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ポスト十年への取組みを考える
 ―新たなRNNの枠組みと活動を中心に―

松井亮輔

 大阪フォーラム(10月21日~23日)最終日午後の全体会議は、「ポスト十年への取組みを考える―新たなRNN(アジア太平洋障害者の十年推進NGO会議)の枠組みと活動を中心に―」をテーマに、国際障害同盟(IDA)のメンバーである障害者インターナショナル(ビーナス・イラガン氏)、国際育成会連盟(J.B.マンロー氏)、リハビリテーション・インターナショナル(ベニー・チュン氏)、世界盲人連合(チュン・ホ・クァ氏)、世界ろう連盟(小椋武夫氏)、世界盲ろう連盟(福島智氏)および精神医療利用者・生還者世界ネットワーク(メアリ・オヘイガン氏)の各地域代表をスピーカーとして、また国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)代表高嶺豊氏およびアジア太平洋障害開発センター代表ベンジャ・チョンラタノン氏を助言者として招いて、行われた。
 この全体会議の主な目的は、1.2002年5月のESCAP総会で「21世紀におけるアジア太平洋地域の障害者にとって包括的でバリアフリーの、権利に基づいた社会の促進」に関する決議58/4が採択されたことに基づき、アジア太平洋障害者の十年(1993年~2002年)(以下、十年という)が2003年から2012年までさらに10年間延長されることが決まったこと、2.一方、2001年12月の国連総会で採択された「障害者の権利及び尊厳の促進と保護に関する包括的かつ総合的な国際条約」に関する決議56/168に基づき、特別委員会が設置され、障害者権利条約案についての検討が始まったこと(同委員会の最初の会合は、2002年7月29日~8月9日ニューヨークの国連本部で開催。第2回は、2003年5月または6月を予定)などを受け、これらを推進するための地域ネットワークの枠組みについて議論することである。
 以下では、全体会議で取り上げられたRNNに代わる新たな地域ネットワーク組織である「アジア太平洋障害フォーラム(APDF)」を中心に紹介することとしたい。

■RNNからAPDFへ

 これまでの十年の推進活動は、1993年10月沖縄で開かれたNGO会議の際設立されたRNNにより、毎年地域の各国持ちまわり開催のキャンペーン会議を中心に展開されてきた。RNNは、同会議開催を通して十年とその行動課題についての啓発に大きな成果を上げてきたが、対象国や参加団体などが主に東アジアおよび東南アジアに限られ、また活動も年1回のキャンペーン会議にほぼ限定されていた。したがって、全体会議では、それをさらに拡大・発展させることを意図して、APDFの基本構想が提案された。
 APDFは、十年の行動課題に代わるものとして、大阪フォーラムに引き続いて大津で開かれるESCAP十年最終年ハイレベル政府間会合での採択が予定されている「びわこミレニアム・フレームワーク」(以下、びわこフレームワークという)をNGOサイドから推進することを目的としたもの。設立後日が浅く、これまで十年の推進活動に参加してこなかった精神医療利用者・生還者世界ネットワーク(1991年設立)および世界盲ろう連盟(2001年設立)も含め、各団体代表からAPDFの基本構想に賛意が表された。
 APDFの会員は、IDA加盟団体の地域レベルの組織および域内各国・地域の全国レベルの組織から構成されることが想定されている。各国・地域会員は、個々の団体の利害を超えてびわこフレームワークの推進に最大限協力・連携するため、障害当事者団体および支援団体からなる障害横断的な連合体としての加盟が望まれる。

