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インタビュー
レックス・フリーデン氏に聞く
(国際リハビリテーション協会(RI)会長)

インタビュアー 藤井克徳
(日本障害者協議会常務理事、本誌編集委員)

―RIは今年80周年を迎えられたそうですね。特に国際障害者年(1981年)以降のこの20年ほどの成果は、どのようなものがあるでしょうか。
 この20年の間に、RIは発展を遂げてきたわけですが、とくに近代におけるRIとしての役割をより認識するに至りました。
 RIは長い歴史があるわけですが、以前はむしろ慈善活動をする団体でありまして、障害児を支援するとか、発展途上国で障害発生の予防といった活動に取り組んでいました。しかし、今では権利擁護的な意味合いをもった団体になってきています。最近では、国連での障害者に関する人権条約の採択に向けてイニシアティブをとっていくという立場など、権利擁護の性格を強めていると思います。

―80周年の節目を迎えられた今、RIの当面の重点課題は何でしょうか。
 まず主要な重点課題は、国連で検討が始まった障害者権利条約の採択の促進です。RIのユニークな特徴は、単なる障害者の団体というのではなくて、障害のある人々と障害のない人々の両方がメンバーになることができ、双方が一緒に活動できる団体になってきたということです。こうした活動にももっと重点を置かなければなりません。

―今年の7月下旬から8月上旬にかけて、国連では障害者権利条約について、1回目の特別委員会が開かれました。1回目の特別委員会をどのように評価しておられますか。
 まず、この特別委員会を開催することができたこと自体、非常に大きな成果だったと思います。メキシコやエクアドルといった国々のリーダーシップはたいへん印象に残るものでした。そこで討議されたものは、非常に有意義なものでしたし、また多数のNGOの障害者団体が参加していました。
 ただ、一つ失望した点があります。と言いますのは、特別委員会の最終決議で、結局のところ、条約を採択しようという呼びかけにはならなくて、単にこの話し合いをさらに続けようということでしかなかったことです。

―来年の5月か6月に、2回目の特別委員会が開催される予定になっています。この権利条約の本格的な議論が始まったときに、フリーデンさんとして、この条約に何を盛り込むべきであると考えましたか。
 たいへん難しい質問ですね。まず第1番目に、この条約が純粋に人権に関する条約であるべきだと考える国や障害者団体があります。その一方で、この条約は社会権を規定する条約であるべきだとする国や人たちがいます。非常に難しいところですが、両方の要素を備えるべきだと考えても、決してまちがいではないと思います。
 財源が豊かな国は、この条約が富の移動を意味するものであっては困るという考えをもっています。ですから純粋に人権の条約であってほしいという考え方になるわけです。海外援助が増すことを避けたいわけです。障害者の観点と、そして私どもの立場から言いますと、このテーマは軽々には論じられないのです。本当の意味での平等をどう捉えるかということです。ただ大切なことは、発展途上国のことを真剣に考えなければならないことであり、そこに住む障害のある人たちの生活の質を高めていくために有効なものでなければなりません。

―この障害者権利条約に関して、急いで採択をしてほしいという国と慎重にという国がありますが、今後の進め方についてどのように考えられますか。
 私の考え方としては、迅速にそして同時に注意深く採択するのがいいと考えます。それは十分に時間をかけるという意味ではなく、時間をかけることが必ずしもよい方向に向かうとは思えません。

―子どもの権利条約は、1978年に提案されて11年をかけて89年に採択されました。これはあまりに長すぎたという感じがします。今般の障害者権利条約は採択まで何年くらいかかると見込んでおられますか。ズバリ予想していただけないでしょうか。
 なかなか、答えにくい質問です。と言いますのも外交的な要素が多分に関係してくるからです。それ以外の要素が加わってくることを含め、非常に読みづらいのです。予想というよりは私の目標としましては、3年を考えています。

