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もっと読まれるために~広報誌・機関紙診断

野沢和弘

コンセプトとニュース性

 読ませていただいた約30誌はどれも中身の濃いもので、編集者の熱意や意欲が強く伝わってきました。しかし、ほんの少しの工夫でもっと読者は付いてきます。「必要な情報がたくさん載っていることが大事なんだ」という意見もあるでしょう。しかし、忙しい読者にその情報が必要だと思わせることは意外に難しいものです。いくら必要でも読んでくれなければ何もなりません。
 以下は私なりに、広報誌・機関紙を制作するうえで重要なキーワードを挙げて考えてみました。30誌すべてにコメントできなかったことをお許しください。

 だれのために書くのか、何のために書くのか…という「コンセプト」が明確でしっかり伝わってくるものがわかりやすい情報(誌)です。全国大会やブロック大会などの様子を紹介した記事がよくありますが、式次第や来賓の名前やアトラクションを説明するだけで、大会の目的や意義まで掘り下げて読者に説明している記事はあまり多くはありません。
 親の会の課題や目的を特集で執拗に掲載している「ことば」(全国言語障害児をもつ親の会)は制度改革への提言もわかりやすく示し、明確な目的意識を感じます。「いとしご」(日本自閉症協会)、「あみ」(全国精神障害者地域生活支援協議会)なども会員のために誌面作りをしている誠意が伝わってきます。ただ、内向けの「会報」としては申し分ないけれど、社会の動きを視野に入れたニュース性が希薄な点がやや物足りない、そんな機関紙が多いと思います。
 その中で一面に「死後半月以上経って発見ろう男性の遺体」など、一般の新聞の社会面に載っているような記事を大きく掲載している「日本聴力障害新聞」(全日本聾唖連盟)は異色です。聴覚障害者にとって切実な事件であり、だれのために書いているのか…というメッセージ性も感じます。会の活動や制度改革や行政への要望は、すべてこのような同時代の現実を背景にしていることを強烈に突きつけてきます。
 ニュース性は情報の新しさだけが問われているのではありません。リアルタイムで視聴者に情報を届けられるテレビ、半日単位で情報を届ける新聞、1か月ごとに情報を届ける月刊誌では、ニュース性は異なります。世の中で起きている森羅万象の何をニュースとして読者に届けるのか。つまり、読者が知りたがっている情報、知っておくべき情報をいかに早く的確に読者に知らせるか、がニュースの生命といえます。そして、情報の価値はニュース性と普遍性という両極端の概念で成り立っているのです。

情報の確度と深さ

 書かれている内容がどのくらい真実なのか、それを読者が的確に判断できるような書き方をしているのかどうか、は大変に重要なことです。真実性の高い情報であることが原則ですが、どのくらい真実性が高いのかを客観的な根拠で示して読者に納得してもらえるかどうかも重要です。「事実」と「真実」と「本質」は似て非なるものです。書かれている事実がどのくらい真実性が高くて、ものごとの本質にどれだけ深く迫っているのかが、その情報誌の価値を高めるものさしといえるでしょう。「ぜんかれん」(全国精神障害者家族会連合会)、「TOMO」(きょうされん)をはじめ、さりげない記事や特集に深さを感じる機関誌は少なくありません。

わかりやすさ

 明確なテーマ、わかりやすい文章、効果的な写真やイラスト、クリアな紙面構成…。ひとことで「わかりやすさ」と言ってもその内実はたいへん複雑なものです。しかし、わかりやすさとはこうした視覚的な要素だけではなく、書く側・編集する側がその情報についてよく理解していること、どうしてもその情報を読者に伝えたいという思い、情報の送り手がいかに受け手の側に立ってものを見るセンスや力量や思いやりがあるか、などが実は「わかりやすさ」の本質です。

問題提起する力

 月刊誌などのメディアは速報性よりも今の時代にとって必要なことを読者にわかりやすい切り口で問題提起する力量が、そのメディアの価値を大きく左右します。企画力、独創性などがこの「問題提起する力」の本質です。「JALSA」(日本ALS協会)は厚生労働大臣などへの陳情だけでなく、実際に副大臣から届いた手紙を現物の写真で掲載するなど、政治や行政へ働きかける会の活動を明快に読者に紹介しています。各病院の診療報酬実績をデータで示すなど、会員への情報提供にとどまらず、社会に対して問題提起する意欲が感じられます。

