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『あせび会だより』

佐藤エミ子

 あせび会(稀少難病者全国連合会)は1977年に結成しました。この名称の通り、結成当時から単独で患者・家族会のない疾患を対象にし、その中でも特に数が少なく、同病者を求めにくい方々の同病者探しの受け皿活動に重点を置いてきました。従って会員の病気は実にさまざまであり、会員構成も先天性の病気の子どもを持つ20代の若い母親から、70代後半の患者本人まで幅広いのが特徴です。現在の会員数は1700人余り、登録疾病数は100を超えています。
 『あせび会だより』はこれらの人々を対象に、年6回発行している機関誌です。会の結成直後から続けており、今年11月で通算129号を数えます。発行の唯一の目的は、会員の相互理解を深めることです。そのため、会員からの投稿の掲載に力点を置いて編集しています。
 一つは「情報交換コーナー」の設置。これは「こんな病気の人」「あんな病気の人」がいますよとお知らせし、その人が何を望んで入会してきたかを知らせることによって、異なった病気や障害をもつ人々の共通点をお互いに確認することが大切だと思って設けました。とはいえ、プライバシー保護と秘密厳守が基本の患者会において、果たしてこの欄に投稿者はいるだろうか、問題は起きないだろうかと、不安を抱えてのスタートでした。
 当初は、病名と病気の簡単な解説を掲載したこともあります。しかし、それは「家庭医学書」的であまりに味気なく、会員の生の声が伝わらず、活字を視線が上滑りしていくのを感じました。とにかく、孤独な患者・家族の生の声を届けたい、その一心だったのです。
 その場合、こちらから原稿を依頼すると、「読まれる」ことを意識して本音が薄れ、どうしても「美文化」されます。そこで、どんな会かまだ正確にわかっていない、入会時点の原稿を採用しています。入会時には申込書とともに、これまでの経過と現状を記入する用紙も出してもらっています。その用紙の最後に、「あなたの知りたいこと、不安などをご記入ください」 と、箇条書きで5項目設けています。それをまとめ、再構成して掲載するわけです。
 用紙には、何か良い治療法はないか、この辛い現状を少しでも分かってほしい、という会員の切実な願いが詰まっています。一人ひとりが必死に書いたものですから、専門的に整理された文章よりも、もっと人間味のある「生の文章」です。もちろん、当事者の了解を得て掲載しています。この欄を通して同病者が見つかり、会員同士の輪が広がっていくのです。こうした趣旨ですから、原則として投稿者の住所や氏名も載せています。
 インターネットの時代に入り、その気になれば、どんな情報も簡単に入手できるようになりました。一時は、この欄の役目は終えたかとも思いましたが、何の虚飾もない「生の声」が訴えるものは、やはり人の心を揺るがすようで、反響もたくさん来ます。そこに手作りの味が出ているように思えます。
 これに対し、「寄せられたお便り」というコーナーもあり、こちらは古くからの会員による近況報告が主です。同時に、新しい会員の方々に勇気と希望を与えるものでもあることから、継続して掲載しています。
 子どもの病気の経過、医療相談会や宿泊交流会の感想など、内容はさまざまです。当会の紹介で同病者が見つかった、良い医師にめぐり会った、子どもの状態が良くなった、などという便りをもらうと、私も本当にうれしくなります。
 数年前、会員のアンケート調査を行ったところ、一番読まれているのは「情報交換コーナー」と「寄せられたお便り」であり、医療相談会などでたびたび質問の出る遺伝子治療、出生前診断など、社会性のある記事はあまり関心がないことが分かりました。そうしたニュースは新聞やテレビ報道が重視されており、より詳しく知りたい人はそれなりに勉強しているためと思われます。どちらのコーナーも、毎回、各3~5本ぐらい掲載していますが、これからも会報の“目玉”コーナーにしていくつもりです。
 職業や年齢などさまざまな会員に、いかに読んでもらえる紙面にするか、いろいろ苦労はありますが、会報全体については、ただでさえ「不安」の多い患者・家族の不安をあおるような記事は避け、気軽に何となく読んでしまったという読後感を味わってもらえるような編集を心がけています。その意味で、誤字脱字も息抜きと気安さにつながる、などと勝手に思いながら、素人の手作り会報を続けています。

(さとうえみこ あせび会会長)