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アジア太平洋における107項目の実践状況

佐藤久夫

14か国の障害者団体リーダーによる評価

 「107項目の目標」とその前身の「73項目の目標」(注)とは、細分化・具体化された目標であるばかりでなく、達成年次も組み込んだ目標(time bound targets)であり、おそらく国連の他の地域にはないユニークなツールあるいは武器と言えます。にもかかわらず、ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)自身も個別政府も、これを活用しての具体的な達成状況評価を行っていません。
 そこでRNN(アジア太平洋障害者の十年推進NGO会議、事務局は日本障害者リハビリテーション協会内)が、1999年秋に「障害者団体の視点で見た達成状況評価」を行うことにしました。成果と残された事項を整理して最終年までの課題を明確にするためであり、また、政府やESCAPのいっそうの取り組みをプッシュする意図も込められていました。
 以下の報告は、2000年に「107項目の目標」に修正される以前の1995-1999年に使われていた「73項目の目標」に基づく評価です。

 調査の回答者はRNNの国別会員団体の代表または役員とし、調査票を23団体(つまり23か国)に送付し、14団体からの回答を得ました。73項目の目標のなかで、今回の調査に使われたのは、目標年が1998年までとなっている55項目のみとしました。また、行動課題の中の12番目の領域、「地域協力」は、主としてESCAPが行うべき目標であるので、今回の調査項目には含めませんでした。
 そして複雑さを避けるために、各項目の目標年次内に達成されたかどうかにかかわりなく、1999年秋の調査回答時点において達成されたかどうかのみを質問しました。評価は4レベルのどれかを選んでもらう方法によって行いました。

レベル0:

 まったくあるいはほとんど対策が取られていない(0点)

レベル1:

 やや実行されている(1点)

レベル2:

 かなり実行されている(2点)

レベル3:

 完全にあるいはほぼ完全に実行されている(3点)

 今回の調査では団体としての公式の評価ではなく、代表または代表が指名した主要な役員の個人の意見を集めました。時間の制約のもとで最大の回収率を確保するためでした。ただし回答にあたっては一部の状況のみでなく、全国的な視点で評価するよう要望しました。なお結果の公表にあたっては回答者の氏名、役職、団体、国を付記することをあらかじめ断って調査しました。

日本の達成度が最も高い

 国別には日本(55項目の平均2.56点)、オーストラリア(2.15点)、中国(2.10点)などの回答者の評価が高く、ネパール、バングラデシュ(いずれも0.29点)などで低くなりました(図1)。

図1 国別平均評価点

図1 国別平均評価点
出典:アジア太平洋障害者の十年推進NGO会議編・発行「アジア太平洋障害者の十年の到達点」2000年3月

 14か国全体の平均は1.36点で、半分達成を意味する1.5点にも届いていません。評価の対象は1998年までの目標、つまりアジア太平洋障害者の十年の最初の6年間で完了すべき55項目でしたが、これが1999年秋(7年目)の時点でも、全体として50%の達成にも達していないと評価されたことになります。
 なお、今回の調査方法に規定されて、ここには実際の達成度とともに回答者の主観的な評価、あるいは「満足度」も反映されていると考えられます。たとえば、各領域の障害者施策がかなり進んでいる香港特別行政区のほうが中国よりも達成度が低い、と評価されている点などにそのことがみられます。

国民の啓発が一番遅れている

 「行動課題」の領域の中で平均して最も達成度が高いと評価されたのは、リハビリテーション・サービス(1.52点)、自助組織(1.49点)で、最も低かったのは国民の啓発(1.12点)、次いでアクセシビリティーとコミュニケーション(1.20点)でした(図2)。

図2 領域別平均評価点

図2 領域別平均評価点
出典:アジア太平洋障害者の十年推進NGO会議編・発行「アジア太平洋障害者の十年の到達点」2000年3月

 常に重視され、かつ予算的にもそれほど多くを要しない国民の啓発の領域の評価が低かった点が印象的です。またアクセシビリティーとコミュニケーションは障害者の社会参加の手段として基礎的なものであり、これらの評価点が1に近いということは「やや実行されている」程度と評価されていることを意味します。
 前述のように、50%実行が評価点1.5点に相当するので、これを何とかクリアしているのは「リハビリテーション・サービス」のみということになります。「リハビリテーション・サービス」領域の五つの「目標」は、すべてCBR(地域に根ざした住民参加のリハビリテーション)にかかわるもので、これへの障害者の参加が十分ではないとはいえ、政府としてCBR推進の計画を一応は立てて進めていることから、比較的多くの国からの回答が「レベル2」(かなり実行されている=2点)となったものです。
 個別目標を見ると、目標2.6「関税法を見直し障害者のための物品を免税とする」が平均2.00点で最も達成度が高く、次いで目標5.5「既存の法令に障害者のための環境改善を組み込む」が平均1.93点、目標11.1「障害者の自助団体の全国フォーラムを設立する」が平均1.79点となっています。
 最も達成度が低いと評価されたのは目標4.4「『十年』記念の初日カバーと切手を発行する」で平均0.5点でした。これは特に実施したかどうかが明確な項目です。

 新たな「107の目標」はさっそく日本語に翻訳され、それを使って日本の実情を11人の障害者団体役員が評価し、2000年12月のキャンペーン会議(バンコク)で報告しました。それを聞いた参加者たちは、日本でもまだ「半分も達成していない」と評価されたことに少し驚き、安堵しつつ、2001年のベトナムでのキャンペーン会議では、自分の国からも評価結果を報告し交流したい、と口々に述べていたとのことです。

(さとうひさお 日本社会事業大学教授)


(注)

 本誌では、ESCAPのホームページで公表されている「73」に統一した。