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障害の経済学 第20回

障害者の所得保障
その3

京極高宣

はじめに

 障害者の所得保障でしばしば見落とされるのは、所得控除等の税制上の配慮についてです。これは、一般に障害者に限りません。社会保障の議論では、その給付水準にのみ目が奪われ、所得控除等の税控除部分が忘れられがちなのです。そこで今回は、障害者の所得保障の一環としての減税制度について言及してみることにします。

1 減税支出

 財政学上で、所得控除等の本来は余分の課税があるところを取らないで、まけてあげることを減税支出(tax expenditure)と呼んでいます。これは、社会保障給付のようにプラスの給付を与えるものではありませんが、本来支払うはずの税金を減額したりして、事実上の反対給付として与えることを意味します。こうした減税支出の最も進んだ国はアメリカですが、わが国でも高度経済成長期にさまざまな減税支出策が生まれました。一般的には、社会保障給付は税金をほとんど払えない低所得階層に有利で、減税支出はかなりの税金を支払う中高所得階層に有利だと言われていますが、今日では、(A)社会保障給付と(B)減税支出を総合した所得保障総額((A)プラス(B))を見なければ、不正確で一面的といったそしりを免れません。
 そこで、障害者の所得保障(所得水準ではない社会保障額)は単純化してみると、(A)プラス(B)となります。

図1 障害者の所得保障の全体


2 所得控除の類型

 先に(A)と(B)とでは、所得階層上のギャップがあると述べましたが、具体例で見てみることにしましょう。ここに甲さん、乙さん、丙さんの3人の所得階層上の低い順に、独身の重度の障害者がいるとします。ちなみに年間所得が甲さんは0、乙さんは360万円、丙さんは1200万円と仮定すると、甲さんは障害年金プラス生活保護で月10万円(年額120万円)の社会保障給付を得ることができ、税控除の恩恵にはあずかりません。
 乙さんは、特別障害者手当3万円(年額36万円)を社会保障給付(課税対象外)から得て、約80万円の所得控除のために、課税対象は280万円となり、税率が中所得のため10%とすると、28万円を年間、所得税として支払うことになります。とすれば、乙さんは本来は年間所得360万円の10%、つまり36万円分の税金を28万円で済ませたのですから8万円の反対給付を受けた結果となり、合計で36万円プラス8万円、計44万円の年額の所得保障を受けたことになります。
 他方、丙さんは、特別障害者手当の所得制限のため給付は受けられませんが、約80万円の所得控除のため、1120万円が課税対象となり、税率が20%とすると、224万円を納税することになります。が、本来は240万円のところ、年額16万円の給付を受けたことになります。以上を図示すれば次のようになります。

図2 障害者所得保障の類型


 上の事例はあくまで分かりやすくするために単純化した図ですので、実際には、丙さん以上の高所得階層の人が扶養控除などさまざまな税控除を受けて、中低所得階層よりもたくさんの反対給付を受けている事態もしばしば見受けられます。
 1960年代後半のイギリスにおいて、故R・テイトマス教授が厳しく指摘したように、低所得階層への社会保障給付の陰で、中高所得階層が減税支出のおかげでより大きな反対給付を受けている矛盾が存在することがままあるのです。

3 障害者に関する現行税制上の特別措置

 さてわが国における障害者に関する税制上の特別措置に関しては、障害者本人および被扶養者に関するもので、5種類(表)あります。その主たるものは所得税法(第79条)に基づく障害者控除で、約41万6000人の方が恩恵(約4000億円)を受けています。そのほかに地方税や相続税などにおける各種控除が多数あります。ちなみに、個人住民税に対する障害者控除は、表のようになっています。
 また運賃割引などの障害者に対する優遇措置は、前回触れた加算的生活経費に関するもので、国レベルのものだけで17種類あり、それに地方自治体の単独事業を加えると相当数に及んでいます。したがって、今日の障害者の所得保障は、その質的水準においては必ずしも十分でなくとも、発展途上国に比べれば、施策のきめ細かさでいう量的水準においては、かなりの高い到達点に達していると言えます。これをいかに公平に再整理するかが、障害者福祉の課題です。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)

表 障害者に関する租税上の特別措置一覧

事項 根拠法令条項 内容
障害者控除 所得税法
 第79条
 居住者又はその控除対象配偶者若しくは扶養親族が障害者に該当する場合には所得金額から次の金額を控除する。
○一般の障害者の場合(1人につき)27万円
○特別障害者の場合(1人につき)40万円
同居の特別障害者に係る扶養控除等の特例 租税特別措置法
 第41条の14第1項
 特別障害者が居住者やその配偶者、居住者と生計を一にする親族のいずれかとの同居を常況としているときは、配偶者控除及び扶養控除として通常の控除額に35万円を加算した金額を所得金額から控除する。
障害者控除(個人住民税) 地方税法
 第34条第1項6
 第314条の2第1項6
 納税義務者又はその控除対象配偶者若しくは扶養親族が障害者に該当する場合には所得金額から次の金額を控除する。
○一般の障害者の場合(1人につき)26万円
○特別障害者の場合(1人につき)30万円
同居の特別障害者に係る扶養控除等の特例(個人住民税) 地方税法
 第34条第4項6
 第314条の2第4項
        第5項
 特別障害者が納税義務者又は納税義務者と生計を一にする親族等のいずれかとの同居を常況としている場合には、配偶者控除として56万円(70歳以上の場合61万円)を、扶養控除として1人につき56万円(特定扶養親族及び70歳以上の父母などである場合68万円)を所得金額から控除する。

出展/厚生省社会・援護局障害保健福祉部調べ