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ブックガイド

指で楽しむ絵本の世界

岩田美津子

1.点訳絵本をご存知ですか

 点訳絵本とは市販の絵本を見える人、見えない人が一緒に楽しめるように工夫されたものです。透明な塩化ビニールシートに文章を点訳し活字部分に貼り付け、同じシートを絵の形に切って絵の上に貼ったり、形が取れないものは説明文を添えるなどの工夫をしています。これは1冊1冊ボランティアの手作りによって作られているものです。最近ようやく、公共図書館の児童室や障害者サービスコーナーで少しずつ備えられるようになってきました。
 「ふれあい文庫」では、この点訳絵本を約6000冊備え、全国の視覚障害者に郵送による貸出サービスを行っています。今年創設18年目を迎えますが、そのきっかけは20余年前、全盲の私がわが子に絵本を読んでやりたいと思ったことからでした。当時はまだこの点訳絵本はどこにもなく、わが子になんとかして市販の絵本を読んでやりたい、と試行錯誤を重ねているうちに透明な塩化ビニールの存在を知り、1981年にこの点訳絵本が生まれました。
 私の膝の上に絵本を広げ、喜ぶ子どもの姿を見て、私はもっとたくさんこんな絵本がほしいと思い、ボランティアの手を借りて無我夢中でその数を増やしていきました。それが100冊を超えた1984年の春、他のお母さんたちにもこの喜びを味わってほしいと願い、文庫開設に踏み切ったのです。
 当初は読者に郵送するのに書籍小包料金がかかり、活動の輪はなかなか広がりませんでした。1987年にその問題も解決し、点字図書同様に無料でやりとりできるようになり、今では年間5000冊を超える貸出を行っています。こうした業務をはじめ、運営はすべてボランティアによって行われており、120人を超えるボランティアがそれぞれの仕事に取り組んでいます。
 文庫を利用していただける方は視覚障害者ご本人か視覚障害者がいる家庭、視覚障害者が在籍あるいは利用している施設や団体です。利用の申し込みは、電話・ファックス・郵便いずれでも受け付けています。

2.触って楽しめる絵本のいろいろ

 このようなボランティアの手作りによる絵本は点訳絵本だけではありません。ほかに触る絵本、布の絵本、点字絵本などがあります。
 触る絵本は主に見えない子どもたちが楽しめるように工夫されたもので、布や毛糸、プラスチックや木片など、できるだけ実物に近い色と手触りの材料を使って、絵の形を平たく作り台紙に貼り付けてあり、文章も活字と点字で表示されています。
 布の絵本は、さまざまな障害をもつ子どもたちが楽しみながら、指先の訓練にも生かせるよう工夫されているものです。布の台紙に手触りの異なる布やフェルトで作られた絵が、スナップやマジックテープで取り付けてあり、それを動かしたりして遊べるようになっています。文字は紐や細い布で形取りして取り付けられ、触って読めるように工夫されています。
 点字絵本は視覚障害者の中でも、点字使用者に絵本の楽しみを伝える目的で作られていると言ってもよいでしょう。これは無地の点字用紙に絵本の文章を点訳し、頁下段か隣りの頁に絵の様子を点図で表したものです。最近パソコン点訳が普及し、点図が表しやすくなったことから、この点字絵本作りも次第に広がってきているようです。
 これらはすべて手で触る絵本であるために、ひっくるめて「点字絵本」とか「触る絵本」と呼ばれることがよくありますが、このようにそれぞれ作り方も目的も違いますから、一つずつ区別して理解していただきたいものです。

3.書店に並ぶ点字付き絵本

 最近、絵の形が触って分かり、文章も活字と点字で印刷されている絵本が、わずかではありますが出版されるようになりました。これを手作りの点訳絵本と区別するため、私は「点字付き絵本」と呼ぶことにしています。
 絵の輪郭を細い線で浮き出し、文字は活字と点字で表示された絵本はすでに20年余り前に何冊か出版されていますが、これは単色で、どちらかと言えば見えない子どものために作られていると言ってもよいでしょう。そんな絵本を利用しながら、私はやはり見えない人だけではなく、みんなが楽しめる絵本が書店や図書館に並んでいてほしいと願い続けました。
 そして1996年の秋、作家・出版社・印刷会社の協力を得て、合成樹脂インクを使って絵の形と点字を盛り上げた初のフルカラーの絵本『チョキチョキチョッキン』(出版:こぐま社、3000円+税 発行:てんやく絵本ふれあい文庫)を出版することができました。これは大きな反響を呼び、公共図書館はもとより学校図書館でも備えられ、小学校では点字学習の教材として活用されているところもあります。これがきっかけとなり、その後数社から類似の絵本が出版されています。たとえば『サワッテゴラン』シリーズ全3巻(岩崎書店、1900円+税)、『赤塚不二夫のさわる絵本よーい どん!』(小学館、2000円+税)、『ゆかいなどうぶつ』(福音館書店、3000円+税)などです。一度手に取って楽しんでみられてはいかがでしょうか。

(いわたみつこ てんやく絵本ふれあい文庫代表)