―2回目の特別委員会がたいへん大事になってくると思いますが、次回の特別委員会で何をなすべきか、また、次の特別委員会開催までに何をなすべきか、これらの点をお聞かせください。
 そうですね。もしこの特別委員会の目的をあげるとすれば、私は三つあると思います。1番目は、近い将来この条約を採択するという堅い約束を果たすことです。2番目には、この約束(公約)の上に人権と社会権の両方を取り上げることです。3番目として、この条約完成のために起草委員会を早い時点で設置することです。
 次回特別委員会開催までにするべきことは三点あります。まず、私ども障害者団体としてなすべきことは、それぞれの国の政府が障害者権利条約について積極的な構えをとるよう働きかけていくことです。政治的な働きかけを含め、多様な方法で努力すべきです。
 2番目としては、障害者権利条約をテーマに国際的な交流を深めていくことです。さまざまな国による、また国際NGOによる交流を促進して、バランスのとれた条約となるよう多様なレベルで議論を重ねることです。どの程度まで人権と社会権とを組み合わせるか、どの程度まで具体的な内容を盛り込むのか、どこに重点を置くのか、十分な検討が必要です。
 3番目は、それぞれの国の国連代表団に障害当事者やNGO代表が加われるよう準備をすることです。もちろん私自身もアメリカの代表団に加えられるよう働きかけを行っていきますが、この働きかけをそれぞれの国で強めてほしいのです。それが容易にできる国とそうでない国があるのではないでしょうか。まずは、代表を任命する大臣に接触しNGOを推薦するよう求め、他国の状況なども伝えることです。とにかく、障害者権利条約の検討の過程で障害のある人々が豊富に発言することが決定的に重要なのです。政府側とNGO側の双方が発言しあうところに内容の充実が図られていくのです。

―そこで、RIの役割はたいへん大きいと思うのですが、RIとして権利条約を促進していくために独自の戦略をお持ちですか。
 国際的な障害者団体の連合組織としてIDAがあります。地域・国によっては、RIが大きな影響力をもっているところ、またDPIが影響力をもっているところ、さらにはWBUですとか、WFDが影響力をもっているところがあります。これらの組織が国際レベルで、また地域や国レベルで戦略についての調整を図ることが重要です。
 RIとして、固有の戦略は今のところありません。ただ言えることは、RIには、専門的な知識をもった方々が結構いらっしゃるということです。たとえば医師や教育者、法律家、職業関係者などといった人々です。権利条約策定にあたって、そういった専門家の知識や経験を投入していくことが可能です。もう一つ、RIは中近東で非常に影響力のある組織です。この点でも役割が発揮できるかもしれません。
 障害者権利条約という歴史的なテーマを推進していくためには、一つの組織や団体がユニークな戦略をもつことはそれほど重要なことではなく、むしろさまざまな組織が協調して条約策定に向かっていくということが大事であろうと思います。

―権利条約の議論はメキシコの提案にはじまったわけですが、メキシコが先行しすぎているという意見が一部にあります。この点についてはどのような感想をお持ちですか。
 国連の組織の中にあって、あることを展開しようとする時に主導的な役割を担う国が必要になってきます。今般の障害者権利条約については、メキシコが主導的な立場をとる国となったのです。メキシコのような国がなければ、今日のような動きにはなっていなかったのではないでしょうか。

―私は、第1回の特別委員会を傍聴しましたが、そこでの印象の一つに、アメリカや日本のような経済力のある政府代表(GO)の発言が非常に消極的であるように感じました。この点をどのように見ておられますか。
 国連というところは、すべて加盟国の政府によって構成されています。各国の特徴が現れるところです。このような中で、日本やアメリカ、ヨーロッパの一部の国々、カナダなどは、非常に官僚的な色彩が強い国です。障害者権利条約のようなテーマについては、彼らはイニシアティブをとろうとはせず、時間をかけるべきであると主張するのが常です。どう見ても、熱意をもっているようには見えません。ただこれらの国を動かすことは非常に重要であり、これらの国々のNGOが政府に対して政治的に圧力をかけていくことが必要です。もし政治家とかマスコミがまた一般の人々がこの権利条約採択に非常に関心をもっていることが分かれば、彼らはもっと熱心にイニシアティブをとろうとするに違いありません。

―最後になりますが、日本のNGOへの期待を一言お願いします。
 日本のNGOは、すでに日本国内でもアジア・太平洋地域でも強力に活動しています。日本国内での生活の質を高めていくうえでも、自立生活の向上を図るうえからも積極的に活動しているように見受けられます。また、重要な国際的な会議には必ず日本のNGOの代表の方が出席しています。こうして見ていくと、今般の障害者権利条約の採択を促進していくうえでの国際的な役割という点では、大切なポジションにいるのです。ぜひ、採択促進の運動を支援してほしいと思います。そのためには、日本国内で、障害関係の組織間で互いによく話し合い、協力してリーダーシップをとってほしいと思います。またアジアの関係者と交流を深めていくことも大切で、その点で、先日行われた日本の関係者も入ってのアジアのIDAメンバーの交流会はとても印象的でした。

―今日は、たいへん興味深いお話をありがとうございました。フリーデンさんの今後のご活躍を期待しております。