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みんなのスポーツ

盲人マラソン

鈴木邦雄

1 目の見えない人でも走れるの?

 きっとそう思う人もいるでしょう!
 現在、推定で数千人ほどが一般ランナーとともにジョギングをしたり、マラソン大会に参加しています。
 では、どんな人が走っているのでしょう?
 東京・代々木公園の定期練習会では、最長老は日本盲人マラソン協会会長の杉本さんが、85歳になる今年も元気に走っておられるし、75歳のご婦人も元気に毎回参加され、周回走路を2、3周走っています。他にも、次回のアテネパラリンピックを狙う選手もいるし、最近まで肥満で悩んでいたランナーが見違えるようなフォームで疾走しています。老若男女、それぞれのスピードで楽しく走っています。

2 どんな理由で走り始めたのでしょう?

 晴眼者が健康のために走っているのと変わらないのです。ちょっと体脂肪が多くなってしまった、体重が増えてしまった。そんな理由で運動を始めた人も多いでしょうが、視覚障害者でマラソンをしている人も同じような理由から走り始めています。視覚に障害をもっているために運動不足になった人は多いでしょう。その解消に運動を思い出して走っているのです。
 走らなくても家の近所を散歩するだけでもいいですね。風を感じて歩く爽快さに気がつくでしょう。次の段階はちょっと早足で歩いてみようかな。その次はきっと「ちょっとだけ走ってみよう!」これは障害の有無に無関係でしょう。チョットだけ走ってみて、翌日は思いがけない筋肉痛で苦しんで「もうこんな辛いことなんか二度とやらない!」。これは一般のランナーも同じです。でも2、3日したらあの時の苦しみを忘れて「またちょっとだけ走ってみようか」なんて思うのが常です。そして、だんだん走ることが楽になって、走る距離が伸びてきた時に考えるのが「マラソン大会に出てみようかな?」と思う人が多いのではないでしょうか。
 でも大会だけがマラソンじゃありません。マラソン大会に参加して長い距離を走る、タイムを縮めることもおもしろいですが、それぞれ自分に挑戦している人もたくさんいます。自分だけで健康のためにジョギングしている人が結構多いのです。人に勝った・負けたなんて考えないで、自分の健康のために楽しく走っているのが一番楽しいですね。
 初めは苦しかったジョギングも、1週間、1か月経って、だんだん体が慣れてくると楽しくなります。大会に参加することだけがマラソンではありません。自分への挑戦です。人のことを考えないで自分が楽しければいいと思います。無理せずマイペースで楽しんでください。

3 盲人マラソンってどうやって走るの?

 目の見えない人がどうやって走るのでしょうか?  弱視で単独で走れる人は別ですが、一般的には伴走者という進路を誘導してくれるガイドランナーが必要です。伴走ロープという約1メートルのロープを輪にして、お互いの手に握って走ります。そうです、この伴走ロープ以外は特別に必要な道具は何も要りません。そして伴走者さえいれば、晴眼者ランナーと同じ大会で、同じルールで競い合うことができるんです。これは特に障害者スポーツの中でも注目する点でしょう。伴走者さえいれば、後は自分の足と、体で走ることができます。伴走者は走るための進路誘導をしますが、走ることにはなにも援助してくれません。自分の足で、自分の力で走るしかないのです。
 盲人マラソン競技規則にも伴走者はランナーに助力を与えてはいけないとの規則があります。すなわち、選手を引っ張ってはいけないのです。普通は平行か、半歩下がった位置で伴走をします。一般道路を走っていて特に危険な場所は別ですが、伴走者が前に出て引っ張ると障害者ランナーのロープを側の手が振れなくなります、ですから、特に危険回避以外は平行以上に前に出ることは避けなくてはなりません。
 今年の4月に画期的なことがありました。それは日本陸上競技連盟のルール改正があり、道路競技における視覚障害者の伴走が認められたのです1)。 今までは競技役員や、一般人でも選手に触れることは助力にあたるとして、厳しく禁止されていました。皆さんもマラソンのテレビ中継などで選手が倒れている時、役員がのぞき込んでいても、絶対に手を触れないことをご存じでしょう。今年から伴走に限って一緒に走ることが認められたのです。やがて、テレビに伴走者を連れた選手の姿を見るのも夢ではないでしょう。

4 どうすれば走れますか?

