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列島縦断ネットワーキング

京都
日本ダウン症ネットワーク(JDSN)における
オンラインを中心としたサポート活動

巽純子

 ダウン症児を初めて持った親は、次のような「情報の問題点」を常々感じていました。1.多くの産科・小児科医が初めてダウン症児の親になった人に対し、児がどのように発達するか、どのように育てるか、療育機関などの情報を提供できない、2.行政の窓口のどこで、どのような福祉サービスが受けられるかがわからない、3.療育や医療健康管理などの情報やサービスの質や量の地域格差が大きい、4.わかりやすい情報が少ない。
 一方、ダウン症に関する各領域の専門家(小児科医や療育の専門家、言語療法士や障害児教育者など)からは、次のような「情報の問題点」があげられていました。1.偏った情報、科学的根拠のない情報がある、2.学際的に整理された情報のデータベース化が欠如している。
 前記の「情報の問題点」を解決するために、1995年7月に茨城県ダウン症協会により開設された「日本ダウン症ネットワーク(JDSN)ホームページ」を接点とする全国各地のダウン症児の親や兄弟姉妹のネットワークと、各領域の専門家が協カし、1996年12月に「日本ダウン症ネットワーク(JDSN)委員会」(委員長:当時は武部啓京都大学医学部教授)を正式に設立しました。すなわち、親と専門家が協力することによって科学的に正確で新しい情報、そしてわかりやすく実際的な情報の提供ができると考え、学際的有機的なネットワークとして、JDSNは設立されたのです。なお、2002年1月8日にNPO法人としての認証を受け、現在はNPO法人「日本ダウン症ネットワーク」が正式名称となっています。

■活動を支える仲間

 JDSNの活動が親の会と異なるのは、その構成メンバーです。全国に広がった200余人(ダウン症の本人、家族の親と小児科、産婦人科医師、遺伝学、生命倫理学、特殊教育、教育学、福祉、公衆衛生、看護学などの研究者など全国の専門家、一般市民等)からなるJDSN委員が、メーリングリストを活用してオンライン会議や情報交換などの活動を展開しています。

■JDSNホームページ(http://jdsn.gr.jp)

 ダウン症および染色体起因疾患に関する内外の情報や地域の親の会の会報からの転載、海外文献の翻訳などの情報と、ダウン症児を授かった家族に対する最初の情報を用意しています。また、全国各地の親の会や専門家集団との連携により、最新で豊富なオリジナル情報を速報しています。2002年7月末現在でのアクセス数は30万回を超えました。

■JDSNデータライブラリ

 データライブラリは、ダウン症や染色体障害に関するオンライン図書館をめざして情報を蓄積し、提供しています。データライブラリは、ホームページに比べ、より具体的な項目別の検索に中心をおき、知りたい項目についての論文、体験談、報告書、写真などが返されるシステムです。検索しやすいように、章・節で情報を整理した目次方式をとっています。特定の情報を必要としている人が容易に的確な情報を得るのに便利です。また、ライブラリは情報を検索することができるほか、読者であるライブラリユーザー自身が新規データを登録することもできます。

■JDSNウェッブ会議室

 一方的になりがちなホームページなどからの情報提供のあり方を補完し、双方向性を重視して設けられたシステムであり、ホームページから簡単にアクセスできます。相談、情報交換の場としてまた、専門家によるコメントを得たり、当事者同士のピアカウンセリング機能を果たすことができます。

■「日本ダウン症フォーラム」の開催

 JDSNが開催するわが国初のダウン児者、家族、専門家の全国集会(オフライン)です。1996年より毎年年1回開催されて、2003年11月に予定されている第8回は福岡で開催されます。また、国際ミニシンポジウムをフォーラム前日に開催し、海外からの専門家、当事者を招聘し情報の交換をしてきました。

■ダウン症関連NPOの国際対応

 アジア太平洋地域ダウン症協会、世界ダウン症連合(DSI)の日本代表組織として、内外の窓口として国際親善情報交流を担っています。

■電子メールによる相談活動

 各地からのダウン症に関する電話やE-mailでの相談に対して、JDSN委員が適切なアドバイスを提供しています。

■各地域の親の会の支援活動

 各地の親の会が地域の端末となり、JDSNデータライブラリなどの資料がインターネットを持たない方々にも提供されています。親の会で対応できない専門的な相談にもJDSN委員が対応しています。

■いでんいんふぉめーしょんUPSHOP

 ダウン症をはじめとする染色体の変化による障害や遺伝性の疾患について、また一般的に遺伝とは何か、生命とは何かについて、一般市民を対象にわかりやすい展示スペース「店」とホームページで情報を提供しています。

■研究活動

 JDSN委員の有志により、オンラインを活用した社会啓発の方法や成果を整理した研究活動を行い、学会や専門雑誌への投稿を行っています。

■JDSNの特徴を整理してみると

 行政サービスや、専門家集団による学会活動、そして親の会活動のような既存の社会資源だけでは果たせない役割を担うのがJDSNの活動です。これまで、さまざまな領域の専門家や親、家族などの活動で十分果たせ得なかった諸環境の改善にはJDSNの学際的な役割が重要です。JDSNは、任意団体として既存のあり方に捉われない自由な発想で問題解決を実践してきましたが、本年3月のNPO法人化によって、JDSNの活動が新しい段階に入ると思われます。法人後は行政や関係機関との関係作りが容易になり、全国あるいは地域で一定の役割が果たせるようになると期待しています。

(たつみじゅんこ NPO法人日本ダウン症ネットワーク関西事務局担当理事、近畿大学理工学部)