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障害の経済学 第25回

障害福祉サービスの特性について

京極高宣

はじめに

 いわゆる福祉サービスについては、すでに述べたようにそれをサービス生産過程と捉えることが重要です。今回は、障害児者福祉(以下、障害福祉と略す)の分野に限定して、そのサービスの経済的特性についてみることにしましょう。さしあたり医学リハビリテーション等の医療サービスは、今回の検討の対象外とすることは、あらかじめおことわりをしたいと思います。

1 サービスとは何か?

 障害福祉サービスの性質について考察する前に、まずサービスの経済的特性について概観しておくことは必ずしも無駄ではないと思います。
 サービスの定義については、財貨と異なり、さまざまな見解がありますが、ここでは古典派経済学の代表としてマルクスを取り上げてみることにします。
 マルクスは、『資本論』第一巻で「サービスとは、商品のそれであれ、労働のそれであれ、ある使用価値の有用的働き以外の何ものでもない。」と述べていますが、前者のタイプには機器のレンタルなどが含まれ、後者のタイプには対人サービス(サービス労働)などが代表となっています。こうしたサービスの中で、後者の対人サービスに関しては、生産過程と消費過程が不十分なところが最大の特徴となっています。つまりサービスの生産は、生産されると同時に利用者に消費されるのです。そこから、例えば長田浩氏が指摘しているように、次のような属性をサービスはもつことになります。
 「サービス財の基本特性としては、よく言われるように、無形性、一過性、非貯蔵性および不可逆性の4つを挙げることができる。」(長田浩『サービス経済論体系』、1989年、新評論、83頁)
 ここで、(1)無形性とは、固定的な形をなさないこと、(2)一過性とは、その提供が1回で終わること、(3)非貯蔵性とは、物財と異なり貯蔵がきかないこと、(4)不可逆性とは、取引をもとに戻せないことを指します。ただし、厳密には、電気やガスなどは、(1)と(2)の性質を有し、物財には全くないサービス特性は(3)と(4)ということもできます。
 いずれにしても障害福祉サービスも他の福祉サービスと同様に、右のような特性をもっていることは確認しておいてよいと思います。

2 障害福祉サービスの特性

 しかしながら、障害福祉サービスの特性は、サービスの一般的特性に限定されないいくつかの特徴をもっています。
 第一に、情報の非対称性についてです。医療ほどではないにせよ、知的障害者などはしばしばサービス提供者と比べて情報量が圧倒的に不足し、利用者と提供者との間に、情報の偏りがみられることです。この点は、専門職が担うサービスとして、ある意味では当然のこととされています。
 第二に、サービス利用者が必ずしも低所得者でないとしても、経済的に困難を抱えるケースが多く、また、その他にも身体的・精神的なさまざまなハンディキャップを負っていることです。そこから、従来は、利用者を社会的弱者と捉える見方が一般的となったわけです。
 第三は、右の第二点とのかかわりで一般の経済市場におけるサービスではなく、何らかの政策的な制約による準市場(いわゆる政策市場)に置かれていることです。そこには、財源からも税金か保険かが関与しています。
 第四に、サービス生産過程は、医療と比べても、労働集約性がきわめて高いところが特徴です。医学リハを除けば、障害福祉サービス・コストの大部分は人件費であり、教育サービスに酷似しています。
 以上、右にみた障害福祉サービスの特性は、ある意味では、福祉サービスのそれとほぼ同様と言えますが、それ以上に顕著なところがいくらかあると言えます。

むすびにかえて-障害者の立場からのサービス展開

 さて、私たちは、こうした障害福祉サービスの経済的特性を踏まえて、いかなるサービスを提供していくべきかを考えてゆかねばなりません。
 第一と第二の特性からは、障害者やその家族の立場から、親切かつ有効な情報提供や相談に応じることが必要不可欠です。
 また第三の特性からは、行政的な仕組みを十分に考慮に入れることが必要です。利用料その他利用者にとって有利なところは最大限に生かし、障害者の生活支援に役立てなければなりません。
 さらに、第四の特性からは、個人であれ、チームワークの場合であれ、サービス時間のより効率的な活用が重要であり、特に施設や在宅サービスで集団で対応する場合(チームワークの場合)には、スーパービジョンがその要石となります。そこに、今日的なソーシャルワークの役割発揮のひとつが求められることになります。
 しばしば社会福祉学で日常的に福祉専門職の役割として指摘されていることも、経済学的には、障害福祉サービスの経済的特性にゆえんするものです。そのことを、今後私たちは再認識するべきかもしれません。
 特に、措置制度から利用契約制度(支援費制度)に社会福祉の基礎構造が転換されつつある現在、障害福祉サービスの質的向上と並んで、その効果的、効率的運営が求められています。そこでは、サービス経済的な視点は不可欠と思われます。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)