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一緒に働き、お互いを認め合う
─日本マクドナルドの実践─

 「ダメなことはダメ、いいことは褒める。そしてお互いを認める。コミュニケーションをとることにより、お互いを認めあう気持ちがでてきて、チームの雰囲気がよくなるんです」。日本マクドナルド株式会社人材開発部の佐藤博さんは障害のある人が職場に入ることは、職場の人間関係にプラスになると言います。
 障害者雇用を始めた1990年ころを種まく時期とすれば、93年ころは基礎を固めていった時期、その後、芽が出はじめた啓蒙期、そして今は成長期に入っていると言います。現在の障害者雇用は、213人で全体の約4パーセントを占めています。
 日本マクドナルドはマニュアル教育で有名ですが、障害のある人の教育といっても特別なものは用意しません。アルバイト用の教育マニュアルを使います。
 新人研修はトレーナー役として店長とアルバイトのリーダーが担当します。本人のサポート体制は、本人を中心に企業と家族・親御さん、学校の先生・ジョブコーチやカウンセラーの三点を結んだものを「成功のトライアングル」と呼び、それぞれの役割分担をはっきりさせて、ネットワークづくりを進めています。
 採用にあたっては、まず障害のある人を受け入れる環境にある店舗をリストアップし、本人の希望をあわせて実習先が決まります。2週間の実習を経て本人がその店舗で働きたいかどうか、店舗のほうは受け入れられる環境であるかどうかが、採用のポイントとなります。企業としては、長く働き続けてもらうことは、将来の重要な戦力として期待しているためです。
 昨年は65人の実習のうち48人が採用となりました。そのうちの2人が働くお店におじゃまして店長にお話をうかがいました。

落合店の田内三之さん

 落合店に勤務するのは、田内三之さん。中野区障害者事業団を経て、今年の3月から採用されました。落合店店長の井上健さんにお話をうかがいました。お店で田内さんと顔が合ったとたん、とてもいい笑顔で応えてくれました。田内さんの勤務時間は、午前9時から午後4時まで。週休2日制ですが、2日行って1日休み、また3日働くという形態です。これは店長と相談して決めました。
 受け入れにあたっては、同じ職場で実習を行ったので、田内さんもアルバイトの人たちもお互いに顔を知っているし、田内さんの仕事ぶりもわかっているので、お互いにリラックスして受け入れることができました。働き始めて3か月たったいま、だいぶ仕事にも慣れてきたようです。食べ物を扱う仕事なので、作業の手順を守ることは大切です。手順を守るよう時々声かけをします。現在は、勤務時間帯の同じアルバイトが田内さんに声をかけます。
 「いままでは田内さんのペースに仕事を合わせてきましたが、これからは自分たちのペースに合わせてほしいと思っています。今までは、トレーニング期間でした。言われたことをやるだけでしたが、これからは田内さんの持っている能力を引き出していきたいと思っています」と店長の井上さんが話してくれました。

中野店の角裕介さん

 中野店で働くのは、角裕介さん。養護学校を卒業して4月から採用されました。月曜日から金曜日の午前9時から午後4時まで働いています。角さんは口数が少なく、黙々と仕事をこなすタイプです。
 店内ではクルーたちは、オーダーが入ったことやその受け答えはマニュアルに決められた英語を使うことになっていますが、角さんに対しては「○○を一つお願いします」「○○できました」というような声かけをしています。また、角さんは自分から声をかけないので、回りから角さんに声かけをします。数の計算に弱いので、その点を注意していますが、それ以外は、一般と同じようにしているそうです。
 角さんの場合は、まだトレーニングの段階です。でも一人ひとりの持つ能力は異なり、その人に合ったペースで伸ばしていこうという会社の方針があるので焦りはありません。まじめに働く姿は、他の学生アルバイトよりも良いと店長の十川朝江さんは話してくれました。
 またお母さんと相談して、毎日連絡帳をつけています。その日にあったことや起きたことを伝えています。
 十川さんは、障害のある人を受け入れることについて最初は戸惑いがありましたが、その人に合った対応をすればいいということが分かってから、「特別」と考えなくなりました。
 一人ひとり能力が違い、それぞれに合った働き方がある、という考え方は、一緒に働くアルバイトの疑問に答えられるためにも、大切なことだと言います。

 日本マクドナルドでは、障害をもつ人の雇用について特別に考えるのではなくて、本人の持っている能力を引き出すことができれば、それは本人にとっていいことだし、会社としても戦力として期待している点は企業的な見方で新鮮に感じました。そのためにもみんなが働きやすい職場の環境づくりを大切にしています。

(文責 編集部)