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雇用の場の拡大―除外率制度の縮小・廃止への動き

渡辺正道

はじめに

 今般、「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、障害者雇用率算定上の雇用義務の軽減措置である除外率制度が廃止へ向けて縮小されることとなった。本稿では、除外率制度の見直しの経緯、その意義および今後の課題と展望について述べることにしたい。

1.経緯

 わが国では、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という)により各般の障害者の雇用促進策が講じられているが、その中心が障害者雇用率制度である。今回見直すこととなった除外率制度は、この雇用率制度が昭和51年に設けられた際、障害者の就業が困難な職種があることに鑑(かんが)み、これが相当の割合を占める業種ごとに雇用義務を軽減する調整措置として設けられたものである。除外率制度は、障害者の雇用機会を狭めることになることから、制度発足時からその問題が指摘されていた。こうした中で、平成12年11月からの障害者雇用問題研究会、平成13年11月からの労働政策審議会障害者雇用分科会等において、除外率制度のあり方について議論・審議が重ねられ、おおむね次の問題点があることが整理・確認された。
1.制度創設時と比べ、施策の進展、技術革新等により従来障害者の就業が困難とされていた職種においても就業可能性が高まっており、実態と合わなくなっている。
2.障害者が障害のない者と同等に生活し活動する社会をめざすノーマライゼーションの観点からみて適切ではない。
3.障害者であることをもって一律に特定の業務に就くことが困難であるということを前提とした制度は、政府全体として取り組んでいる資格欠格条項の見直しの方向と一致しない。
 今般の除外率制度の見直しは、こうした経緯を踏まえ、昭和51年以来初めて実現することとなったものである。

2.見直しの内容とその意義

 今回の改正により除外率制度は、障害者雇用促進法上、本則から削除して廃止の方向性を示すとともに、附則において経過措置として「当分の間」の措置と位置付けられることになる。これは、除外率を直ちに廃止することについては、職場環境の整備や障害者の採用のための準備等困難な点があるため、除外率の最初の引き下げまでの間、2年程度の準備期間を置き(平成16年4月施行)、一定期間をかけて段階的に引き下げ、廃止を目指し、縮小を進めることとしたことによる。その縮小の方法としては、平成14年1月の労働政策審議会意見書の方針に従い、初回の引き下げ幅は各業種とも一律に10%ポイント引き下げ、次期「障害者基本計画」の計画期間を目安として縮小を進めることとしている。
 今回の除外率制度見直しは、次のいくつかの点で大きな意義があると思われる。一つは、これまでの除外職種に対する認識を「個別の障害者の能力で判断すれば、今まで一律に障害者の就業が難しいと考えられてきた職種でも障害者の就業は可能である」というものに改め、約30年間存続してきた除外率制度を原則廃止すること、二つ目は、単なる理念の進展ではなく、障害者雇用義務数の増加による雇用創出効果が見込まれること、三つ目は、廃止というゴールを先に明確に示し、雇用の場の拡大に向けた行政、事業主、労働者および障害者団体の意欲を刺激していく手法をとっていること、四つ目には、障害者のさらなる社会参加に向け、政府全体として取り組んでいる資格欠格条項の見直しと相互に連携し合っていること等である。

3.今後の課題と展望

 今回の除外率制度の見直しが実効面でどの程度の効果を生むかについては、まずは、初回の引き下げまでの準備期間において、行政からの周知・啓発をいかに効果的に進められるかにかかっている。これまで除外率制度の見直しの必要性が認識されていたにもかかわらず見直しが進まなかった原因の一つは、行政から事業主に対する除外率見直しのための働きかけ、事業主側における意識が十分でなかったことにある。障害者雇用は、企業と障害者本人相互の信頼と理解を基礎として成り立つものであることに鑑みれば、行政側から働きかけを行い、事業主団体と連携し、協力を得ていくことが重要と思われる。
 また、2回目以降の見直しについては、障害者雇用の進捗状況等を判断した上で進めていくものであり、除外率の円滑な縮小のためには、職場定着を援助する者や障害を補う補助機器の配置、職場のバリアフリー化などを促進するための支援を効果的に実施していくことが必要である。同時に、行政の取り組みと相まって、職場レベルにおいても、障害者の雇用が容易になるような職務の変更、雇用管理上の配慮等のさまざまな工夫が進んでいくことが期待される。
 さらに、今回の障害者雇用促進法改正により、特例子会社を保有すれば、企業グループ単位での雇用率の算定が可能となる。このため、除外率の縮小による雇用の拡大効果は、除外率設定業種だけではなく、企業グループ全体としてさまざまな事業分野に及んでいくことが期待される。
(本稿での見解は、筆者個人のものであり、筆者の属する組織の見解ではない。)

(わたなべまさみち 内閣官房副長官補付(前厚生労働省障害者雇用対策課雇用促進係長))