おもしろさ

 なんと言ってもおもしろくなければ情報誌は読者から支持されません。おもしろさとは読者によって違いますが、娯楽性、ストーリー性、あるいは紙面から感じる明るさ、楽しさ、躍動感みたいなものかもしれません。福祉業界に一番欠けているのは「おもしろさ」かもしれません。

注意を喚起するセンス

 これだけ情報が満ち溢れている時代なので、ちょっと見た時に読者の注意を喚起することができるかどうかは重要な点です。忙しい読者にとっては、たくさんある情報の中で自分が求めているもの、おもしろそうなものを直感的にわかるレイアウト、カット、イラスト、写真、キャッチコピー、見出しなどはとても重要です。「われら自身の声」(DPI日本会議事務局)は文字ばかりがぎっしり並んだ印象の強い誌面で、一般読者にはとっつき難さを感じさせるのではないでしょうか。ニュース性といい鋭角的なコンセプトといい、レベルの高い内容だけに、レイアウトに工夫があればもっと世間一般に読まれる情報誌になると思います。
 「日本オストミー協会」(日本オストミー協会)、「福祉『真』時代」(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会)、「銀鈴」(銀鈴会)、「脊損ニュース」(全国脊髄損傷者連合会)なども意欲的な誌面には感心させられますが、全体のレイアウトに物足りなさを感じます。その点、「波」(日本てんかん協会)は小さな写真の使い方一つひとつにまでセンスの良さが光っています。

親しみやすさ

 これだけ価値観が多様化し、また、読者の教育水準や情報量が高まっている時代にはそれにふさわしい情報誌が求められています。これまでの啓発や教育やオピニオンリーダーとしての役割よりも、むしろ読者と編集側の意見のやりとり、あるいは読者同士の議論や情報の交換といった機能が重視されています。いわゆる読者と編集者との「双方向性」です。

公正さ

 ある意見があり、それに対する異論がある時、両者を平等に掲載することは公正です。ある特定の意見や主張を控えて客観的な事実のみを掲載することも公正です。しかし、公正さの本質はもう少し深いところにあります。「少数の正論」に対して「多数の暴論」が対抗するケースは日常生活のレベルでも結構あるものです。両者に同じ分量のスペースを与えて両論併記することは、一見すると公正に見えるかもしれませんが、そうではありません。賛同者の多寡ではなくて、いかに正論か暴論かを見極め、どんなに抵抗されても正論を掲載することが公正なのです。そして、編集者にとって歓迎されない批判や意見でも読者のために掲載すること、そして筆者や編集者がだれであるのかを明記し、読者にたいして説明責任をきちんと果たしていることも公正さにとっては重要なことです。読者にわかりやすい内容と手続きにおいて公正さを担保する必要もあるでしょう。

写真

 1枚の写真が世界を変えることがジャーナリズムではよくあります。ベトナム戦争の現実をアメリカの市民に突きつけ反戦の世論を盛り上げたのは、戦場で命を落としながらシャッターを押し続けたカメラマンたちの大きな仕事でした。アメリカで大規模入所施設の解体を進めたメディアによるキャンペーンでも、写真が大きな役割を果たしました。
 それぞれの機関誌を見て感じるのは、大人が立ったままカメラを構えているアングルの写真が目立つことです。地面に寝転んで被写体を見上げたり、被写体の息がレンズにかかるくらい近くに迫ったり、いろんなアングルを試みると、自分が写そうとしている人(物)の思いもよらない魅力的な「顔」が見えてくるものです。「AIGO」(日本知的障害者福祉協会)は熟度の高い洗練された誌面ですが、訪問記の写真の中に“もっと魅力ある写真が撮れるのになあ”と思えるものがあります。娯楽性や注意喚起力や公正さなど総合的に最高水準にあるだけに目立ちます。

(のざわかずひろ 毎日新聞記者)