 まず伴走者を探しましょう! ご家族でもよいです。一緒に走ってもらえる人が見つかれば最高です。ご家族なら朝晩に自転車で併走してもらって、荷台につかまって走ることも可能です。柱にチューブなどを固定し、反対を腰に結んで引っ張り、その場駆け足をしている方もいます。階段を上り下りしながら脚力をつけている方もいます。橋の欄干に白杖を当てながら、白杖がカンカンカンと音を立てるのを注意信号として、一般の歩行者にアピールしながら走っている方もいます。グラウンドなどで、中心に杭を打って、そこからロープを延ばして円周走をしている人もいます。でも伴走者が見つかればそれ以上の好条件はないでしょう。自宅の近所に伴走者が見つからない時は、地元のマラソンクラブなどに相談してみるのも一つの方法だと思います。

 走るのはちょっと! と思う人は早足で歩くのもよいでしょう。その時でも一緒に歩いてくれる人がいたら、いつものようにヘルパーさんの肘につかまるのでなく、伴走ロープと同じような物を使うと大きく手を振って歩けます。いつもの歩きと違って手を振って肩を振って歩くと、きっと肩こりなんて飛んでいってしまうでしょう。

5 大会に参加してみませんか!

 少し走りに自信がついてきたら、マラソン大会に参加してみてはいかがですか? 町内会の運動会みたいなものでもよいですし、何千人も参加するマラソン大会もあります。視覚障害者だけが参加するマラソン大会もあります。
 マラソン大会の情報は書店にランニング雑誌が並んでいます。それらにたくさんの大会情報が掲載されています。全国では毎週のようにマラソン大会が開かれていることにビックリするでしょう。1キロぐらいの短い距離から、5キロ、10キロ、フルマラソン、などなどいろいろな大会があります。中にはウルトラマラソンと呼ばれる100キロ、200キロなどの気が遠くなるような距離の大会もあります。ご自分の走力に合った大会を選んで、ちょっとだけ挑戦してみるのも刺激になるでしょう。
 昔は視覚障害者がマラソン大会に参加して走ることが難しい時代もありました。「危険だから!」。主催者はそういう理由で何とか参加を断っていましたが、今では全国のほとんどの大会が視覚障害者の参加を認めていますし、積極的に参加を勧誘している大会もたくさんあります。
 現在はパラリンピックなどで、フルマラソンを2時間30分程度で走る人もいます。国内でもフルマラソンを2時間台で走る人もたくさんいますし、3時間台で走る人はそれこそたくさんいるのです。このようなスーパーランナーの伴走者は大変ですね、選手より速くなくてはいけないのですから。でも、今はいろいろなサポート組織が伴走者を紹介していますし、伴走者の練習会も全国で行われています。実業団の現役選手や、大学の陸上部選手などが伴走者を務めてくれることが多くなりました。
 一般のランナーの場合はどうでしょうか?各地で視覚障害者と伴走者の練習会が開かれていますので、練習会に行けば伴走者がいて走ることのできる環境はだいぶ整ってきました。でも、「いつでも」・「どこでも」にはほど遠いのが現状です。
 首都圏から少し離れると、視覚障害者で走る人も伴走者も極端に少なくなります。特に伴走者がいないときは、せっかく走りたいと思う人がいても走れません。全国で伴走者が増えて「いつでも」・「どこでも」走れるようになるとよいですね。私たちはそのために活動しています2)

6 どんな大会がありますか?

 一番歴史があるのは、日本盲人マラソン協会主催の「全日本JBMAマラソン小田原大会」が毎年11月に開催されて、今年は20回の記念大会です。他にも「視覚障害者健康マラソン東京大会」が毎年3月に東京・立川市の昭和記念公園で開かれていますし、一般の大会に盲人の部を併設している大会は「霞ヶ浦マラソン」、「青島太平洋マラソン」、「福知山マラソン」などです、探せばほかにもあるでしょう。南の沖縄では「視覚障害者沖縄マラソン」が1月に開催されます。
 現在は、一般の大会でも視覚障害者を理由に参加を断ることはほとんどなくなりました。分からないときは大会本部に問い合わせるとよいと思います。前記の大会の主催団体と連絡先を末尾に記載しておきます。

(すずきくにお 日本盲人マラソン協会会員・障害者スポーツ指導員)


主要大会の開催日と連絡先(開催月順)

◆「視覚障害者健康マラソン東京大会」(3月)
 東京視覚障害者ランニングクラブ 
 03―3377―6699
◆「霞ヶ浦マラソン/(兼)国際盲人マラソン」(4月)
 土浦市教育委員会保健体育課 
 0298―26―3457
◆「全日本JBMAマラソン小田原大会」(11月10日)
 日本盲人マラソン協会
 0465―42―2191
◆「福知山マラソン/全日本盲人マラソン選手権」(11月23日)
 福知山市教育委員会福知山マラソン事務局
 0773―24―3031
◆「青島太平洋マラソン(盲人の部)」(12月15日)
 宮崎市障害福祉課内「盲人マラソン事務局」
 0985―21―1772

1)日本陸上競技連盟)の競技規則第144条、競技者の助力の項に以下の注釈が追記された。
 〔注〕視覚障害者が道路競技に参加する場合の伴走者は助力とはみなさない。
2)筆者のホームページで「伴走ガイド」や、「各地の練習会」などの情報を提供しています。
 またメーリングリストbanso(伴走)を主催しています。アドレスは、
 http://village.infoweb.ne.jp/~suzukik/