音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

ブックガイド

SSTのためのおすすめ本

前田ケイ

 近年、精神障害者のリハビリテーションの方法としてソーシャル・スキルズ・トレーニング(SST)が注目を浴びています。
 SSTは本人の希望を何よりも大事にし、その希望の実現のために、いま学習が必要な認知と行動は何かを当事者と一緒に考え、一つひとつ具体的な練習を積み重ねるなかで、当事者が確実に希望の目標に近づいていくために援助する方法なのです。
 日本には、1988年にSSTが本格的に紹介され、それ以来、全国的に広がってきました。SSTについての論文や本は次第に数を増してきました。代表的なものをいくつかご紹介します。

1.入門・初心者向き

1)「生活技能訓練基礎マニュアル」R.P.リバーマン他(安西信雄監訳)創造出版、1990
 SSTセッションの始め方、練習場面の構成、練習課題の設定、フィードバックの方法などが、シナリオや図解を使って丁寧に説明されています。
2)「SSTの進歩」SST普及協会編集、創造出版、1998
 基本的な理論と技法の解説、練習課題を導きだす工夫、デイケア、入院病棟、職業リハビリテーションをはじめとする多様な現場での応用、評価方法など実践のための豊富な手がかりが示されています。
3)「事例で学ぶSST」高柴哲次郎、皿田洋子ら福岡県SST研究会編、日総研、1999
 簡潔なSSTの基礎理論の紹介をはじめ、多くの実際のセッションの事例がシナリオとして採録されており、参加者のSSTを通しての変化が把握できるよう工夫されています。
4)「SSTウォーミングアップ活動集-精神障害者のリハビリテーションのために」前田ケイ、金剛出版、1999
 SSTの練習がスムーズに展開できるよう、セッションの始めに準備活動として行われるウォーミングアップ活動が60種類も紹介されています。
5)「わかりやすいSSTステップガイド上巻・下巻」A.S.ベラック他(熊谷直樹/天笠崇監訳)、星和書店、2000
 上巻はSSTの基礎的な理論、SSTグループの始め方、行動評価の方法、基本的技法、個人の課題や目標の設定方法、カリキュラムによる学習のすすめ方、トラブルの対策、リーダーのコツなどのノウハウが学べます。下巻は、会話する、ほめるなどをはじめとして就労関連技能まで48の技能領域を取り上げ、すぐ役に立ちます。

2.中・上級用

1)「わかりやすい生活技能訓練」宮内勝ら東大生活技能訓練研究会、金剛出版、1995
 基礎理論から、SSTを導入するときのスタッフの養成方法、参加者の選び方、セッションの構成と運営の仕方、家族の支援や職業リハビリテーションに応用した具体的な指導例などが示されています。
2)「地域生活支援のSST」八木原律子ら、医学書院、1997
 SSTの基礎知識の解説のほか、「生活スキル」「職業的スキル」「社会生活向上のためのスキル」に分けて、それぞれに具体的な練習課題とシナリオ入りの事例が豊富に紹介されています。
3)「精神障害者の生活技能訓練ガイドブック」R.P.リバーマン(池淵恵美監訳)医学書院、1992
 SSTについての本格的な解説書であり、指導スキルの熟達をはかるための必読書です。
4)「SSTと心理教育」鈴木丈・伊藤順一郎、中央法規出版、1997
 リーダーが実技を学習しやすいよう理論に併せてモデルを多く示し、解説は図解を用いて分かりやすくまとめられています。
5)「リバーマンー実践的精神科リハビリテーション」R.P.リバーマン(安西信雄/池淵恵美監訳)創造出版、1993
 精神科リハビリテーションについて包括的に、コンパクトにまとめられた実践的な教科書です。精神科医療とリハビリテーションの全体像のなかで、SSTの果たす役割を明らかにしています。

3.ビデオ教材

 SSTには学習パッケージとして、指導者のためのマニュアル、学習者のためのワークブック、指導教材としてのビデオが一揃えになったモジュールとして販売されているものがあります。わが国ではリバーマン教授らが作成したものが丸善から翻訳され、販売されています。服薬自己管理モジュール、症状自己管理モジュール、会話のモジュール、余暇の過ごし方モジュール、社会生活再参加モジュールなどが丸善から販売されています。また、行動療法的家族指導(BFM)と訳されている家族支援のよいビデオが同じシリーズで丸善から発売されています。
 一番新しいSSTのビデオは3巻からなっている「生きる力を創る―SSTの理論と実際」(SST普及協会監修)です。第1巻はSSTの理論と役割、第2巻はSSTの基本的技術、第3巻はSSTの実際で、全国各地の当事者がエンパワーされていく実際のSSTの様子は、見る人に深い感動を与えることでしょう。制作はジェムコ出版株式会社です。

おわりに

 SSTは決して精神障害者のものだけではありません。身体障害者も知的障害者も、さらには、その援助にあたる人々にもSSTの方法は有効です。現在では、法務省でも非行少年の矯正教育、犯罪者の更生保護のためにSSTを取り入れています。

(まえだけい ルーテル学院大学社会福祉学科教授)