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列島縦断ネットワーキング

横浜
日本音楽療法学会の発足と
第1回学術大会の開催

篠田知璋

はじめに

―わが国の音楽療法について―

 20世紀の中頃、米国において音楽療法の発展、普及が急速になされたが、わが国では1970年代より台頭し、現在に至っている。今回この誌面で、わが国の発展、普及、そして音楽療法の内容について概略する。

■わが国における音楽療法の歴史

 米国に全米音楽療法協会が1950年に誕生し、以来順調な発展を続け、現在では医療の中に確実な治療法として定着をするに至っている。また、音楽療法士養成のための4年制の大学は全米で80余校存在し、今では大学院も設立されて教員養成もなされている。そして数年前に医療の世界に、代替医療(西洋医療では治療しきれない疾病に対して東洋医学のはり、きゅう、ヨガ、芸術療法などを取り入れた医療)が生まれ、その中に音楽療法も導入され、医師との共同研究、実践の音楽療法が実施されるに至っている。
 一方、わが国では1970年の初めに、英国の音楽療法士、ジュリエット・アルバンの「音楽療法」の著書が邦訳され、次いで米国、ホドルスキーの教書も紹介され、当時、松井、桜林、山松、遠山氏らが関心をもって、地道な音楽療法の研究実践に努め、特に松井氏は精神科医であるが全国を行脚して、各地に音楽療法の研究会を作らせて普及に努力した功績は大であった。その後、日野原氏が心療内科専門医を中心に日本バイオミュージック学会を設立して医学的、生理生物学的研究と実践をする目的で活動を開始した。やがて松井氏は全国の音楽療法士たちをまとめて、日本臨床音楽療法協会を設立し、バイオ、臨音の2団体ができたが、わが国において音楽療法が普及するためには、音楽療法士の国家資格化、医療保険点数取得(音楽療法の)が絶対不可欠であるので、2団体が連合して国に当たるのが良策と考えて、1995年4月に全日本音楽療法連盟を結成した。
 次いで両団体が統合して1団体にすることがさらに強力と考えて、2001年4月に統合が成立して、日本音楽療法学会が設立されたのである。今や会員は5400人に達している。
 学会設立の目的は、前述の法制化、保険点数取得とともに費やした音楽療法の理論、技術を備え、音楽療法の研究、実践をめざして音楽療法の普及、発展に努めるものである。具体的な作業として、1997年から連盟認定の音楽療法士を誕生させ、現在600人余の認定音楽療法士が存在している。また音楽療法の実践、普及に努めて一般人への啓もうにも努力し、厚生労働省からの助成金も3年前から得ての研究報告も行っている。なお国会議員の方々も音楽療法に強く関心をもたれ、法制化に向けての援助、議員プロジェクトを結成して実践普及に努めてくださっている。

■音楽療法とは

 “音楽は心や魂の奥底にまで浸潤し、内部を発散させ、後に壮快な気分にさせる。あたかも下剤の如き役割”という言葉をギリシャの哲人たちが述べたというが、この言葉は現代にも当てはまるものである。音楽が容易に心の扉を開かせ、内部を発散させる力、病む心を癒す力、そして身体的苦痛も軽減させる力、心身を活性化させる力、などなどの威力を私たちは実践の中で目の当たりにしている。これらの音楽の力を病む人の心身の癒しに活用することが音楽療法である。
 音楽療法は音楽教育とは異なり、音楽活動とは時々オーバーラップする。音楽療法施行の原則は、あくまで患者の好む曲を提供し、決して強制するものではない。私たちが提供する音楽は患者たちの心に染み通るものでなければならない。“音楽は心を語る言葉”である。すなわち音楽を提供する私たちの心が温かく、病者を包み込める豊かな心でなければならないのである。したがって音楽療法士の資質が問われ、まずは心を養うことに努力をする必要がある。
 セッションの方式は、個人またはグループになるが、わが国の施設の立地条件から、グループセッションが多くなる。提供される音楽のジャンルは問わず、子守歌、童謡、唱歌、青春の歌、想い出の歌などに及ぶが、日本人ではクラシック音楽を求める人はわずかである。

音楽療法の適用

 当初は精神障害者、知的障害者から適用されたが現在では、高齢者、内科慢性疾患特に神経内科領域の脳血管障害後遺症、パーキンソン氏病、★痴呆→認知症★などの言語療法、理学、作業療法に併用して効果的である。また、末期患者に対する音楽療法も効果的であり、最近では健康保持のための適用も行われるようになった。なお、今年の1月19、20日に学会発足後初の学術大会が神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で開催されたので、その内容について述べる。

第1回日本音楽療法学会学術大会について

 前述したごとく、今年1月に開催されたが、大会長は学会理事長の日野原重明氏、大会実行委員長は筆者であったが、参加者数は2200人余、大盛会であった。
 演題応募数は330題、当会員に限定されたのだが、2日間で到底消化できる数ではなく、やむをえず厳選して215題の口演またはポスター発表とした。年1回の実践、研究の発表の場であり、多くの応募があったわけだが、会員の熱意、向学心には敬服する。
 プログラムは、大会長講演、特別講演とシンポジウム各一に絞り、一般口演およびポスター発表に重点を置いた。
 大会長講演は、今求められている音楽療法士の資質の問題に触れながら、今後の音楽療法、音楽療法士のあるべき姿について、91年間前進を続けられている日野原氏の情熱的なお話には、いつもながらただただ敬服するばかりであった。特別講演は前国立音楽大学学長の海老沢氏にお願いしたが、演題は「音楽療法の源流」であったが、西洋音楽の歴史を中心に、趣のあるお話であった。
 シンポジウムは前述の松井氏(現日本音楽療法学会副理事長)の司会で、「21世紀の音楽療法に求められるもの」という題で、21世紀の音楽療法の展望と対策について4人の演者によって行われた。教育の面から、行政の面から、そして現在の、国との交渉状況などが論じられ、対策として研究業績を増やす努力、一般啓もう、普及の具体策などが論じられた。
 一般演題は前項で述べた適用範囲のすべてに及ぶ演題であったが、加えて統計的な研究も見受けられ、内容、発表の仕方など、以前に比べてレベルアップした印象であった。2日間の日程を無事消化することができて、主催者としてホッとした次第である。

おわりに

 音楽療法はほかの医学的治療法に比して最もリスクが少ないこと、患者に苦痛を与えないことなどの利点がある。音楽療法は単純で施行するものは自閉症などであるが、多くの場合、言語、理学、作業、薬物療法に併用することによって効果が増すものである。したがって、音楽療法の施行は言語、理学、作業療法士、ナース、医師などの医療スタッフたちと綿密なチームワークのもとにセッションを行うことが不可欠と言える。

(しのだともあき 日本音楽療法学会常任理事、くらしき作陽大学音楽学部専任教授)