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良薬は口に苦し

佐賀善司

 つれあいには、私の他にもう一人つれあいがいる! アイメイト(盲導犬)のアプカ、5歳、ラブラドールの雄。人年齢で32歳の彼は、若さではモチロン容姿でも(「アプカ」は鹿を指すアイヌ語で、名前が示すとおり彼の脚はすらりと長い)好感度においても私をはるかに凌駕しているらしく、バス停などで「ステキなワンちゃんですね」と話しかけられることはあっても「ステキなご主人ですね」と言われたことはついぞない。
 彼が「ステキなワンちゃん」状態をキープしているのは、本人(?)の才能もさることながら、盲導犬に必要なしつけ、規則正しい食事、毛並の手入れや歯みがきといったことにふだんから心を砕いているつれあいの努力によるところが大きい。「わんぱくでも、お行儀が悪くても、君がいてくれたら、それでいいんだ」とは思っていても、ペットお断りの場所への立ち入りを許され、電車やバスへの乗車が認められている盲導犬である以上、それは許されない。アプカの誕生日にはお祝いのケーキぐらいあげたいとも思うけれど、一度それをしたら、ケーキを見るたびにもらえることを期待するようになるだろう。同居人としては辛いところだが、考えてみれば、飼主でもない私がねこかわいがりするのは無責任な話で、愛情表現を抑制した一貫した態度で接することで良い関係が続くように思う。
 盲導犬が注目されるようになって久しいが、正しく理解されているとは言えないようだ。といっても、ホテルやレストランで立ち入りを拒否されるケースがあることに、いまさら憤慨するつもりはない。そういうケースはいまだに後を絶たないし、その原因が経営者や支配人の無理解である場合が多いのも確かだけれど、これじゃあ断られて当然という「盲導犬」がいるのも事実だ。犬が悪いのではない。飼主のしつけや衛生管理がいいかげんだと、訓練されたエリート犬も駄犬になってしまう。
 これまで盲導犬に好意的な人も含めて、社会はこうした無自覚な使用者に忠告することを避け、黙って眉をひそめてきたのではないだろうか。視覚障害者は周囲の反応が分かり難いだけに、善意の忠告はありがたいのだ。
 そうして、使用者・訓練施設・受け入れ側の間で、視覚障害者の役に立って社会に受け入れられる盲導犬はどういうものか、についてのコンセンサスが構築されることを願っている。盲導犬はマスコットではなく、社会が育てる実用犬なのだから。

(さがぜんじ 岩手県立点字図書館)