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会議

国際セミナー
―高齢障害の地域ケアとQOL―

末光茂

 「高齢障害の地域ケアとクオリティ・オブ・ライフQOL」をメインテーマにした「国際セミナー」が、平成14年3月11日、12日の2日間、国立オリンピック記念青少年総合センターを会場に、開かれました。主催は、日本発達障害学会と中央競馬馬主社会福祉財団で、後援は日本知的障害福祉協会、全日本手をつなぐ育成会、競馬財団福祉研修生の会等。国内外6人の講師による密度の濃い講演内容、指定発言者のコメント、さらには全国から集まった250人の参加者からの意欲的な意見発表が行われました。日程は表のとおりです。
 1日目は「QOL」を、2日目は「高齢障害」を主題にしましたが、ここでは、ノーマライゼーションとかかわりの深い「QOL」に焦点を当て、最近の世界的な動向とわが国の取り組むべき課題について紹介することとします。

講演1:

 「QOL評価と地域文化」(江草安彦、川崎医療福祉大学学長)
 まず20世紀の福祉の潮流を振り返り、あわせて、文明国と発展途上国との間での文明あるいは宗教上の衝突、多数が少数を抑圧する形で進むグローバル化の問題性が顕在化しつつある時代背景に触れた。クオリティ・オブ・ライフ(QOL)についても、人権の普遍性を尊重するとともに、多様な価値観を認める視点で検討することの重要性を指摘した。
 具体的にはQOLを自然環境、社会環境、文化的環境そして「風土」とのかかわりで考えることが必要であり、少数者の存在を認め、個の尊重をはかる、そして一人ひとりの幸福感はさまざまであり、それを認め合うことの重要性を強調した。特に意思表示の困難な人での「生きていてよかった」ことを感じ取る、いわゆる「主観的QOL評価」の意味について問いかけた。

講演2:

 「Quality of Life ; その概念と評価および実践」(シャロック、元ヘスティング大学教授、WHO―QOL研究会議議長)
 QOLは、古くからの概念であるが、近年、教育、医学、社会福祉分野等で、注目されつつあることを「自分史」の立場から、まず振り返った。
 そして、1.QOLの使用方法と意味、2.概念化、3.計測、4.QOLの応用、5.評価へのアプローチの各項目について体系的な講演がなされた。
 この方面の第一人者ならではの講演であり、「21世紀障害プログラム」は示唆に富む内容であった(参考図書1・2参照)。

講演3:

 「高齢障害者のQOLとケアの新しいあり方」(ジャニッキ・アルバニー大学教授、WHO―Aging研究会議議長)
 日本の高齢化の現状を国際的視点から述べ、あわせて知的障害での高齢化の影響を、1.加齢と病気、2.コミュニティケア、3.住宅、4.親亡き後の支援、等の面で整理して紹介した。
 そのうえで、ケアのあり方として、1.哲学的な理解、2.政策、3.健康な高齢化、4.精神衛生上の問題、5.家族の加齢化の問題、6.自己決定のそれぞれについて、アメリカでの取り組みを中心に紹介し、わが国の今後のあり方への指針を示した。
 特に、アメリカ合衆国で最も巨大な州立発達障害者入所施設だった「ウィローブルック」(約5000床)を閉鎖し、地域生活に移行させる際の行政担当者としての実践経験さらにはアルツハイマー症の基礎研究から臨床、地域でのネットワークにかかわる国際的な視野での活動と情報ネットワークのあり方は説得力のある内容だった。

講演4:

 「重度・重複障害者の主観的QOL評価とアクティブ・サポート」(フェルシュ・ウェールズ医科大学教授)
 施設入所生活から、グループホーム等の地域生活への移行が、どのような障害の重い人にとっても重要であるとの、国際的な認識と運動が進んでいる。しかしグループホームにさえ移ればよいのではない。従来の施設生活と変わらない、いわゆる「ミニ施設」との指弾がなされる実態もある。
 本人のQOLの視点からすると、「ホテルモデル」(単なるお客様扱い)には問題があり、「アクティブ・サポート」、それも「組織モデル」が望ましいという実態調査結果を報告した。それは「スタッフが計画を立て、1日を通じて利用者が活動に加わるように機会や支援を監督する、実践的なシステム」であり、そのための現場実践面での評価表の活用、スタッフの教育等を具体的に紹介した。わが国の重い障害者に対する支援を根本的に問い直す内容であった(参考図書3参照)。
 2日目は高齢障害者の死因、疾病、健康問題、地域生活のあり方等が語られた。
 シャロック教授は、2日間をしめくくり、「今日ここに、QOL運動の方向性について共通認識が共有できた。運動が成功するかどうかは、参加者の努力にかかっている」「行動を伴わないビジョンは白昼夢である。ビジョンのない行動は悪夢となりうる」と、着実な前進への決意を訴えた。

(すえみつしげる 社会福祉法人旭川荘副理事長)


※詳細については「発達障害研究誌24巻2号」に2日間の講演のすべてを英文および和訳で掲載する予定です。また、参考図書との併読をお勧めします。

【参考図書】

1.ロバート・シャロック(三谷嘉明・岩崎正子訳):「知的障害・発達障害を持つ人のQOL」、医歯薬出版、1994年
2.中園康夫・末光 茂 監訳「障害者とクオリティ・ライフ」、相川書房、近刊
3.中園康夫・末光 茂 監訳「脱施設化と地域生活」、相川書房、2000年

■資料■

セミナープログラム
1日目(3月11日)コーディネーター:丸山一郎(埼玉県立大学教授)

時間 プログラム
09:30-09:40 開会あいさつ 小川諄
財団法人 中央競馬馬主社会福祉財団理事長
09:40-10:40 講演1「QOL評価と地域文化」
江草安彦(川崎医療福祉大学学長)
10:50-12:20 講演2「QOL:その概念と評価および実践」
Schalock教授 元ヘスティングス大学教授、WHO-QOL研究会議議長
〈指定発言〉岩崎正子(日本知的障害者福祉協会副会長)
12:20-13:30 昼食休憩
13:30-15:00 講演3「高齢障害者のQOLとケアの新しいあり方」
Janicki教授 アルバニー大学教授、WHO-Aging研究会議議長
〈指定発言〉渡辺勧持(岡山県立大学教授)
15:15-16:45 講演4「重度・重複障害者の主観的QOL評価とActive Support」
Felce教授 ウェールズ医科大学教授、国際知的障害研究協会副会長
〈指定発言〉中園康夫(吉備国際大学教授)


2日目(3月12日)コーディネーター:末光茂(旭川荘副理事長)

時間 プログラム
09:30-10:30 講演1「障害者の老化と医学的課題」
有馬正高(日本発達障害学会会長)
10:40-12:10 講演2「知的障害者の老化と地域ケアの最新の動向と方向」
Janicki教授 アルバニー大学教授
〈指定発言〉大塚晃(厚生労働省障害福祉専門官)
12:10-13:20 昼食休憩
13:20-14:50 講演3「高齢知的障害者の健康と精神保健」
Davidson教授 ロチェスター大学教授
〈指定発言〉菅野敦(東京学芸大学教授)
15:05-16:35 講演4「高齢発達障害者の質の高い人生を求めて」
Schalock教授 元ヘスティングス大学教授
〈指定発言〉松友了(全日本手をつなぐ育成会常務理事)
16:35-16:45 閉会あいさつ
有馬正高(日本障害者協議会副代表)