環境を整えることが必要です。そこで、本人が働きたいと願っていれば訓練を受けさせ、働けるか働けないかは自己決定させればいいと考えています。自ら働けないと自己決定した場合は、働けなくても生きていく権利を保障することを考えましょうということで、運営をしています。

藤村

 厚生労働省の平成13年度の予算に、障害者の生活支援と就業支援を一体的に行う障害者就業生活総合支援事業を試行的に実施するとあります。厚生行政からのお金は生活を支えるために使われていて、それ以外には使いにくかったのですが、社会参加の視点に立ってこの事業を実施していければ、もっと積極的に使っていけるようになるのではと思います。

西嶋

 厚生省と労働省では予算の額がまるで違いますから、福祉サイドの何分の一かを就労というところに使えれば、税金として返ってくるものが大きくなるわけですから、そのこともぜひ考えていただきたいですね。

大山

 これまで厚生省と労働省がそれぞれに同じことをやっているから、重複してしまっているんですね。訓練にしても両方がやっています。

斎藤

 労働行政で、障害者の訓練校があります。月に10万円ぐらい訓練手当が出るんですが、逆に福祉行政では、セルプは利用する人が最高5万円もお金を払う。働きに行くのにお金を払うんです。だれが考えてもおかしな話です。まさに労働意欲を疎外する制度です。15年からの制度改革ではぜひ、廃止してほしいと望んでいます。

新保

 厚生行政と労働行政が分離した形ではなく、一体化した施策を推進していただきたい。併せて、これまで国がいい政策をつくっても、多くは「できる規定」ですから、地方自治体ではなかなか実施に乗り切れないとか、あるいは日本障害者雇用促進協会に委託しているのに、国の考えが十分に反映されないという疑問があります。こういった関係団体とももう少し密に連携を保っていただいて、施策が有効に動くようになってほしいという気持ちがあります。

藤村

 これまでのお話から、厚生省と労働省が別々に仕事をしてきた問題点と、一緒になったら出てくるであろうメリットについてご指摘をいただいたと思います。最後にここが課題、ここはぜひ乗り越えてほしいということがございましたら、一言ずつお願いします。

新保

 厚生省による保健所管轄の通院リハビリテーション事業で就労支援を進めて、うまくいかないので、さらに労働省の職場適応訓練を活用したいという期待を持つとしますね。ところが省庁間の縦割り行政で、いままでは通リハを利用した人は職リハを利用できませんでした。当面の課題は、当事者の就労のためにうまく活用できなかったような事柄を統合できるシステムにしていただくことだと思います。そのうえで、就労は生活を支える中でいちばん大きな比重を占めるものですから、相互支援の方策をつくっていただければと思います。

大山

 厚生省は、就労については進んだ考えをもっておられるんですね。むしろ施設の人たち、保護者がそういう考え方になってくれることを期待していると思うんです。逆に労働省は、労働行政の分野に授産施設のワークショップが入るくらいの柔軟な考えをもって、厚生省と一体になってほしいですね。人間にとっては働くことがいちばん幸せで、幸せをつくるのが福祉です。そのためにはどうしたらよいか、これをスタートとして考えていただきたいと思います。

西嶋

 企業もそうですが、担当する方で変わってしまうのではないかと思います。この方だからできたのではということがありますよね。同じお立場でも、ちょっと柔軟に考える、ちょっと違う立場からみていただくことによって、結果がものすごく変わってしまうと感じています。

新保

 人次第では、いつまでたってもノーマライズされた社会にはならないし、機会均等をきちんと保障することにはなりません。厚生労働省に変わったことを契機に、厚生・労働という枠組みを超えて、サービスを等しく保障できるような体制をつくる。そのサービスは、それぞれの障害者にとって必要なニーズをきちんと受けとめ、働きたいと願う人たちのための施策が展開されることが重要だと思います。

大山

 いまの世の中は、民間主導でいかなければいけないんです。きつい言葉で言えば、お役所の方たちは自分の考えと権限をごちゃまぜにされる。民間の人が動かないと大きく展開しないと思います。民間が主導すれば、全国的な流れを作ることができるので、ぜひそうあってほしいですね。

西嶋

 民間も、行政をうまく使うことが大事ですね。今回のプロジェクトもそうだったのですが、企業にとって「ほんとうに何が必要なの?」と考えることから、成果が出てきたんです。そういう意味では、こちら側も発信していくことが必要だと思います。

斎藤

 社会福祉法が改正になりまして、セルプの経営が平成15年から変わります。今までは施設の種別ごとに措置費がきましたが、今度は障害者本人の障害の度合いによって決まるわけです。セルプは職業リハビリテーションを目的にしている施設ですから、労働省の側面を反映させるシステムをお願いしたい。たとえば手帳制度にしても今はどちらかというと、機能障害だけをみていますが、これからは働くという条件を加味した障害認定をしていただきたい。2点目は、施設利用者は無職ですから、労働行政側からの身分保障を期待しています。3点目には資金です。労働省の助成金を使えるようになればと思います。セルプは、いまのままではいつまでたっても低賃金から脱皮できない。福祉的範疇から転換して、企業側とタイアップしながら労働行政の中でやる必要もあると思っています。

藤村

 今日は、各方面の方からの中身の濃い話をいただくことができました。この座談会を、福祉や雇用の現場にいる方たちにお伝えしたいと思います。厚生労働省の方たちにも、こういうことが期待されているのだとご理解いただけると、次の施策に反映されるのではないかと思います。今日は、ありがとうございました。