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ハイテクばんざい!

ニューテクノロジーを用いて
“時”を手に入れた!

佐藤忠弘

 さまざまなハイテク機器に囲まれた私たちの生活環境。しかし、これらの原点は“時”をベースとして刻々と変化をしていく、24時間というだれもが平等に与えられた時間なのです。これをうまく使う人とそうでない人では、生活環境そのものも大きく違ってくるでしょう。そのためには朝起きてから就寝するまでを、計画的にタイムスケジュールを立てることが原則です。
 しかし、その“ものさし”として存在する唯一のものは、時計という世界標準機器です。その表示方法は、最近ではほとんどがデジタル化され“今”という切り刻んだ一刻を表示する手法が大半です。これは、ともすれば一日という時の流れを“一本のメジャー”のように“事の前後”として捉えることを困難にするでしょう。一方、アナログ時計の針の位置や秒針の動きは、少しは流れるような“時の一刻”として捉えやすくしています。このように“時の管理”は抽象的で、理解するのが困難な概念と言えるでしょう。
 スウェーデンの1970年代から1980年代には、だれも知的障害者の機能代償エイドは考えつきませんでした。しかし、視覚や聴覚エイドは使用し、ある程度は教育的なエイドも使われていました。
 QHW(Quarter Hour Watch:知的障害者用の時計)の発明者であるAnders Bond氏は、認知障害の機能代償エイドとして現代のコンピュータ技術が使用できることを実証した最初の人物です。彼は1985年頃、知的障害者エイドの研究を開始し、それらを支援するハンディキャップ研究所(SHI)は「知的障害者用エイド」を優先分野としました。この過程で1990年代半ばには、QHWやTime Logを始めとする機能代償エイドが誕生したのです。

タイムエイドとは

 自閉症や知的障害をもつ人々が徐々に自分のペースで使用し、学習を繰り返すことにより日常生活の幅を広げ、自信と自尊心を得る手掛かりにもなります。何かをしようとする時、時間に間に合うように使われる初期の段階から、徐々に時間を計画的に使える行動に移ることができるように、発展した使い方に移行することができます。
 時間を1分・3分・5分・15分というような単位で液晶ドットに置き換え、捉え直しをすることにより、今していることが「あとどれだけ」で終わるのか? これから先にある楽しいことが“もうすぐ”くるのか、まだ“だいぶ先”のことなのかが一目で分かるようにした時計やタイマーのことです。言葉を換えれば「嫌なことがどんどん減っていくよ」「楽しいことがだんだん近づいて来るよ」といった説明をして、興味を持ってもらうことが大変重要なことです。
 自閉症の方たちが自分にあった時計を持ち歩く。そして時間を気にしながら、こんな用い方をして東京出張を一人でできるようになる。これは何と素敵なことではありませんか。


タイムエイドを使ってみる想定事例

※京都の自宅を出発して京都駅から新幹線を利用して東京駅へ午後1時に着いて待ち合わせをする。

  時計で行動する人 タイムエイドにより行動する人
1.自宅出発 家から所要時間1時間と見て2の時間より、8:30を出発時間にする。 タイムログの60分計を8:30にスイッチを入れて出発する。
2.京都駅着 9:30 京都駅に着く頃にアラームがなる。次にタイムログを「新幹線発車」として30分のセットをする。(乗り遅れないように注意)
3.新幹線に乗る ダイヤより決定している10:00発の「ひかり」で出発 ホームで待っている間に10:00になり、アラームが鳴る頃に新幹線が入ってくる。乗車後QHWに切り替える。「東京駅到着」のカード(12:45にセット)を装着すればもう安心。
4.東京駅着 13:00まで
12:45でちょうど良い。
黒い液晶ドットが1個になったところで新横浜に到着し、次は東京でもうすぐだと知ることができる。最後の1個が消えてアラームが鳴ったときに東京駅に到着する。
計画 8:30に家を出て10:00頃の新幹線に乗ろう。そうすれば東京駅1:00は間に合うだろう。 京都駅まではタイムログの60分計を使う。次に新幹線の発車時刻を知るのに同じタイムログを30分にセットして使うことにする。これで途中の時間チェックや出発時間に遅れないための余裕、時間待ち時間の確認ができ、安心できる。乗車後QHWに到着時刻をセットしたカードを装着する。これで2時間45分と長い時間を安心して過ごせる。残り1個になればちょうど横浜近辺で、もうすぐ到着するので降りる準備をしておけば安心できる。

「タイムログの実践」についての報告事例

―自由時間の終わりを分かりやすく伝えるための支援―

例:自由時間に中庭で遊んでいる子どもに「もう終わり、教室に帰ろう」と言葉で指示した。すると突然地面に寝転がり声を上げて泣き出した。「ちょっと待ってね」「後でしようね」といった時間に関する指示の理解が難しい子どもである。

 タイムログ(20分計)は、時間をセットすると、赤い発光ダイオードが残り時間を1分刻みで表示します。スケジュールに提示した「遊び」カードの色とタイムログのボタンの色(赤20分、黄15分、緑10分、青5分)を対応して、一人でセットすることができました。次にする活動の写真カードなどを貼って「タイマーが鳴ったら終わり、次はこれをするよ」という見通しを持って遊べるようになりました。

支援のポイント

○時間を分かりやすく伝える工夫

 「どれだけ遊べるか」を知らせるために「あと少し」「もうちょっと」のようなことばではなく、目で見えるものを使うようにします。

○タイマーの使い方

 今からする活動の残り時間を知らせるための使い方と、次の活動までの時間を知らせるための使い方があります。また、アラームが鳴ると「終わり」というルールを守ることが大切です。

むすび

 このような、生活に密着した便利なエイドですが、日常生活給付用具になっていないことと、その存在すらご存じない方も多くて、一部の熱心な方により少しずつ利用されるようになってきました。限られたデータではありますが、必要な方には提供させていただく用意もしています(お問い合わせ先:五大エンボディ株式会社 TEL:075―672―8400 FAX:075―672―8401)。
 私どもはこれらのタイムエイドを1995年から販売を開始して、2001年3月までの7年間にQHWで29台、Time Logは42台が活用されてきました。さらに2002年3月までの1年間でQHW24台、Time Log59台と明らかに増える傾向にありますが、総数の154台から想定して、必要な人にまだまだ使われていないと言っても過言ではないでしょう。
 人口が850万人のスウェーデンではQHWが年間に300台、Time Logは1000台以上が国のヘルプセンターから無償にて必要とする人に提供され、これまでに3000台以上が活用されています。このデータから提言したいことは、旧来の品目を見直し、知的障害者も対象とする「日常生活支援機器及び関連ソフトプログラム」が必要とする人に適正に提供されるよう、新しい時代にふさわしい制度が確立されることを期待いたします。

(さとうただひろ 五大エンボディ株式会社)


※この「タイムログの実践」についての報告事例の資料は、徳島県立国府養護学校の喜馬久典先生より2002年5月にご提供いただきました。
出典元:「自閉症児の支援のあり方~TEACCHのシステムから学ぶ~」
徳島県教育委員会障害児教育指導室(2002年3月発行)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2002年8月号(第22巻 通巻253号)