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二次障害考

ポリオは過去の病気ではない
─ポリオの会結成と会の広がり─

柴田多恵

 今から7年前のことです。神戸市の「しあわせの村」で開かれていた「障害者テニススクール」。そこで私は生まれて初めて、同じポリオにかかった人に出会いました。
 ずっと普通校で過ごしてきたために、ともすれば自分の歩く姿からも目をそむけていた私が、初めて素直に認めた障害者というスタンス。動かないですむようにと、目の前に返されてくるボールを、笑いながら、のびのびと打ち返すことができた私に、「やっとその気になったね」と、あの日の青空が、すばらしいご褒美をくれました。
 それが、このポリオ会でした。「ミニスカートがはきたかった」「ハイヒールもはいてみたかった」という思い。口に出しても仕方のないことだけれど、「ほんまやね」と共感してもらった私の喜びはとても大きく、それまでに味わったことのないものでした。もっとたくさんの人とその思いを分かち合いたい、そう思った私は、1995年の4月、朝日新聞の朝刊に、「ポリオの女性の会を立ち上げました。一緒にリハビリをしませんか。悩みを語り合いませんか」という呼びかけを載せていただきました。そのときは、たった二人。ささやかなスタートでしたが、掲載されたその日から、わが家の電話は鳴り続けました。またたくまに関西を中心に150人ぐらいの方たちと知り合うことができたのです。
 この広がりは、「あなた一人ではないよ」という大きな心の支えをくれましたが、さらにもう一つ、「ポストポリオ症候群(PPS)」という二次後遺症の問題があることも教えてくれたのでした。「ポストポリオ症候群」に関する基礎知識を、一人でも多くのポリオの後遺症をもつ人たちに伝えたいと、私は考えるようになりました。痛みが出ているにもかかわらず、トレーニングなどをして悪化させてしまうというような悲惨な例が、後を絶たないことが分かってきたからでした。
 そして再度、朝日新聞の記者の方にお願いし、1998年5月、「ポリオの痛みふたたび」という記事を全国版に掲載していただきました。この記事の効果は絶大で、会は全国に広がりました。そして3年後の現在、各地の会を横に結ぶ「全国ポリオ会連絡会」を立ち上げるべく、皆で準備をしています。
 私たちの悩みは、ポストポリオに関して、まだ何も知らない人(ポリオの後遺症をもつ人たちの中にも、また医療関係者の中にも)が多いということです。全国に47000人いると言われるポリオ体験者にこの情報を伝えたいと、昨年の夏には、「ポリオとポストポリオの理解のために」という冊子を作成して、2700冊の本が私たちの元から次々に飛び立っていきました。
 かくいう私たちも、会をはじめた当初はポストポリオについてまったく無知で、神経内科を受診したらよいということさえ、知りませんでした。40歳を過ぎてから徐々に衰えてきた筋力に対して、言い知れぬ不安にさいなまされてきた多くの人たちが、この「ポストポリオ」の概念を知って納得し、こんな症状を抱えているのは、自分一人ではないと分かったときの安堵感は、計り知れないものがあったにちがいありません。無理さえしなければ、マヒした手足を長持ちさせることができるという知識の普及は、ポストポリオの予防にもなります。
 いっそうの情報伝達をという思いから、今春、リーフレットも作り、全国の保健所に置いていただきました。福祉関係、病院等、このリーフレットを置いていただけるところをさらに広げていきたいと思っています。
 あのテニスコートでの出会いは、たった1人との出会いではありませんでした。1200人もの方々との出会いを私に与えてくれました。そして、障害は辛いものとして生きてきた私の人生を、180度転換させた、すばらしい出会いだったと思っています。

二次後遺症(PPS)はなぜ起こるのか

 二次後遺症が起きる原因はひとえに「頑張りすぎ」だと思います。どうして、私たちは頑張らなくてはならなかったのか。なんでも健常者と一緒にすることを良しとされ、健常者なみをめざすよう叱咤激励されてきたからだと思います。一方、私たち自身の中にも、自分の障害を認めたくなくて、何でもできると肩肘を張ってしまう傾向があったことも否めません。しかし、頑張らなくては許してもらえない社会が厳然として存在するから、特に労働の場面では顕著に現われるから、頑張りすぎた人たちが疲れて、ポストポリオを起こしがちなのだろうと思います。
 最後に、私の心のつぶやきを聞いてもらいたいと思います。それは、「障害を越えて」という言葉に疲れているということです。障害は「越え」なくてはいけないものなのでしょうか。健常者と同じスピードで歩けと言われれば、それは無理ですから、私は「障害者」ですが、自分のスピードでかまわないとなれば、私には何の「障害」もないことになります。健常者を基準にして、その差を縮めるよう頑張れと鞭打つのではなく、障害をもった私をまるごと受け入れてほしいと思うのです。
 どんなに努力してもできないことはできません。障害そのものを認めていただけたら、どんなに気持ちが楽になることか…。これは、ポリオに限らず、障害をもつすべての人の願いだろうと思います。
 私たちのこれまでの頑張りを語ることは、その背後にある社会のひずみを明らかにしていくことにもつながるように思います。そうすることが、私たちの責務であり、生きてきた証なのではないかと、最近は思いはじめました。
 二次後遺症の問題は、単に身体的な問題のみにとどまりません。よりいっそう多くの方々のご理解とご支援をお願いいたします。

(しばたたえ ポリオの女性の会代表)

◎ポリオの女性の会URL

 http://member.nifty.ne.jp/shibatatae/