音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

体験
自動車補助装置のさらなる開発を望む

姜奉求

 私が自動車免許を取得したのは、昭和57年のことです。当時は、C6レベルの頸髄損傷者が自動車を運転することは珍しい時代でした。補助装置も上肢マヒ用がほとんどなく、ウィンカー・旋回装置などを、リハビリテーション・エンジニアやセラピストの方々のご協力のもと、手探りで創(つく)っていきました。
 障害者にとって移動の問題が解決することは、生活に画期的な変化をもたらします。免許を取得してからは、何事にも積極的にチャレンジする意欲が湧いてきました。
 以来20年以上、通学、通勤をはじめ社会参加のための欠かせない足として、自動車は活躍してきました。もし自動車が運転できなければ、私の人生は全く違ったものになっていたでしょう。私に免許取得を根気強く勧めてくださった総合せき損センター医用工学研究室の松尾先生には、心から感謝しています。
 自動車を使用していて一番困るのは、何といっても雨天や炎天下での移乗です。移乗に5分程度は必要なため、激しい降雨のときは全身ずぶ濡れになります。また、体温調節ができないため、炎天の直射日光下では体温が急激に上がり、非常に体力を消耗します。
 運転席に座ってしまえば、運転そのものにほとんどストレスを感じませんので、雨天等での移乗対策を、補助装置のメーカーには今後十分検討してほしいと願っています。具体的には、ルーフの上に電動スライド式のボードを設け、スイッチ操作で“庇”のように左右に飛び出てくる装置の開発です。現在でも、ルーフに車いすを格納する装置に類似するものが存在しますが、かなり高価なので購入を控えています。もっとシンプルにスライドボードだけにすれば、コストも下がるのではないでしょうか。
 また、車体後部から車いすごと乗り込んで運転できる軽のワゴン車があります。それにも、頸髄損傷者が乗降、固定、運転を円滑にできる補助装置の開発を望みます。頻繁に乗降を繰り返す近距離移動用に活用すれば、どんなに行動の機会を増やすことができるでしょうか。仕事では現場や顧客間の移動に、ショッピングやレジャーに、車いすでは遠すぎる、そのつど運転席に移乗するのは手間暇がかかりすぎるという、移動点間の位置関係が微妙な距離にある場合に活用したいのです。
 複数の移動手段を距離や目的に応じて使い分け、街に、海に、野山に神出鬼没に現れることが、私の夢です。その夢は、多くの障害者に共通する夢であると、信じて疑いません。

(かんぼんぐ 福岡県在住)