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ハイテクばんざい!

自動車補助装置と特殊自動車

小林博光

1 日常生活の中での自動車

 人々が自家用車にて移動するにはさまざまな理由があります。就労や就学には必須事項である場合もありますし、病院や役場、郵便局や銀行などの公共施設への用事や、買い物、家族の送迎、さらには、遊びやレクリエーションのためにも多く必要とされます。自家用車での移動は現代社会において、なくてはならないものとなっています。
 身体に障害をもつ者は、さらに同等以上の必要性があるといえます。公共交通機関や一般の道路の利用に関して、身体に障害をもつ方や、高齢の方たちのための環境整備が進みつつありますが、まだまだ設備が不十分なところが多く、「誰でも、いつでも、どこでも、快適に」利用できる環境とは言えないからです。
 そこで、身体に障害のある人でも、自動車の運転を実現させるためのいろいろな「自動車運転補助装置」が開発され市販化されています。また、近年では海外から新しい運転補助装置が重度障害者の運転実績とともに輸入され、これまで日本国内で運転できなかった重度の身体障害者も運転できる可能性がでてきました。
 ここでは、身体に障害がある方の自動車について、運転補助装置、車いす車載装置、特殊自動車などについて記述します。

2 本人が運転する自動車の補助装置

 身体に障害のある方の機能や動きは個々によって異なるので、それに応じた運転補助装置や補助器具が開発され使用されています。四肢機能と運転補助装置と補助器具の関係について表1にまとめてみました。以下に、代表的なものについて記述します。

表1 四肢機能と運転補助装置の関係

表1 四肢機能と運転補助装置の関係
国際右ハンドルのオートマチックトランスミッション車を使用した場合。
●:必要な装備、○:あれば便利な装備。

(1)両上肢のみで運転する補助装置

 両下肢に障害があっても両上肢に障害がない場合は、両上肢のみでの運転することになります。左右どちらかの片手でアクセルとブレーキを操作するフロアー式の手動装置は、一般的に後方に引いてアクセル、前方に押してブレーキを操作します。方向指示器や前照灯などの操作スイッチが手動装置に組み込まれた機種もあります。ステアリング旋回操作は、手動装置操作と反対の上肢で行うことになります。この他にも、ステアリングポストに設置されるコラム式の手動装置もあります。
 さらに、手指の動きが十分にあれば、ステアリングの内側のアクセルリングでアクセルを操作するものもあります。アクセルリングを指で操作しながら、ステアリングを旋回させることが可能です。したがって、両手どちらでもアクセル操作が可能となります。この特長を活かして、オプションのクラッチ操作スイッチをシフトチェンジレバーに取り付けると、マニュアルシフト車も運転できるようになります。
 手指の動作に障害があり、ステアリングを把持し旋回させることができない場合は、特殊な形状のノブや、手の形状に合わせて製作した手掌ホルダー状のノブが装備されます。この場合、方向指示器や前照灯操作は、手動装置側に延長バーで延ばして使用することもできます。また、体幹の安定を図り運転中の安全を確保するため、シートベルトとは別に胸ベルトなども装着する場合があります。

(2)上肢の狭い可動域のみで運転する補助装置

 輸入車で実現され始めたもので、ステアリング操作やアクセルとブレーキなど運転に必要な操作を、モーターなどにより電気的に制御して補助するものです。
 片上肢のみで操作する場合は、ジョイスティックレバーで運転するシステムがあります。後方に引いてアクセル、前方に押してブレーキ操作、左右に倒せばステアリングをその方向に旋回させることができます。
 両上肢の狭い可動域内で操作する場合は、体幹のサポートをした上で、狭い可動域内での小さな力で旋回できる小径ステアリングで運転するシステムがあります。アクセル・ブレーキ操作は、他方の上肢の可動域内に設置した手動装置で行うことになります。
 シフトチェンジや駐車ブレーキ、方向指示器や前照灯、ワイパーなどを集中コントロールするスイッチボックスは、個々の身体機能や動作に合わせて製作されます。
 車内への乗り込み方法については、自動車後方から、リフトなどで電動車いすに乗ったまま車内に乗り込み、運転席に固定される形式となります。
 かなり大掛かりな改造と、運転者の障害状況に合わせた、細かな改造に多くの時間と費用が必要です。

