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IT用語について

こうもり

 教育学的には包括性LDと判断され、医学的にはAS(アスペルガー症候群)と診断されているこうもり(仮名)という者です。軽度発達障害者の一員という立場から、ITに関する提言を行ってみようと思います。

 わたしは長い間パソコンになじむことができず、ITを利用しはじめたのは24歳になってからでした。わたしがパソコンの習得につまずいた理由は大きく分けて二つありました。一つは運動能力の困難によるもので、画面を見ながら文字を入力するという作業をうまく行うことができなかったためです。このため入力作業に時間がかかり、学生時代はレポートを締め切りまでに仕上げられないという事態に陥ることさえありました。もう一つは、パソコンで使用される用語が理解できなかったり、理解できてもどのように操作すればいいのかイメージできなかったためです。なお、本稿では後者の困難について提言を行います。後者のほうほうが「わかりやすいIT」という本稿の主旨に深くかかわっているからです。

 言葉や読み書き計算に限定して言えば、わたしの困難は軽度発達障害者の中でも軽いほうに属するでしょう。しかし、それでもITの用語を理解するのは困難を極めました。説明を聞いて理解したり、見て模倣することに困難のあるわたしは、何かを習得する場合は、文章によって情報を入力する場合がほとんどです。ITの操作方法を習得する場合も例外ではなく、パソコンについているヘルプのガイドやマニュアル本の解説を見ながら習得していきました。「解説を理解していること」と「実際に操作ができる」ことは別次元の問題だということは分かっていましたが、わたしにとってはこの方法がもっとも習得しやすい方法だったからです。しかし、前述したように、ITの解説には意味が理解できない用語がたくさんあり、なかなか習得することができませんでした。以下にITの解説に頻出した意味不明な用語を列挙しておきます。

 オン・ライン、オフ・ライン、ブラウザ、Web、カスタマイズ、メールアカウント、検索エンジン、ウィザード、テキスト・ファイル、HTML、ダウンロード、インストール、ハード、ソフト……。

 これらの語群の特徴として、まず日本ではパソコン以外では使用されることがない横文字ばかりであるということが挙げられます。検索エンジンのエンジンという言葉は車やバイクで使用されることがありますが、ITで使用されるエンジンが乗り物のエンジンという言葉と違う意味で使用されていることは明らかです。ハードやソフトという言葉も元の意味(ハードが硬いでソフトが柔らかい)は知っていましたが、パソコンの用語として使用されると、ほとんどイメージできません。解説文の中にこれらの言葉が何の説明もなく記述されているのを見て、わたしは頭を悩ませました。用語集を読んで懸命に理解しようとしましたが、その用語集自体も意味不明な横文字が頻出していたために理解できませんでした。ただでさえ、文字の入力速度が遅いうえに操作方法の解説の難解さが加わって、パソコン作業は次第に心理的に苦痛なものとなっていきました。IT用語はなぜ、わざわざふだんわたしたちが使用しない言語ばかり使用するのか理解に苦しみました。
 わたしについては、IT用語はひとまず無視して、具体的な操作方法だけを読んで、なんとかITを利用できる段階までには到達しました。しかし、言葉や読み書き計算に困難を抱えているタイプの軽度発達障害者が、操作方法の解説でつまずく危険性があることは目に見えて明らかです。
 以上の経験を踏まえて、わたしはIT用語(さらに広げればパソコン用語全体)を簡素化していくことを提案します。たとえば、学校の教科書であれば、学年ごとに使用できる語彙(ごい)は限られていて、それを超える語彙には意味の説明を付け加えなければなりません。しかし、ITにはそのような制約がなく、わたしたちが使い慣れていない横文字が氾濫しています。少なくとも中学生卒業レベルまでの語彙までに制限しておかなければ、ITの操作方法が理解できないという人はますます増加することになってしまうでしょう。
 パソコンを使用する以前に初心者向けのワープロを使用していましたが、コマンドやヘルプに使用されている言葉が平易で操作方法を理解しやすかったです。たとえば、パソコンのENTERキーに該当するキーはそのワープロでは「実行」と表記されていました。これならば意味が分かりやすいし、どんな操作をすればいいのかもイメージしやすいように思われます。技術を革新するということは性能を高くすることだけではありません。利用しやすくするという観点も必要なのではないでしょうか?

(東京都在住)