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障害の経済学 第19回

障害者の所得保障
その2

京極高宣

はじめに

 前回(第16回)、私は障害者の所得保障に関して、ごく簡潔に、わが国の歴史的経緯および現状に関して述べてみました。しかし、障害者の所得保障についての在るべき方向性に関しては全く触れておりません。その理由は、この問題は社会保障の在り方とかかわる意外に難しい政策的議論を必要とするテーマであるからです。したがって、今回も必ずしも十分に議論を展開できるかどうかわかりませんが、ひとまず私なりの在るべき論を述べてみることにしましょう。

1 障害者の生活費

 はじめに、障害者の生活保障について考える前提として、障害者の生活費自体がどのような特徴をもっているかを概観してみる必要があるでしょう。
 障害者の生活費は、図のように一般の国民の生活費(基礎的生活経費と呼ぶ)だけでは足りず、障害に伴う各種の諸経費(車いす代、介護費その他)が余分にかかります。その中には、福祉用具などのように目につく経費ばかりではなく、反応、行動が遅いことから余分にかかる見えざる費用も含まれます。それを加算的生活経費と呼ぶと、障害者の生活費は(A)基礎的生活経費+(B)加算的生活経費となり、一般の国民の生活費よりも(B)の部分だけ大きくなります。
 次には障害者の生活保障の在り方は、(A)+(B)のどれぐらいをカバーするべきかという議論(残余部分の在り方)につながってきます。

図 障害者の生活費と経済的生活保障

図 障害者の生活費と経済的生活保障

2 障害年金の意義

 言うまでもなく、今日の障害者の所得保障は、昭和61年度改正以降の障害年金を中心に組み立てられています。この障害年金の意義は給付水準や無年金者などの議論に入る前に、しっかりと確認しておく必要があります。障害者を同じ国民の一員として正当に位置付け、障害者の生活保障(2級)を高齢者の基本的生活保障(基礎年金)と同様に位置付けたからです。
 昭和60年の国会で年金改革法が通過し、改正法が公布されましたが、その改革骨子の一つに「障害者に対する所得保障の充実を図る視点から、20歳前に障害になった者にも20歳から障害基礎年金を支給するほか、障害年金の大幅な改善を図ること」(厚生省50年史(記述編)中央法規、1988年、1529頁)が盛り込まれていました。これは、昭和56年(1981年)の国際障害者年を契機に所得保障を含む障害者の総合的な生活保障対策の必要性が認識され、国がそれに答えて、制度改革を粘り強く検討した結果でした。
 こうした新たな装いの障害年金は、従来の障害福祉年金の水準を基礎年金(障害等級2級と同額)並みに引き上げ、20歳以前から重い障害のある者にも、無拠出(国負担6割)で障害年金を支給することを可能にしました。これは、先の経費的意味で、基礎的生活経費部分(A)に相当する給付水準であり、重い障害のある者に対する加算的生活経費(B)には障害年金加算(1級は2級の1.25倍)および特別障害者手当が対応しているとみてよいでしょう。

むすびにかえて
─将来方向は障害年金で

 もちろん、加算的生活経費は障害者の障害程度のみならず、家族状況やその他の条件によってさまざまです。必ずしもすべてが経済的な生活保障の対象となっているか否かも一概にうんぬんできません。実際には6割から7割かもしれず、その分は稼得収入などで補う必要があるかと思われます。もちろん、障害程度そのものは重くなく、ほかの要件で年金が少ない者には厳密には、生活保護による補充は十分に可能です。
 いずれにしても、今日の障害者の生活保障体系は経済的には従来の姿とは一変しており、多少の改善はともかく、将来方向としても障害年金を中心に育成されていくべきであると考えます。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)