(3)両下肢のみで運転するための補助装置と器具

 両下肢のみで運転する場合は、フランツシステムというものがあります。ステアリングの旋回やアクセル、ブレーキ操作、シフトチェンジ、方向指示器・前照灯などの運転に必要な操作を足だけでできる運転補助システムです。国内では本田技研工業_が扱っており、障害の状況に応じて、各種スイッチやレバーの位置、形状などを考慮し改造、設置されます。

3 車いすから運転席への移乗と車いすの積載

 体に障害をもつ者が、車の運転をする際に、大きな力を要する作業がいくつかあります。それは、車いすから運転席への移乗、車いすの積み降ろし、ステアリング旋回です。この章では移乗と積み降ろしの補助装置について記述します。

(1)車いすと運転席間の移乗用補助器具

 上肢の力で自身の身体を持ち上げることができる場合、車いすから運転席シートへの移乗に伴う問題はあまりありません。しかし、両上肢の障害などで、自らの体を持ち上げて移乗できない場合は、車いすと自動車のシート間の隙間と段差を少なくするため、移乗台や補助シートを使って臀部を滑らせて移乗する方法があります。
 自分の力では移乗できない場合は、リフトなどで車いすに乗ったまま車内に乗り込み、運転席に車いすを固定する方法もありますが、認可を得た専用の電動車いすに限られます。

(2)車いすの積み込みと収納方法

 車いすを自分の力で積み込めない場合や、電動ユニットを装着した車いすを利用する場合などには、後部座席やルーフキャリア、後部荷室などへの車いす積み込み装置があります。利用する車いすの重量や形状に制限がある場合もありますので、導入を検討する場合には、メーカーに問い合わせることをおすすめします。

4 特殊自動車(低速度自動車)

 日本では、ミニカーと呼ばれる種別の車両です。ジョイスティックで運転するタイプですが、通常の自動車のようなステアリングとアクセル・ブレーキ用手動装置を装備したタイプや、オートバイのようなバーハンドルのタイプもあります。ミニカーは車いすに着座したまま、自動車に乗車し、そのまま車いすが運転席となるものです。
 車室が小さく、揺れや振動も多いことなどから、長距離移動には不向きだといえます。ただし、座席への移乗や車いす積み込みなどの時間は不要となるので、通勤や通学、日常の買い物程度の移動であれば、普通自動車よりも利便性は高いケースもあるでしょう。現状では、普通自動車の運転免許が必要です。 
 すでに免許を取得している方で、運転補助装置では運転できない方や加齢や障害状況の変化などのため車いすから運転席への移乗動作が困難になった方にとって、選択肢の一つといえるでしょう。ミニカーに限定された自動車運転免許取得のための取り組みも進行中のようですから、車いすから自動車のシートに乗り移ることができないため、免許取得をあきらめている方も今後の動向に注意しておいてください。

5 まとめ

 今回は、障害をもった方自身が自動車を運転できるようにするいろいろな装置について紹介しました。障害の状況や、個人の能力によってさまざまな選択肢がありますが、購入の際には専門的な知識を持つ、作業療法士や理学療法士、リハビリテーションエンジニアや、実績のある障害者用自動車改造業者などにご相談の上、できれば実際のものを試すことをおすすめします。
 また、これからの機器の開発や市販化、法制度の整備等に関して、その動向に目を向けておくことも大切です。これまで「できなかった」ことが、それらの発展によって「できること」になるかもしれません。

(こばやしひろみつ 総合せき損センター医用工学研究室)


【参考文献】
1)松尾清美:移動関連機器、テクニカルエイド~選び方・使い方~、80―95、1994
2)松尾清美、市川洌、他:車いすの選び方・使い方、日本リハビリテーション工学協会、福祉用具評価検討委員会、2000
3)市川洌、松尾清美、他:福祉用具解説書 移動機器偏、財団法人テクノエイド協会、1998
4)松尾清美、小林博光:テクニカルエイド~福祉用具の選び方・使い方~、648―655、2002