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知り隊おしえ隊

変わる札幌のまち

西村裕広

 北海道内各地では徐々にバリアフリーが進みつつある。行政主導で実施されているものは、長期計画の中で定められていたものがDPI札幌大会をきっかけに前倒しで早期実施されているものが多く、民間ではDPI札幌大会の開催を知り、これまで試行錯誤していたバリアフリーについての情報収集や交換をしながらさまざまなことに取り組む企業や団体が出てきた。ここではその中の、主にハード面を中心に紹介したい。

空港、駅、玄関口のバリアフリー

 まず北海道の玄関口の役割を持つ新千歳空港。ターミナルと駐車場へ続く通路の連結部分には約5メートルほどの高低差があり、これまでそこには階段とエレベーターが1基しかなかったが、新たにエスカレーター、そしてもう1基エレベーターが増設された。DPI札幌大会時には道外から多くの障害者が来ることから、その数に対応できるのか不安が残るものの、日常的には肢体障害の人にはもちろん、高齢者や妊婦、乳児をつれたお母さんなどにとって非常に利用しやすくなった。
 また駐車場には、空港利用者の荷物運びを手伝うサポートカーが3台用意されたほか、障害者用駐車スペースの拡大も予定している。そのほか駐車場とターミナルをつなぐ通路にある休憩用スペースには障害者用トイレの設置、室内の段差解消などの配慮がされている。
 新千歳空港が北海道の玄関口なら、札幌駅は札幌の玄関口である。JRと市営地下鉄が連結しているが、これもターミナルに高低差があったため、これまで車いすの人にとって乗り換えが非常に困難であった。高低差部分には階段しかなく、階段を使うことができない肢体障害者が乗り換えするにはいったん駅の敷地を出て、通りを渡って大きく迂回しなければならなかった。この高低差部分に設置されている階段に昇降機が設置された。車いすの人にとっては乗り換えの時間や手間が大幅に軽減される。

会場周辺のバリアフリー

 DPI札幌大会会場の最寄り駅は、市営地下鉄東豊線の豊平公園駅。札幌市内を走る地下鉄で最も新しい路線である東豊線は、すべての駅構内にエレベーターや点字表示、スロープなどが設置されており、豊平公園駅には会場の「きたえーる」に続くスロープ状の通路が直結している。また東豊線以外の路線駅にもエレベーター設置などバリアフリーが進んでいる。そして会場周辺を主とし、市内各所で道路の段差や傾斜解消工事も行われている。

ホテル

 ホテル確保は今大会で大きな課題だった。まず障害者が使用できるホテルがどれだけ札幌市内にあるのかという調査からスタートし、可能な限り多くのホテルに対してバリアフリーの改修を求めていくしかなかったのだが、改修となれば相当の金額がかかることは容易に想像がつく。となれば、従業員に障害者への対応を学んでもらったり、介助犬の受け入れを促進してもらうなど、ソフト面での対応を求めるしかない。
 DPI札幌組織委員会事務局では、さまざまな障害者への介助の仕方や建物のバリアフリーについてのチェック項目、そして介助機器や介助犬の説明などの内容を掲載した「サポートハンドブック」という冊子を編集、制作し、DPI札幌大会参加者に推薦ホテルとして紹介している14のホテルに配布した。北海道運輸局が昨年から始めた「交通バリアフリー教室」という講習会があり、主に交通関係者を対象に、障害者への介助方法を中心に説明するものだが、今年はDPI札幌大会のためにホテル従業員にも対象を拡大し、DPIと合同で開催する。この講習会では、サポートハンドブックをテキストに介助方法を説明する。
 ハード改善も皆無ではなく、推薦ホテルの一つ京王プラザホテルでは、9室をアクセシブルルームにするという大規模な改修を行った。また推薦ホテル以外の大手ホテルでも、一部スロープを設置するなどの改修や従業員研修などを実施しているという情報が入ってきている。

すすきの

 さて、札幌と言えば東洋を代表する歓楽街の一つ、すすきのを忘れてはいけない。不景気のあおりを受け、往年の週末の活気がやや薄らいでいるものの、まだまだ魅惑の風が吹くスポットであることは間違いない。DPI参加者にはぜひ立ち寄っていただきたい場所である。
 すすきののバリアフリーは残念ながらまだ遅れているのが現実だが、しかし、入れないお店が無いわけではない。酒のためならどんなバリアも乗り越えるDPI札幌大会事務局の局員があちこち飲み歩いた結果、障害者用トイレやスロープなどを設置する店が出てきている。それは冗談として、障害者が個々に利用するお店が個別に、少しずつバリアフリーを進めているのは事実である。またDPI札幌大会をきっかけに、すすきの中の雑居ビルに最低一つの障害者用トイレを設置しようという動きが、すすきの観光協会が中心となり始まっている。それら個々の活動が大きな動きになるよう、大会開催までの残された期間で関係者に呼びかけたい。

これからの札幌は…

 札幌での代表的な事例をいくつか紹介した。ここで紹介したものは、おおむねDPI札幌大会を契機に始まったものと自負している。しかし国内外からやってくると予測される2000人の障害者を受け入れるために、これらは十分なのかと問われると、それは実際に大会が始まってみなければわからない。また、障害のある人たちの生活がこれで快適になるのかと問われれば、それは当然“NO”である。法的な整備はもちろん、ソフトもハードもまだ点の動きにとどまっている。
 しかし、それは決して悲観すべきことではない。このDPI札幌大会にさまざまなジャンルでかかわってくれている方々はすべて、非常に熱心に取り組んでくれている。この方たちの情熱を大会が終了したあとも持続させるためには、DPI札幌大会を有意義なものとしなければならない。
 今痛切に感じるようになったのが、情報のまとめと整理である。障害者に関連するさまざまな情報を収集するのは困難である。バリアフリーのお店はどこにあるのか、高齢者の家族のため、家をどのようにバリアフリーすればよいのか、またそれはどんな工夫で、最低限どのくらいの金額でできるのか、困っている障害者をどのように手助けすればよいのかなど、個々の情報はそれぞれあるにせよ、どこに行けばそれらの情報が手に入るのかということを知りたがっている人たちがどれほど多いことか。
 今札幌で、それら障害者に関連する情報をまとめ、整理しようという試みをしている市民団体がいくつかある。そのうちの一つは、DPI札幌大会が終了したあともその作業を続け、あらゆる業界と連携し、札幌でのモデルケースとして全国に発信したいということだ。
 DPI札幌大会は終了した後こそ、真価が問われるのかもしれない。

(にしむらやすひろ 第6回DPI世界会議札幌大会事務局次長)