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障害の経済学 第23回

障害者行政の統合説と分離説

京極高宣

はじめに

 すでに述べたように平成13年1月6日に省庁再編の一環として、厚生省と労働省が統合され、厚生労働省が誕生しました。当初、障害者の保健福祉と労働が統一的に対応できるなど関係者の期待はまことに大きなものがありました。しかし、半年余りたった今日、そうした期待は半ば実現し、半ば未達成の感があるのは否めません。そこで再び、厚生労働省の発足に想うところを述べてみることにしましょう。

1 障害者の雇用と保健福祉の統合化

 私は、拙書『この子らを世の光に』(NHK出版2001年2月)で、厚生労働省の誕生を次のように前向きに期待しています。
 「労働省と厚生省が一緒になる利点の一つは、障害者の就労問題の解決である。従来は、一般雇用では労働省、福祉的就労では厚生省と、こういう二つに分離されていたのである。これを一体で取り組むことができる。」(同上、69頁)
 しかし残念ながら、現実は依然として縦割行政の弊害は残ったままであることから、次のようにも指摘しています。
 「今般の省庁再編の方針に入っていないものの、仮に当初は無理だったとしても、その後はぜひやらなくてはいけないと思うのは、障害者の雇用促進の分野で、職業安定局に行ったり、他のところに行ったりして、たらい回しにされているのを解決することである。労働省の当該部門と厚生省の障害保健福祉部などがくっついて、本当は一つの局にしなくてはならない。一つの局にしてリハビリ局などの名称でもいいけれども、障害者の保健、福祉、就労というものを一体として扱っていく。例えば一般雇用で失敗してまた福祉的就労に一時的に戻ってきて、また一般雇用に出ていってもいいという柔軟な就労システムをつくらないといけないと思う。」(同上)
 こうした指摘は必ずしも十分に検討されたものではなく、今後は政策的に詰めた検討作業がなされなければなりません。両部門の統合と分離に関しては、長所と短所をリアルに見つめて方向づけを出していく必要があります。

2 統合と分離の長所と短所

 言うまでもなく、障害者行政の関連部課の統合化は、行政内部の事情が複雑に絡むだけでなく、現実政策の有効性のうえからも軽々に論じることはできません。そこで、対象的な理念型を図式化して私見を述べてみることにしましょう(図)。

図 厚生労働省障害者行政における労働と福祉の統合と分離の対称表

本項 \ 案 統合説 分離説
1.政策継続 ×(→△) ○(→△)
2.企業対応 ×(→△) ○(→△)
3.高齢者就労との連携 ×(→△) ○(→△)
4.リハと就業の連続 ×
5.障害者のアクセス ×
6.市町村の取り組み ×

(注)○×は各々に適合するものと不適合なものを示す。

 作業仮説として、次の六点のチェック項目、すなわち(1)政策継続、(2)企業対応、(3)高齢者就労との連携、(4)リハと就業の連続、(5)障害者のアクセス、(6)市町村の取り組みをあげてみることにしましょう。
 結論的には、現状では統合説と分離説とは各々、長所短所がほぼ半ばしています。しかし、将来的にはどうでしょうか。たとえば、(1)政策継続性は時間が解決する問題で、ザインを意味してもゾレンを示しているわけではありません。新しいリハビリ局(仮称)が権限をもって実力をみがけば解決されますし、(2)企業対応も障害者雇用促進法の所管が定まり、企業内授産等が進行していけば、企業との接点は拡大します。また(3)高齢者就労との連携関係も年金局や老健局とのつながりが強いだけに、障害者雇用はむしろ相対的に独立した分野になるのが望ましいのではないでしょうか。
 とすれば、現状でも長所である(4)リハと就業との連続、(5)障害者のアクセス、(6)市町村の取り組みやすさといった三点に関しては、統合説に軍配があがります。統合説の短所といったもの(1)~(3)は、当面の課題としては政策的考慮を必要としますが、将来の課題としては、むしろ短所(ないし少なくとも長所でないもの)に変わる可能性が大きいものばかりです。
 このように分析的に考えていくと、私ども福祉関係者が直感的に、統合説に魅力を感じるのではなく、実証的に議論できます。特に障害者が住み慣れた地域で仕事に就いていくには、市町村の積極的な取り組みが不可欠ですので、都道府県になじんできた労働行政から職業リハ、雇用促進などを切り離すほうが現実的だと思います。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)