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会議

国際シンポジウム
21世紀をLDとADHDの子どもたちのために

植木きよみ

LDとADHD

 近年、テレビやマスコミで「LD(学習障害児:Learning Disabilities)」や「ADHD(注意欠陥多動性障害:Attention Deficit Hyperactivity Disorder)」のことが取り上げられるようになってきた。学校や学習塾、幼稚園、保育園でも指導にあたる先生たちがこの子どもたちの問題に気付き始めている。しかし、いまだLDやADHDに対する理解はほとんど進んでいないのが現状と言える。LDをもつ子どもたちは自分の著しく不得意な分野に悩み、何とか克服しようとしながらその方法が見いだせず苦しんでいる。さらに、外からは問題が見えにくいために理解されないというつらさも抱えている。
 このシンポジウムは、少しでも多くの人たちにLDやADHDについて、理解をしてもらい、そして、彼らにとって必要な支援のあり方はどうあるべきかということを目的に行われた。
 一方、LDの問題と平行して、ここ2~3年、ADHDが問題として取り上げられるようになった。LDの30~50%がADHDを併せもつといわれていることを考えると、LDの問題とともにADHDについても支援を考えていかなければならない。ADHDの行動の問題を考えると、教育現場ではむしろ対応に苦慮する子どもたちである。本来、LDとADHDのそれぞれの障害は別のものであり、別の対応を必要とされるはずのものであるが、教育現場では何をもってLDとするのか、ADHDとするのかが十分に理解されているわけではない。

国際シンポジウム

 今回の「国際シンポジウム:21世紀に生きるLDとADHDの子どもたちのために」は、2001年1月27日、28日の2日間、東京北の丸公園にある科学技術館サイエンスホールで行われた。当日東京は、今年一番の大雪に見舞われ、講師や参加者が無事会場に到着できるか心配された。遠方から参加する何人かは、高速バスの運転打ち切りや、電車の都合で参加できなかったが、参加予定者の90%は会場に足を運んだ。

1日目

 シンポジウム初日は『LDとADHDをしっかりと理解するために』をテーマに、第1部「LDとADHD それぞれの子どもたちのその苦しみと問題の共通点と相違点」、第2部「LDの6つの能力の中から“読む”の領域を考える」として、基調講演を行った。
 「LDとADHDの基本概念」は国立特殊教育総合研究所原仁先生により発表された。LDは学習上困難を伴う子どもたちを表現する用語として米国で生まれたのに対して、ADHDは医学的概念であり、不注意、衝動性、多動の3兆候を特徴とすることを確認したうえで、各々の経過、両者の関係、関連する障害概念などが解説された。
 「アメリカの最新情報」は、カリフォルニア大学アーバイン校ジェームズスワンソン先生から、特にADHDについての長年の研究成果と、投薬と行動療法の最新情報を聞くことができた。米国におけるこの分野での研究の奧の深さと、幅の広さに改めて敬服した。
 「アメリカの読字障害の特性と日本の読字障害の特性」「英語における音韻処理障害の指導と読字障害に対する指導」は、アメリカからマサチューセッツ総合病院保健研究所チャールズ・ヘインズ先生、日本から国際福祉医療大学大石敬子先生により発表された。読字障害はLDという概念の基礎となったものであり、米国では今でもこの分野での研究が盛んに行われている。両国の文化的背景を考慮したうえでも読字障害の中に音韻処理の難しい子どもがおり、発表は、このことを明らかにしたうえで、読字障害の子どもたちへの指導的アプローチへと移った。

2日目

 2日目は、「教室の中でのLDとADHD」と題した基調講演と二つのシンポジウムが行われた。
 「LDとADHDの子どもたちへの支援の方法」は、ホノルルにあるアセッツ・スクール校長ルー・サルザ先生が、私立、公立でのLD教育のアメリカでのシステムと、今あるLD教育の良い面だけでなく問題点を隠さずに話した。特に、最近日本でも進められているインクルージョン(障害児を一般級でいっしょに教育する)は失敗だったという発言には、いささかショックを受けた。また、今始まろうとしている、日本の特別支援教育を進める中で、アメリカでの失敗を日本で繰り返さないでほしいと強調されたことが印象的であった。
 シンポジウム1「日本の教室でのLDとADHDへの指導への実践」についてのパネルディスカッションは、東京学芸大学上野一彦先生の司会で杉並区立中瀬中学校月森久江先生、神戸市立星和台小学校岸本友宏先生、世田谷区立松が丘小学校漆澤恭子先生、特別参加の文部科学省石塚謙二氏により行われた。石塚謙二氏はシンポジウム直前に発表された、21世紀の特殊教育の在り方についての最終報告について解説し、その後、岸本、漆澤、月森の各先生が学校での取り組み、子どもたちへの支援の方法等ををそれぞれの立場から発表した。
 シンポジウム2「21世紀に生きるLDとADHDに必要な教育支援」は、わが国では、発達障害の第一人者、川崎医療福祉大学佐々木正美先生の司会で、米国から参加された3人の先生と、日本において特別支援教育を中心となって進めている上野先生と、原先生により進められた。それぞれの先生方から21世紀のLDとADHDへの支援について、システムの問題、技術的な開発を進め、医学的に根本から改善できるような努力、提言がなされたが、この子どもたちへの早期介入と、適切な判定を下せる専門家、そして、適切な指導のできる指導者、教育者を養成していくことが最も大切なのではないかという2点に集約されたように思う。
 また、成功体験を勝ち得にくい子どもたちに、いかに多くの成功体験を与えていけるかが課題であり、この課題を日々自分に問いかけながら子どもたちと接してほしいという司会者、佐々木先生の言葉でシンポジウムの幕を閉じた。

(うえききよみ 社団法人神奈川LD協会)