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列島縦断ネットワーキング

宮城
「第1回福祉セミナーinみやぎ」開催

小野隆一

 平成14年1月26、27日、宮城県松島町で宮城県福祉事業団主催による「第1回福祉セミナーinみやぎ」が約500名が参加して開催されました。テーマは「自立訓練ホームをとおして見えてきたもの」について、熱心に討議されました。
 シンポジウム1では、「自立訓練ホーム事業の有効性と課題」というテーマで、同様の事業を比較的大規模に実施している長崎県コロニー雲仙の松村真美氏、伊達市生活援助センターの小林繁市氏、宮城県船形コロニーの吉川正憲氏による実践報告と、助言者に宮城県障害福祉課長の黒田秀郎氏、コーディネーターは宮城県福祉事業団福祉部長の渡辺次男氏により討議されました。
 鼎談では「地域でのあたりまえの生活をめざして」というテーマで、千葉県知事の堂本暁子氏から精神障害福祉分野、秋田県鷹巣町長の岩川徹氏から老人福祉分野、宮城県知事の浅野史郎氏から障害福祉分野における地域生活支援について夢を語っていただきました。
 シンポジウム2では、「支援費・契約制度と自立訓練ホーム」というテーマで、厚生労働省社会保障担当参事官の河幹夫氏、滋賀県社会福祉事業団企画事業部長の北岡賢剛氏、宮城県福祉事業団理事長の田島良昭氏、コーディネーターとして大阪大学大学院教授の大熊由紀子氏により、これまでの措置制度から支援費・契約制度に移行する中で、「地域生活への移行」という目標に向けて、今後の入所施設の役割および在り方等について、ご提言をいただきました。

○宮城県から基調報告の中で、次のような現状の課題を報告しました。
 宮城県では、自立訓練ホーム事業を、「入所施設利用者の地域生活への円滑な移行、及び利用者の生活の質の向上を目指して、措置のまま、基本的には施設敷地外で、しかも少人数(4~6人)で、より現実に近い形で生活する形態」と定義づけて、四つのパターンを用意しています。
1.グループホーム移行を前提とする型
2.本人・家族の不安を払拭する体験型
3.地域に出る前の施設内での訓練・体験型
4.高齢・重度者を対象とした、より質の高い生活を送る型
 この事業の位置づけは、国の事業としての「自活訓練事業」のバリエーションの一つと考えています。その違いは、経費について、自活訓練事業では、国庫補助がありますが、自立訓練ホーム事業では、その財源の基本を措置費として、不足する部分については、利用者自身の自己負担および親の会からの資金援助でまかなっています。また、自活訓練事業は、期間を6か月間と限定していますが、自立訓練ホーム事業では、期間を限定していないということです。

○なぜ自立訓練ホーム事業を始めたのか?
 多くの場合、本人は地域でのふつうの生活を望んでいるにもかかわらず、多くの入所施設が、この本人の願いに応(こた)えるよりも、親の願いに応えることを最優先するといった状態になっているという現実があります。本人の希望を叶えるためには、できるだけ現実に近い形で指導・訓練に当たることが望ましいということです。施設の中での指導・訓練は、どんなに一生懸命取り組んでも、疑似体験の域を出ることはできません。

○措置のまま地域で暮らすことを正当化する根拠
 国の事業としての「自活訓練事業」では、訓練棟(ホーム)は施設の「隣接地」という概念は、相当拡大解釈されて実施されており、事実、平成12年度の自活訓練事業の実施状況についての調査によりますと、総実施箇所数の21%は「施設外」で実施しているという結果が出ています。つまり、この事業では、厚生労働省も本体施設からの距離は別にして、措置のまま地域で暮らすということを認めています。

○働く場や活動の場の確保
 働く場所・活動の場については、施設の周辺地域という一地域に集中してしまっています。本人の故郷等に働く場・活動の場を整備していくことが望ましいと考えています。

○家族の理解
 施設入所の本人たちは、その多くは、地域での当たり前の生活を望んでいます。しかしながら、保護者の気持ちとして、「施設で一生面倒を見ていただきたい」という思いは、いまだに強いものがあります。地域生活への不安をぬぐい去るためには、さらに質の高い支援体制を整備していくことが、私たちにとっては大きな課題であります。

○本人の経済的負担の軽減
 措置費は、最低生活の保障ということから算出された基準ですので、それを上回る部分のサービスについては、利用者本人が負担するという考えは間違っていないと思います。しかし、本人の負担を軽減する面からもう一度見直しする必要があると考えています。


○「行政の壁」
 宮城県のこの事業に対する見解は、「自立訓練ホーム事業は、国の自活訓練事業の一形態と位置づけており、自活訓練事業と同様に施設に措置されたまま、指導訓練を受けるものである。そして、この事業は、障害者の生活の質的向上を優先した事業であり、障害者の地域生活への措置費の支弁についても、その使い道として許容範囲であると考える。また、この事業を通して、入所施設から地域生活への移行が一層推進するものと考える」というものです。

○本事業を通して見えてきたもの
 障害の重い人たちが地域で暮らしていくための条件整備は不十分ではありますが、それぞれの施設の先駆的な取り組みが、その不十分さを埋めると同時に、国の既存の事業を変えていく力になっていくのだと思います。

(おのりゅういち 宮城県福祉事業団企画課長)