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この素晴らしい世界をあなたにも

福田孝一

 私がスクーバ・ダイビングを始めたのは、埼玉県障害者交流センターの指導員から「スクーバ・ダイビングの体験会があるので、参加しませんか」と誘われたことがきっかけです。
 私の障害は胸椎11番脱臼骨折で完全マヒの状態です。泳ぐことが苦手だったので、誘われるまでスクーバ・ダイビングをしてみようなんて考えたことは一度もありませんでした。体験会は25mプール(水深1.3m)で行われましたが、「水中で呼吸ができる」ことや「無重力状態」など、陸上では体験したことのない感覚でした。当然ですが、水中の中では息つぎの必要がありません。泳ぎの苦手な私にとって、どんな姿勢でも呼吸ができることも楽しめた要因でした。この体験をきっかけに、オープンウオーター・ダイバーコースにエントリーすることを決めたのです。
 学科講習5回、プールでの実技講習3回を終え、いよいよ2泊3日の海洋実習の日です。はじめて潜った海の中は信じられないくらい素晴らしく、目の前に広がる景色は映画のようでした。実際に海に潜るまでは、魚が見えるだけだろうと思っていましたが、海の中は表現できないくらいの興奮と楽しさを感じさせてくれる場所でした。その後、ボートダイビングをはじめとするいくつかの講習会を受け、現在ではアドヴァンスド・オープンウオーター・ダイバーになっています。魚の群れを少し深いところから見ることができるようになり、珍しい魚を見る機会も増えました。楽しさは日々増すばかりです。
 私の障害でスクーバ・ダイビングを楽しむには、サポートしてくれる仲間の手助けが必要です。主に器材の運搬や介助などですが、自分でできることは自分で行うようにします。私は、ドライスーツ(スーツの中に空気を入れて保温するスーツで、服の上に着ます)を使用しています。ドライスーツは潜る前にスーツに入っている空気を抜かないと潜れません。フロートにつかまった状態で脚を下に引いてもらい、脚部分の空気を抜きます。潜水中に注意していないと脚部に空気がたまり、逆立ち状態になってしまうので、はじめはドキドキしていました。装着するウエイトの量や位置、空気を逃がすバルブの操作に慣れるにつれ、快適に潜ることができるようになりました。インストラクターの方にはいつも適切なアドバイスをしていただき、本当に感謝しています。
 はじめは、スクーバ・ダイビングなんてと考えていた私が、今は海のことを考えると、わくわくした気持ちになります。一人でも多くの方に、海の素晴らしさを知っていただければと思います。海であったらぜひ、声をかけてください。

(ふくだこういち 埼玉県在住)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2002年10月号(第22巻 通巻255号)