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支援費制度と社会福祉関係者の役割
―特定非営利活動法人湘南ふくしネットワーク
オンブズマンの取り組みからの提言―

高山直樹

湘南ふくしネットワークオンブズマンの活動

 社会福祉基礎構造改革のなかで、福祉サービスのあり方が大きな変革期を迎えた今日、市民一人ひとりが、自分らしい生活を送る基盤作りが求められてきている。これまでの与えられる福祉から、自らが福祉サービスを選択し、契約していくという自己責任が問われてきている。そこでは福祉サービスの質が問われてきており、質のチェックと利用者の苦情や要望を受け止める重層的な仕組みが必要となり、とりわけ高齢者や障害者等の方々の声をしっかりと聴き、代弁していく権利擁護の仕組みは最重要課題である。
 1997年に湘南ふくしネットワーク・オンブズマンが活動を開始して以来、地域ネットワーク型福祉オンブズマンという、新しい形の福祉オンブズマンの活動が神奈川県内の保健福祉圏域で誕生してきている。契約施設とオンブズマン側は、立場は異にしますが、将来的には、画一的な施設という枠組みではなく、地域社会において、その人らしい生活を送ることができるノーマライゼーション社会の構築をめざしていくという方向性のもとで、それぞれの活動が展開されている。
 その活動としては、まず利用者の方々の声に耳を傾けることが非常に重要となる。一人の利用者の側に立ち、その声を受け止め、実現を図っていく、それは利用者とオンブズマンの関係だけではなく、施設、職員、家族そして市民の協働が必要となる。一人の利用者の声の実現を中心に、利用者を中心に関係者が知恵を出し合っていく、そしてその声を社会化していくなかで、市民や地域が変わっていく、そのような流れを作っていくことがオンブズマンの使命だと考える。
 さらに、支援費制度、成年後見制度、地域福祉権利擁護事業、苦情解決システムなどが制度として導入されてくる大きな動きのなかで、湘南ふくしネットワークの契約施設には、より大胆にネットワークの意義を推進するためにも、以下の点を協議課題として各施設に問題提起し、その取り組みの開示を要求している。

(1)加盟施設内における情報開示に対する提起

・利用者からの要望の際、利用者に関する関係文書の開示
・利用者の施設内金銭管理に関する方法および文書の開示
・施設指導台帳および監査指摘事項等の情報開示
・施設利用時における契約の書類等の開示

(2)加盟施設内におけるサービス提供(ハード面)に対する提起

・ガイドヘルパー、目的別ボランティア等の利用者個別の自己決定、自己実現をめざした社会資源の創出と導入
・グループホーム、ケア付き住宅等の増設とそれに伴う地域生活支援の創出、整備、ネットワーク強化
・公共交通機関の整備および通信手段の自由の確保の推進

(3)加盟施設内におけるサービス提供(ソフト面)に対する提起

・利用者の自己実現の具現化のための個別自立生活支援プログラムとエンパワメントアプローチの確立
・意思表示の困難な利用者に対してのコミュニケーション支援の援助確立
・体罰、拘束、施錠等に対する明確な見解と表明、方法論の確立

 これらの情報をよりわかりやすく利用者や関係者に開示できること、そして契約書の内容に盛り込まれることが必要となる。それはまさにサービスの質の具体的な開示が求められている。そのことが基盤とならない限り、対等の関係での契約は成立しないからである。

支援費導入に関しての提言

 2003年4月、支援費制度がスタートを切る。保育サービス利用における契約制度の導入を皮切りに、介護保険制度に代表される福祉サービスの利用契約化などの動きは、これまでの福祉サービスのあり様に大きな変化をもたらしている。
 契約制度は、利用者とサービス提供者の対等な関係に基づいて、利用者のサービス選択の権利を明確にしたという大きな意義を有している。支援費制度もまたこの流れのなかに位置づけられている。
 しかし契約制度の導入には、同時に利用者の選択の権利が真に保障されるための十分な利用者支援策が求められている。それは支援費制度における契約の当事者には、自らの権利を十分に行使することの困難な人たちが多く含まれているからである。そのため、この制度下における利用者支援としては、一貫して利用者の立場に立脚する障害者施策にかかわる社会福祉士をはじめとした社会福祉専門職の側面的支援が不可欠となる。
 支援費制度による支援開始時においては、情報提供等をはじめとした公的機関の関与があるものの、最終的に契約を締結する段階において利用者側への支援を誰がどのように担うのかは不明確な現状である。成年後見制度の十分な活用を視野に入れることは不可欠の要件となろう。そして社会福祉関係者である専門職は、支援費制度が利用者にとって機能する制度となることを推進していく責務がある。
 またこの支援費制度が、介護保険導入時に「保険あってサービスなし」と揶揄(やゆ)されたのと同様に「制度あってサービスなし」ということにならないよう、権利擁護の視点から十分なサービスの提供準備をしなければならない。まさにソーシャルワークが重要になってくる。ソーシャルワークのなかでも最も機能してこなかったと思われる、具体的なサービスの創出を含め、社会資源の開発や地域のなかで障害当事者等との連携に基づく、ソーシャルアクションの姿勢が問われているといえよう。

(たかやまなおき 特定非営利活動法人湘南ふくしネットワークオンブズマン理事長、東洋大学社会学部助教授)