■APDFの主な活動

 びわこフレームワークでは、1.障害者の自助組織および関係家族・親の会、2.女性障害者、3.早期発見、早期介入と教育、4.訓練と自営を含む雇用、5.建築環境および公共交通機関へのアクセス、6.情報・通信技術を含む、情報とコミュニケーションへのアクセス、ならびに7.能力開発、社会保障および生計プログラムによる貧困の削減、の7領域が優先領域とされ、それらについて達成すべき年次と数値目標、および目標を達成するための一連の行動が、また、そのびわこフレームワークの目標を達成するための戦略として、1.障害者に関する国内行動計画、2.障害者権利条約実現への取組みの促進などが、またその実施状況のモニタリングと評価のために、1.地域およびサブリージョン会合(2年ごと)の開催、2.地域作業部会会合(これは、十年の行動課題の実施について調整・モニターするために設置されていたテーマ別障害関係作業部会(TWGDC)に相当するもので、国連機関、各国政府および域内の障害者団体をはじめとする市民団体から構成)の定期的開催が、提示されている。
 それを踏まえて、APDFの主な活動としては、次のようなことが考えられる。
 1.障害者権利条約の早期実現に向け、関係機関および団体などと協力・連携しながら全力をあげて取り組むこと。
 2.びわこフレームワーク実施状況のモニタリングと評価を目的に行われる地域およびサブリージョン会合に合わせ、キャンペーン会議を開催すること、また定期的に開かれる地域作業部会に積極的に参加すること。
 ESCAPの十年のレビューによれば、ESCAP加盟国48か国(域外加盟国であるフランス、オランダ、英国および米国を除く)および準加盟国9か国・地域を合わせ57か国・地域のサブリージョンごとの内訳は、東・東北アジア7か国・地域、東南アジア10か国、南・西南アジア10か国、北・中央アジア9か国および太平洋21か国・地域で、これらの国・地域のうち十年に関する宣言署名国は、41か国・地域。署名国・地域をサブリージョン別にみると、東・東北アジア、東南アジアおよび南西アジアについてはほとんどの国・地域が署名しているのに対し、旧ソ連邦に属していた北・中央アジアでは9か国中2か国、太平洋では21か国・地域中13か国・地域にとどまっており、しかも比較的最近署名した国が少なくない。このことからも明らかなように、十年への取組みにはサブリージョン間でかなりの差があることがわかる。
 したがって第二の十年においては、これまでの十年での取組みが遅れていたサブリージョンに重点をおいた活動をすすめる必要がある。なお、毎回のキャンペーン会議では、びわこフレームワークの優先領域とされる領域のいくつかの目標に焦点をあてることで、より実効性のあるものとしうると思われる。APDFの主な活動には途上国の障害者実態調査などが含まれるが、障害者施策への取組みが遅れているサブリージョン各国・地域の障害者の実情を踏まえた効果的な支援活動に取り組むためにも、こうした調査研究活動はきわめて重要であろう。
 また、APDFのもうひとつの主な活動として、アジア太平洋障害開発センター(APCD)への協力・支援があげられる。同センターは、アジア太平洋地域の途上国における障害者のエンパワメントと社会のバリアフリー化を側面から支援するものとして、日タイ両国政府の協力により2004年をめどにバンコクに設置されることになっている。
 その主な事業は、1.ネットワークづくりや連携の促進、2.情報支援、および3.自立生活、自助団体の運営強化、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)、情報・コミュニケーション技術、および物理的バリアフリー環境などの分野について指導・推進できる各国・地域のリーダーなどの人材養成のための研修など。同センター自体での本格的な研修事業は、建物の完成後となるが、同センターの事業は、協力機関・団体なども含め、展開することが構想されており、そうした意味では、APDF会員団体としても協力できる領域が十分あると考えられる。

■APDFの立ち上げは、2003年春に

 大阪フォーラムの閉会式で採択された「大阪宣言」では、APDFへの国際関係団体の地域組織および各国・地域の関係団体などの参加と支援を広く呼びかけるとともに、国際関係機関、域内政府、財団および民間セクターへの支援を要請している。また、大津でのESCAP十年最終年ハイレベル政府間会合最終日(10月28日)に採択されたびわこフレームワークでも、地域協力との関連でAPDFについて言及されている。
 このように、APDF設立に関して、大阪フォーラムおよびハイレベル政府間会合において大筋で支持が得られたことから、2003年の早い時期に正式発足に向け、準備が進められることとなった。

(まついりょうすけ RI副会長・北星学園大学教授)