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実践・住民参加のまちづくり
東京都における住民参加のまちづくり

菊地美智子

1 福祉のまちづくり条例の理念

 都は平成7年に福祉のまちづくり条例を制定し、さらにその後の少子・高齢社会の急速な進展や福祉を取り巻く状況の大きな変化に対応するため、本年1月に条例改正等を行いました。
 条例は、都がめざす福祉のまちづくりについて、都民、事業者、行政の三者が協働することにより住み慣れた地域に住み続け、働き、学び、遊ぶことのできる生活を地域で支援するしくみを整え、社会のあらゆる分野に福祉的配慮が行きわたったまちを築くことであるとしています。
 この協働によるまちづくりを担保するため、条例は次のとおり、それぞれの責務を定めています。
 都の責務として条例第2条で、「事業者及び都民の参加と協力の下に、福祉のまちづくりに関する基本的かつ総合的な施策を策定したうえで、事業者及び都民の意見を反映することができるよう必要な措置を講ずるものとし、区市町村の福祉のまちづくりに関する施策の実施に対し、支援及び協力を行う」こととしています。
 また、事業者の責務として条例第3条で、「事業者は、その事業活動に関し、施設及び物品並びに提供するサービスについて自ら福祉のまちづくりを推進する」として自主的な取り組みを要請しています。
 さらに、都民の責務として条例第4条で、「都民は、福祉のまちづくりについて理解を深め、自ら福祉のまちづくりに努めるとともに、相互に協力して福祉のまちづくりを推進する」と定めています。

2 福祉のまちづくり地域支援事業

 都はこの福祉のまちづくり条例の理念を実現するための施策として、平成9年3月の福祉のまちづくり推進協議会の答申により、平成10年度から福祉のまちづくり地域支援事業を、新たに予算化しました。
 この事業は、答申にあるとおり、「地域住民の参画のもとに推進するよう、区市町村に福祉のまちづくり協議会(仮称)を設置して、都民、事業者、行政の参加と協働による地域の推進体制を整備していく」とし、「自治会等の組織や高齢者、障害者等が参加する自主的、自発的な団体等の活動に対して支援し、みんなで支え合う環境づくりを進めていく」との提案を受けて事業化したものです。
 事業内容は、区市町村が1.しくみづくり、2.普及推進活動、3.バリアフリー化推進事業の三つを一体的に行い、区民や事業者の意見を取り入れた福祉のまちづくり条例に基づく施設整備に対し、以下の補助基準に従い支援を行うものです。
 補助の内容としては、都民、事業者との協働体制および広報活動等を充実するために、1.しくみづくりに1自治体当たり年額1500万円、2.普及推進活動に1000万円を補助基準額としています。
 また、3.バリアフリー化推進事業の補助基準額は1億円(ただし平成13年度事業着手の区市町村については1億5000万円)で、地域の実態に即し高齢者、障害者等が自由で安全に移動できるようバリアフリー化の面的整備について重点的に支援を行うとしています。

3 世田谷区の取り組み事例

 世田谷区は平成7年に「世田谷区福祉のいえ・まち推進条例」を、平成11年には「バリアフリー世田谷プラン21」を策定し、福祉のまちづくりに関し積極的に取り組んできた自治体です。
 また、まちづくりにかかる区民意識も高く、都が理想とする協働体制が整っています。
 世田谷区では、地域の特性に合ったまちづくりを進めるため、公共性、必要性、実現性、主体性といった選定指標に基づき、成城学園前駅周辺地区など区内5か所を推進地区とし、重点的にバリアフリー化整備を行うこととしました。
 さらに、地区ごとにワークショップを設置し、まちの現状などについて調査点検を行うほかアンケート実施など、地域住民等の参加による活動を幅広く実施し、地区ごとに推進地区整備計画を策定しました。
 続いて、ワークショップでの提案により、整備方針を立て、バリアフリー化整備を着実に実施しています。
 こうした取り組みのなかで、「昨年よりも今年のほうが、まちづくりにかかわることが面白くなってきた」「緑道の工事が始まってわくわくしながら完成を待ったが、でき上がってから歩いてみて、足下の感触の良さなど本当に感激した」「自分の住んでいる環境が少しずつ良くなっていく手応えを感じている」などの感想が参加者から寄せられています。
 このように区民とともに課題を抽出し、バリアフリー化を行うプロセスは、一見、大変迂遠な方法に見えます。しかし、行政の視点でなく、区民の視点で行うことにより区民にとって満足度の高い施策が実現できることがうかがえます。
 さらに、こうした区民、行政によるまちづくりが活発になる過程で、事業者もバリアフリー化に対し積極的になってきています。
 グリーンのレトロな路面電車が有名だった東急世田谷線が、平成13年に全線バリアフリー化を達成しました。
 東急電鉄では、古い車両をすべてバリアフリー仕様の新型車両に更新するとともに、全線10駅のホームを改良し、電車とホームの段差を少なくする工事を完了しました。
 車いす使用者や、ベビーカーを使う乳幼児連れのヤングママに対しても配慮され、利用者サービスが向上したといえます。

4 福祉のまちづくりの今後の展開

 都は昨年12月に、行政がコントロールするサービス提供システムを改革し、高齢者や障害者などが地域のなかで必要なサービスを選択し、可能な限り自立した生活を送ることができるよう、利用者本位の福祉を実現するため福祉改革推進プランを策定しました。
 このプランで福祉のまちづくり地域支援事業も、バリアフリー化緊急整備事業として計画化し、平成16年度までに全区市町村での取り組みを目標に、重点的・集中的に支援することとしています。
 福祉のまちづくり条例の理念に基づく、このような福祉のまちづくりが、都内全域で推進されれば、だれもがいきいきと暮らせるまち東京が実現できると期待しています。
 今後、都はこの事業の拡充に努め、自分の住むまちを愛してやまない活動に、都民が幅広く参画できるよう、連携の輪を広げていきたいと考えています。

(きくちみちこ 東京都福祉局生活福祉部地域福祉推進課福祉のまちづくり係)