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車いす・電動車いす
肢体障害者の移動を支援する福祉用具

沖川悦三

はじめに

 下肢による移動が不自由になった人たちにとって、車いすは移動の自由を確保するために最低限必要な福祉用具となります。さらに、車いすがなくては移動ができない人たちにとってみれば、それは生活に必要な生活用具ということになります。どちらにしても個人の使う用具ですから、個人の体格、障害の程度、生活環境、ライフスタイルなどに合っていることが基本です。
 最近、車いすの寸法や角度を調整できるものが増えてきました。これらはまず、個人の体格やある程度の身体状況に合わせることを実現できるようにしています。さらに、座るということに着目して、より楽に座ることができるもの、座席の高さや角度を変えてさまざまな環境に合わせやすくしたもの、動くということに着目して、小回り性や段差乗り越え性をよくし、車いすでの自立度を高めたものなどが増えてきました。
 ここでは、それらの車いすのうちのいくつかを紹介させていただこうと思います。

特殊な車輪構成(6輪構造)で小回り性と段差乗り越え性能を向上させた車いす

(1)日進医療器(株)「NAP―11」

 前輪と後輪がキャスターで、車いすの中央に駆動輪(大車輪)が取り付けられた6輪の手動車いすです。この車輪構成にすると、座席の寸法はそのままで、車いすの全体寸法(特に全長)を小さくすることができます。また、駆動輪が体重のほとんどを支えるようになっているので、車いすをこぐ力や旋回するための力が比較的少なくて済みますし、車いすをこぐときのハンドリムを操作する範囲を前後に大きくすることができるので、より楽に駆動することができます。
 この6輪構造のままでは段差を越えることができません。そこで、この車いすの後輪キャスターにはロック付きガスばねが付いていて、体重を後ろにかけるだけで、前輪キャスターを浮かせることができるようになっています。後輪のキャスターが転倒防止車輪の役目をしますので、安心して前輪を上げ、段差を越えることができます。6輪とも接地した状態で後輪キャスターを固定して駆動輪をはずすと、4輪キャスターの車いすになり、より狭い場所での全方向移動もできるようになります。この機構はまた、使用者が楽な姿勢(後ろに傾けた状態)をとることを可能にしますので、長時間の車いす乗車による苦痛を軽減できます。

(2)昭和貿易(株)「インバケア エクステラ―GT」

 この車いすは電動の6輪車いすです。電動ですので、全体寸法は通常の電動車いすと同程度ですが、小回り性と段差乗り越え性能はとても優れています。普通の電動車いすは狭いところでの走行には向かないのですが、この車いすは屋内でも屋外でも比較的高い走行性を発揮できます。特に段差乗り越えは、前輪キャスターに付いているサスペンション機構(前輪が上下に動く機構)により8インチキャスターで5cmまで越えることができます。

座席の高さや形を変えて長時間の同一姿勢から解放してくれる車いす

(1)ラックヘルスケア(株)「ネッティ3」

 まず基本となる身体寸法や身体機能に応じて、サイズや座席などの各部パーツを選択し、使用者に大まかに合わせることができます。その後、バックレストの張り具合いなどを調整し、より適合を高めることができます。各部パーツはいくつかの種類が用意されており、障害が軽度の方から比較的重度の方まで適合できます。
 座席全体の傾きを変えるティルト機構と、バックレストのみの角度を変えるリクライニング機構の両方を備えているため、比較的良い姿勢で座り、体を休めたいときに休息姿勢をとることもできます。一般的なリクライニング機構では、体と車いすとの間にずれが生じやすく、寝かせたり起こしたりするときにずれてしまうことが多いのですが、この車いすはそのずれを比較的少なく押さえられるように工夫してあります。

(2)(株)今仙技術研究所「リフト式電動車いす EMC―600/610」(図)

 座席の高さを変えることのできる電動車いすです。シート面の高さは床上12cmから80cmまで、電動で上下させることができます。床からの乗り移りやさまざまな高さの対象物への乗り移りが楽になり、さらに高いところの物を取るなど、あらゆる場面での活動性を向上させることができます。また、座席を高くすることで目線の高さを変えることができ、精神的な効果も期待することができます。


図 座席昇降式電動車いす「EMC-600/610」
図 外観寸法図

(3)日進医療器(株)「電動スタンダップチェア」

 座位から立位へ姿勢変換できる電動車いすです。この車いすは、電動起立式の車いすフレームにヤマハ発動機(株)の「電動補助ユニットJW―1」を組み合わせたもので、座位から立位までのどの位置でも電動で動くことができます。立位が基本となる職業(理・美容師、調理師など)でその力を発揮できます。また、座位から立位へ姿勢変換することは、座位での生活時間が長い方にとって、内臓や下肢の骨、また、褥瘡(じょくそう)予防などによい効果を期待できます。目線が高くなることによる精神的な効果は、座席昇降式の車いすと同じです。

今後の展望

 今回紹介させていただいた車いすは、それぞれ同様の機能を持ったものや、それらを組み合わせたものがいくつかの企業で開発、あるいは輸入されています。使用者の体に合わせやすい車いすは、以前と比べ急速に増えていますし、さらにいろいろな機能を持ったものがでてくると思っています。生活に密着したものはもちろんですが、レジャー・スポーツなどライフスタイルの多様化に伴い、それらを満足させる車いすもでてきています。
 これからはさまざまな車いすのなかから自分に合ったものを見つけ、生活の場面によって使い分けのできる環境が整うことを期待しています。

(おきがわえつみ 神奈川県総合リハビリテーションセンターリハ工学研究室)


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