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キキ・ノードストローム氏に聞く
(国際障害同盟(IDA)議長)

インタビュアー 奥平真砂子
(日本障害者リハビリテーション協会研修課)

―まずキキさんが議長をされている国際障害同盟(IDA)について教えてください。IDAとはどのような組織ですか。
 IDAとは、七つの組織から構成される国際的なネットワークです。メンバーはそれぞれに独立した組織ながら、IDAを通じて一堂に会し、討論や活動を行っています。目下の課題は障害者の権利条約の制定ですが、これまでも国際レベルで共通に抱えているテーマや問題に対して、ともに取り組んできました。七つの加盟組織とは、障害者インターナショナル(DPI)、知的障害者のための組織であるインクルージョン・インターナショナル(II)、国際リハビリテーション協会(RI)、世界ろう連盟(WFD)、世界盲ろう者連盟(WFDb)、世界盲人連合(WBU)、精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(WNUSP)が参加しています。地域および国内における各組織の構造や活動にはまったく干渉することなしに、国際的なレベルや国連の分野でのみ協力し合うことを前提としています。

―去る7月末に国連では、障害者の権利条約について特別委員会が2週間にわたって開かれました。キキさんはこれに参加されたわけですが、どのような感想をお持ちになりましたか。
 すでに報告があったように、この特別委員会には60か国の政府代表が参加したのですが、残念ながら参加者の問題意識は低く、準備不足であったと言わざるを得ません。参加者の知識や経験も非常に限られており、その結果、会期中は予定よりも早く終了した日が多かったくらいです。そこでIDAのメンバーは、障害者団体の関係者ならだれでも参加できる集まりを結成し、朝のブリーフィングで前日に話し合われた議題の補足説明をしたり、昼食時に人権について学び合う機会を設けたりしました。なぜなら障害当事者は、障害者に関する問題には詳しいものの、人権の問題はほとんど知らないことが多く、逆に人権の専門家は障害者の問題に疎(うと)い傾向があるため、もっと勉強する必要があったからです。また集まりでは、その日にだれが何のトピックについて話すべきかについても言及し、発言者には、当日のアジェンダ以外の話題に触れないという原則を貫いていただきました。その結果、参加者の準備不足や知識不足は補われましたし、特別委員会の成功のために貢献した私たちに対する各国政府の印象もよかったと思います。

-障害者運動にかかわっている人間には、人権の分野での活躍は無理である、というようなことをおっしゃいましたか。
 いいえ、障害者と人権を語るときには、二つの異なるトラックが存在すると申し上げたかったのです。障害者関係にはすでに一つのトラックが存在し、人権関係もまた然(しか)りです。人権関係で既存の条約には主要なものが六つあり、それぞれの分野で弁護士や外交官といった専門家が人権の普及のために奔走しています。この方々は障害者に関してあまりご存知ないので、障害者の問題を取り扱うのは難しいでしょう。反対に私たち障害者は、外交をはじめ、人権に関する知識を持っていないことが多いわけです。そこでこれらの二つのトラックを合流させ、互いにもっと学習する必要があるということです。

―それにしても1回目の特別委員会に60か国の参加とは、すばらしい成果をあげられたと思いますが。
 次回の特別委員会では、今回の2倍ぐらいの代表に参加してほしいと願っています。国連の加盟国は190か国ですから、60か国は少なすぎます。

―IDAとしては、「障害者の権利条約」制定に向けて、どのような活動を実施されていますか。
 今の段階で考えていることは、独自の「条約」を策定することです。もっともこれは、皆さんの同意を得られた場合に限りますが。ご存知のように障害者の問題は一筋縄ではいきません。一つの団体が望んでいることが、別の団体にとっては都合がわるい、ということもしばしば起きます。しかし、もしご賛同いただけるのなら、「障害者の権利条約」のための第2案を起草したいと思っています。条約の第1案は、すでにメキシコで起草され、国連に提出済みです。しかしNGOやIDAが独自の条約案を作ってもよいと思います。ただ、まだ準備も整っていませんし、弁護士や人権分野の専門家に相談している段階にすぎません。同意に至った点も多々ありますが、非常に微妙で、解決が待たれる問題も多く残っています。しかし障害者団体がバラバラに条約案を出してきて、統率がとれなくなるという状況は、何としても避けねばなりません。そこで現在は、戦略を練っている最中です。

―来年の5月にも第2回目の特別委員会の開催が予定されているとのことですが、これに対して何か特別なプランをお持ちですか。
 ええ、でもまだ暫定的なものにすぎません。今回の特別委員会で可決された決議案は、国連総会の内部に設置された第三委員会が11月4日から8日に集まる際に提出されます。この場で第三委員会が特別委員会での決議を承認すれば、第2回目の特別委員会が開催されますが、却下された場合は、次の開催はありません。来年の5月か6月に第2回特別委員会を開くというのは、まだ提案段階であって、決定したわけではないのです。

―国連はとても複雑な組織のようですね。
 その通りです。きわめて複雑なため、理解するのも容易ではありません。まだ提案されているだけで、決定ではありませんが、第2回特別委員会が開催されたら、そこで初めて「障害者の権利条約」を制定すべきか否かが決定されます。つまり「権利条約」の制定の是非さえ、いまだに決まっていないのです。

―本当ですか。もうすでに決まっていると思っていました。
 そうなんです。今回の決議にも、「条約」という言葉は見当たりません。人権擁護のためのインスツルメント(手段、法的拘束力のある文書)という言い方はしていますが、「条約」とは明記していません。

―現段階では「人権擁護のためのインスツルメント」と呼ばれているようですが、「条約」の制定をめざして、日本の障害者団体や、日本政府、NGOなどは、障害者の分野において、何をすべきだとお思いになりますか。
 日本のあらゆる障害者団体や障害当事者が結集して、フォーラムを開催し、「条約」に何を盛り込みたいかを話し合うことです。また政府にも働きかけて、フォーラムの結果を承認するよう呼びかけたり、結果についての討論を要求したりすべきです。そこでまず障害者団体同士が交渉を行って決議を採択し、それを携えて、政府側の外務省をはじめ、「条約」にかかわりがある省庁との交渉を開始します。その結果が、日本としての正式な見解と見なされ、次の段階への重要なステップとなるはずです。むろんこれを実現するには、日本のすべての障害者団体や、この問題に関心のあるすべての組織が、同フォーラムに参加することが大前提です。

―最後の質問になりますが、日本のあらゆる障害者団体に対して、どのようなことを期待されますか。
 障害者の問題にかかわる団体や組織には、人権に関する勉強をして、詳しくなっていただきたいと思います。人権関係の文書を読み、すでに存在する六つの人権条約の内容や構成にも精通してください。そうすることで、「障害者の権利条約」では、他の条約に盛り込まれている条項の繰り返しを避け、新たな条項を追加するだけで済みます。私たちには、既存の内容を繰り返すことに時間やエネルギーを費やしている余裕はありません。だからこそ障害者団体には、人権に関する教育に真剣に取り組んでいただきたいのです。そのためには、人権の専門家をお招きして、教えていただくのが一番いいと思います。またこのアジア太平洋地域にも、IDAと同様のストラクチャー(組織構造)を持っていただければ、IDAとの意思の疎通もしやすくなるはずです。何にもまして重要なのは、コミュニケーションだと思います。

―どうもありがとうございました。