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カウントダウン AP10年

―オープニングシンポジウム―
「明日のデジタル放送に期待するもの」

アジア太平洋障害者の十年最終年記念フォーラム

井上芳郎

1 開会

―シンポジウムの趣旨と意義―

 「アジア太平洋障害者の十年」最終年の2002年を目前にし、さらに21世紀を展望するそのオープニングとしてシンポジウムは開催された。冒頭、キャンペーン委員長・松友了氏(全日本手をつなぐ育成会)から、「このフォーラムでは欠格条項撤廃、障害者基本計画策定、情報バリアフリーの三本柱を立てキャンペーンを進めており、今回はデジタル放送の開始を見通して情報バリアフリーの問題に焦点を当てたい」との趣旨説明があった。組織委員長・八代英太氏(衆議院議員)からは、「国連での障害者の権利決議、国内では障害者基本法を主軸に拘束力を持たせた全米障害者法(ADA)のような議員立法への動きの中、『最終年』には三つの国際会議が日本で開催される。本日はその幕開けとなるもの」との特別講演があった。最後に河村宏氏(日本障害者リハビリテーション協会)から、「現行のテレビ放送は2003年から2011年までにすべてデジタルに切り替わる。残された時間は少ないが、デジタル放送がすべての人にとって真にバリアフリーなメディアとさせるため、必要な規格化や技術開発が急務である」との基調報告がなされた。

2 講演

―デジタル放送の展望と障害者への情報アクセス保障―

 海外招聘を含む演者3氏から講演があった。

マーク・ハッキネン氏(W3CWAI研究開発グループ議長)
 現行のテレビ放送ではアクセシビリティの問題は、いわば「システムの隙間」を利用して後から付加されたものである。しかし、今後進展するデジタル放送では、最初から技術の主要部分として考えるべきである。デジタルテレビではさまざまな放送フォーマットや標準が検討されるだろう。一方Webアクセシビリティでは、W3Cで策定されたSMILが重要な標準となる。このSMILはWeb上でマルチメディアを実現し、かつ画像や音声とテキストの同期が図れるプログラム言語である。今後Webとデジタル放送の技術やコンテンツが統合されるにあたり、国際標準としてさらに注目すべきである。

ブロール・トロンバッケ氏(スウェーデン読みやすい図書基金所長)
 「読みやすい図書」がなぜ必要か。それは民主的な「権利」であるということ。すべての人が障害の有無にかかわらず、文化を享受し情報に自由にアクセスできることが大切である。それは障害をもつ人のQOLを高め、社会参加を可能にする。政府は情報を提供するために全力をあげ、テレビ・ラジオ局や新聞社等のサービス提供を奨励すべきである。また、これらサービス提供を保障する情報機器やソフトウェアの開発も重要で、国際標準であるDAISYやSMIL等が採用されていくことが必要である。

澤野明郎氏(NECパーソナル企画本部・アクセシビリティ担当)
 パソコンでのテレビ視聴の可能性を検討した結果、スマートビジョンという商品を開発提供している。付加価値の一つとして字幕放送や文字放送を表示させることを実現した。スマートビジョンでは、ユーザー側で字幕の色や書体はもちろん、字幕スタイルそのものの設定も可能である(会場ではこの後、実際にリアルタイムで字幕付き画面を視聴した)。

3 パネルディスカッション

―デジタル放送の可能性と課題―

 海外招聘の2氏に、竹下義樹(日本盲人会連合・弁護士)、坂上譲二(全日本ろうあ連盟)、金子健(日本知的障害福祉連盟)の3氏を加え、河村宏氏のコーディネートにより、今後のデジタル放送の望まれる姿を軸に「情報バリアフリー」の問題について、フロアからの発言も含めて、以下のような討論がなされた。
▼竹下 「情報アクセス権はきわめて基本的な民主主義の問題である。ところが障害者の場合、権利としてではなく、いまだに福祉の問題とされることには違和感を覚える。デジタル放送では双方向性を付加させることで、情報アクセスの選択肢が増えることに期待したい」
▼金子 「今まで知的障害―自閉症・学習障害等もそうだが―の人たちの情報アクセスの問題は後回しにされてきた。知的あるいは認知の障害ゆえの情報保障の質的な難しさという、単に技術的な問題にとどまらない問題があることは事実だが、今後のデジタル放送でもぜひ検討されるべき重要な課題だ」
▼坂上 「日本では字幕放送は残念ながらまだ少ない。これは技術的な問題というより局側の財政的な事情によるもので、現行制度では字幕放送が努力義務であることが原因となっている。デジタル放送では聴覚障害者のニーズに基づくシステム作りが求められるが、実際に情報保障を担う人たちの養成が急務である」
▼フロアから 「運動機能障害者にとっては、デジタルテレビのリモコンやインターフェースの中で最初から考慮してほしい。またコンテンツの問題では、多チャンネルの特性を生かして手話や字幕や点字での出力というような、障害別の個別ニーズに対応できるようにしてほしい」「学習障害は学齢期に限っても数パーセントの出現率であり、潜在的ニーズは大きいはず。また、学習障害者は単一ではなく、さまざまなタイプの困難とニーズをもつ人たちの総称である。デジタル放送のコンテンツやインターフェースが、個々のニーズに応えられるものになってほしい」
▼トロンバッケ 「確かにさらなる実験的な試みが必要。障害者のより具体的・個別的ニーズにどう応えるか試みていきたい。その一方で市場性も大切で、これは利用者数の増加で企業も理解できるようになる」
▼ハッキネン 「アメリカでは法的な整備が進んだことや政府の奨励もあり、企業の市場性理解が進んでいる。歴史的にみるとこのような事実はある」
▼河村 「障害者の情報アクセス権保障については、法的な縛りと同時に、企業・放送局・当事者団体等による研究開発や先導的試みを活性化するため財政的助成も必要。デジタル放送のインターフェースやコンテンツに対する、新たな視点からの要望が提示されたことも今回のシンポジウムの収穫であった。アジア太平洋障害者の十年最終年に向け、さらに議論や取り組みが深まることを期待したい」

4 フロアから参加しての感想

 最近、デジタル放送やハイビジョン受像器に関するニュースを耳にすることが多い。しかし、もっぱら「高画質」とか「臨場感」に関するものが主で、情報バリアフリーの観点から語られることは少ないように思う。今回のシンポジウムに参加してみて、デジタル放送には、ユーザー側のさまざまな個別的ニーズを満たすだけの潜在的能力が秘められているとの印象をもった。しかし、この能力をどう引き出せるかは今後の課題であり、今回シンポジウムでも繰り返し語られた、「民主的権利」としての「情報アクセス権」の保障にもつながっていくのだろう。

(いのうえよしろう 障害者放送協議会委員・全国LD(学習障害)親の会)