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視覚障害者のコミュニケーション機器
視覚障害者もモバイルの時代

岡田弥

 視覚障害は情報障害であり、移動障害であると言われます。つまり、目が悪くなってまず直面する大きな困難は読み書きと移動であるわけです。
 1980年代半ば以降、パソコンを使って音声を聞きながら操作できるワープロソフトが登場しました。さらにその10年後には、視覚障害者用活字読み取りソフトが普及し、紙に書かれた活字を音声で読み上げてくれるシステムが実用的な価格で手に入るようになりました。これは視覚障害者の読み書きの困難を軽減する大きな力となりました。
 さらにここ数年インターネットが普及し、音声を聞きながらホームページを閲覧したり、メールのやりとりをしたりできるようになりました。これは視覚障害者の情報入手を容易にすると同時に、自宅でパソコンの前にいながらにしてさまざまなことができるという点で、移動の困難に関しても福音をもたらしたと言っていいでしょう。
 ところが、私の視覚障害の知り合いにこの話をしたところ、「確かにインターネットのおかげでいろんなことが家にいながらにわかるようになった。でも、いろんな情報を知ったおかげで前よりも外に出たくなって、移動する機会が増えた」と言われてしまいました。こういう外の世界に向かっての興味が広がるというのも、また別の意味でのインターネットの大きな魅力の一つです。
 さて、こうしてパソコンの楽しさを知り、出歩くことの楽しさを知ると、今度は「外出したときもいろいろな機械を使いたい」という希望が出てきます。巷ではPDA(電子手帳)や携帯電話を使ってスケジュールや住所録の管理、電子メールのやりとりをしている時代です。視覚障害者が同じことをやりたいと思うのは、当然といえば当然かもしれません。
 前置きが長くなりましたが、そんな訳で、今回は視覚障害者が携帯して使える情報機器をいくつかご紹介しようと思います。
 まずは、点字版の電子手帳「ブレイルメモ BM16」(KGS)。16マスの点字ディスプレイが付いており、入力し記録した内容が点字で表示される機械です。入力も点字形式で行うため、キーの数も10数個しかありません。2MBのメモリ、30時間使用可能な内蔵バッテリーを持っており、重さ約1kgと持ち歩いてメモを取るには十分です。パソコンにつないでデータを移すことも可能です。ただし、点字ディスプレイは高価なため、価格は20万円近くとなってしまいます。
 「ピッポッパロットMK2」(メルコム)は、音声で使う電子手帳です。これ1台で音声電卓、音声電話帳、音声予定表、声のメモ、音声時計などの機能がすべて付いています。音声認識機能を持っており、音声で住所録を開くことができます。電話帳には自動ダイヤル機能が付いており、電話機の送話口にピッポッパロットを当てて操作することで電話をダイヤルすることができます。価格は5万円近くと高価ですが、音声電卓として日常生活用具給付事業の対象となります。
 次は携帯電話です。NTTドコモより発売されているF671iという機種は、通称「らくらくホン」と呼ばれ、高齢者にも使いやすい仕様になっています。この機種はボタンが少なくて大きめで押しやすく、画面の文字も大きいため弱視者にも見やすくなっています。また、着信メールの内容などいくつかの画面表示を音声で読み上げてくれます。これまで携帯の画面が読めないためにiモードを全く使えなかった視覚障害者にとっては大きな一歩でした。しかし、文字入力時の読み上げがないため送信メールが書けないとか、電話帳に登録するときに入力を読み上げないなど問題点も多いのが現状です。今年の9月にこの後継機種F671iSが発売されましたが、基本仕様は変わっていないようです。
 今年の6月に発売された「DTalker Mobile」(ボイスリンク)は、WindowsCEが入った市販のPDA(電子手帳)を音声で利用可能にしてくれます。住所録やスケジュール表、メモ帳といった操作や、インターネットに接続してのホームページ閲覧やメールの送受信を音声のガイドで使用することができます。やや面倒ながら、文字入力や漢字変換も音声で操作が可能です。現在のところ、iモードメール、それも特定の機種の携帯にしか対応していませんが、11月頃には一般の電子メールにも対応可能となる予定です。まだまだ使い勝手がよくない面もありますが、晴眼者と同じPDAを利用していく第一歩といってよいでしょう。
 最後に、8月末から発売されたデイジー録音図書の録音編集・再生機「プレクストークポータブルレコーダ PTR1」(プレクスター)を紹介しましょう。視覚障害者が録音図書を聴く場合、もともとはカセットテープが多く用いられていました。ところが、1冊の本を録音するとカセットテープが何本にもなってしまい、また聴きたいところを検索するにも早送りや巻き戻しに手間がかかって大変でした。そこで、数年前からデイジーというデジタル録音の形式が登場しました。デイジー形式で録音すると、CD―ROM1枚に最高50時間以上の録音をすることが可能ですし、音楽のCDなどと同じデジタル録音ですので、章や節、ページの移動などが非常に簡単になります。このデイジー録音図書を聴くには専用の再生機が必要ですが、これまでのものは大きくて持ち運びには不向きでしたし、再生専用機しかありませんでした。「プレクストークポータブル PTR1」は軽量コンパクトになり、かつ録音機能が付いたため、会議等に持っていってもカセットのようにテープ切れの心配なく録音できるわけです。

 私は「目の不自由な方のためのエンジョイ! グッズサロン」というところで、来室される方々にグッズやパソコンを展示・紹介・販売し、相談にのっています。ここにも多くの視覚障害の方が来られ、非常にうれしく思っています。来室される方の中でも多いのは、パソコンや電子機器の見学や相談に来られる方です。こうした支援機器が視覚障害者の「移動」と「情報」という二つの困難を大きく軽減しているというのは、大いに評価すべきことだと思います。
 しかし、「では視覚障害者も晴眼者と同じようにさまざまな機器を使えるか?」と問われれば、答えは「ノー」です。
 一般に市販される商品を視覚障害者が使う場合、まだまだ不十分な点が多いのが事実です。たとえば、今回紹介した携帯電話でも、メールを読み上げてくれるけれども書くときは音が出ないなど、まだまだ改良の余地があります。アメリカには、高齢者や障害者にも使える商品を作ることを義務づけるリハビリテーション法508条があります。日本でも同様の日本版508条が導入されるという話もあります。各メーカーがユーザーの意見に真摯に耳を傾け、よりよい製品を作ってもらいたいものです。
 点字入力端末等はどうしても視覚障害者専用に開発されることになりますが、これらの商品は販売数が少ないため、どうしても高価になり、あまり多くの種類が出てこないというのが現状です。今後、公的助成などで手に入りやすい価格帯になり、さらに複数の種類の製品が競い合って登場し、選択の幅ができることを期待したいものです。
 これらのことは、今回紹介した携帯型の情報機器に限らず言えることです。視覚障害者も晴眼者も、同じように生活をエンジョイできる支援機器がたくさん登場することを願っています。

(おかだあまね 日本ライトハウス盲人情報文化センター 目の不自由な方のためのエンジョイ!グッズサロン担当)