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地域と共に生きる…

池山美代子

 「なでしこの里」は、神戸市の西区に位置し、窓からはのどかな田園風景が見える小高い丘の上にあり、訪れる人たちの心を癒してくれる。しかし、年配の利用者からは「坂が登られへんようなったら、こられへんわ」と、よく言われる。「私も一緒よ」と冗談で笑って返すが、利用者やご家族の高齢化を思うとふと寂しくなる。
 震災後、遅れている精神障害者福祉の拠点として、全国のたくさんのご支援で社会福祉法人を設立した。開所までの一番の困難は土地の取得だった。精神障害者に対する偏見や誤解から地域の理解が得られず、土地を取得するのは思っていたより大変なことだった。12か所目にしてようやく現在の場所に落ち着いたが、施設まで道路が狭く、そのうえ傾斜地だったため建設は困難を極めた。開所後、神戸市で、はじめての精神障害者授産施設・地域生活支援センターだということで、見学者も多いが、大型車の駐車ができず、そのつど近くの神社や農協の駐車場をお借りしている。
 開所から4年が過ぎ、徐々に地域の皆様に受け入れていただけるようになってきた。今年は、「村の夏祭り」をお隣の神社の境内で行った。地域の婦人会や民謡サークルのご協力で、櫓太古の音に合わせて輪になって盆踊りを踊ったり、屋台でにぎわった。地域では長年途絶えていた盆踊りが復活したと喜ばれた。浴衣姿の幼い子どもさんからお年寄りまで、たくさんの人たちが参加された。だれよりも喜んだのは、利用者代表の実行委員長のYさんだった。「地域の人たちに受け入れてもらっている」と、彼は心からお祭りの成功を喜んでいた。
 「村の夏祭り」以来、さまざまな行事の企画・運営に利用者が積極的にかかわるようになってきた。職員と一体となって、いや職員より主体的に考え、行動する人たちが目立ってきた。今まで私たち職員が、彼らの主体性を伸ばすきっかけを作れなかったのかもしれない。
 現在の仕事に携わってずいぶん時が経つが、年々障害をもっている彼らから学ぶことの大切さを思うのと同時に、自分自身がいかに彼らのことが何もわからないまま仕事をしてきたかを、ようやく今になって、深く考えるようになってきた。共感する、傾聴する、どれをとってみても永遠のテーマーであり、ただひたすら彼らと共に歩む姿勢が大切だと、今は思っている。

(いけやまみよこ 社会福祉法人かがやき神戸 精神障害者授産施設なでしこの里施設長)