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知り隊おしえ隊

ガイドヘルパーはお気軽に

武井視良・悦子

 視覚障害者にガイドヘルパーを行った経験はありますか? 初めての方でも、そんなに難しく考えなくてもよいと思います。気楽にガイドヘルパーに挑戦してみてください。この後に私たちの楽しかった1日をご紹介しますので、ご参考ください。
 私たち夫婦は全盲同士です。今回はガイドヘルパーさんにお願いして、楽しくいろいろな体験をさせていただきましたので、ご紹介いたします。

視覚以外で秋を満喫

 場所は東京都立川市にある巨大な公園国営昭和記念公園です。10月の半ばでしたので、紅葉がとても綺麗でした。もちろん、私たちは紅葉の美しさは見ることはできませんが、鼻の通りが良くなるような生い茂った緑の香り・クツでサクサクと踏みしめる落ち葉の音・落ち葉が腐葉土になりかけている土の香り・湿っぽい葉が乾燥したような手触りの木々等で、聴覚・嗅覚・触覚等を活かすことで視覚以外の感覚器で自然界の厳しさ・美しさを感じ取ることができるのです。
 ヘルパーさんからは、「葉が紅葉しているものとなりかけのものがあります」「この周辺は針葉樹でもう少し先は広葉樹です」「落ち葉が緑の絨毯のようです」等の説明を受けました。植物の名前を言われてもピンときませんが、幹や葉に触れることから自然界のすばらしさを感じ取っていきたいものです。

2人乗り自転車に初挑戦

 外出先で放置自転車に歩行の妨げをさせられていますが、愛用者にしてみればこんなに便利な物はないでしょう。そこで、サイクリングコースがありましたので、2人乗り用の自転車を借りて挑戦してみました。前にヘルパーさん・後ろに私たちが交代で乗りこんで緑の中を走り回りました。自転車を漕ぐと緑の香りが鼻を刺激してとても気持ちが良く、ついペダルを踏み込んでしまい、ヘルパーさんの顔が引き攣っている様子でした。この機会だからと、私たち夫婦だけで数メートル走ってみました。ふらふらしながらも漕ぐことができ、気分爽快でした。全盲同士で自転車に乗ったなんて喝采でしょうね。2人乗り用自転車(タンデム)は道路での使用は禁止されていますので、安全なサイクリングコースでしたらガイドヘルパーさんと楽しめると思います。ほとんど不可能だとは思いますが、道路でも2人乗り用の自転車の使用が認められるようになったら、購入してサイクリングに漕ぎ出したいものです。その際、放置自転車をしないように注意しないといけませんね。

手漕ぎボートは座礁のアクシデント

 時々海上で座礁した大型船のニュースを耳にしますが、私たちがそんな体験をするとは思ってもいませんでした。しかも小さな池で手漕ぎボートでなんて、よい笑い者ですよ。と言うのは、3人で手漕ぎのボートに挑戦することにして航海(?)に出発したのですが、3人の中で満足に漕げる人がいませんでした。私は過去に何度か体験はしているものの、久しぶりで左右の力のバランスが悪く方向が定まりません。他のボートに多大な迷惑もかけ、ひんしゅくを買ったことでしょう。蛇行しながらも何とか池の中ほどに繰り出すことができましたが、真っ直ぐ進まないのは漕ぎ方だけではなく、オールの向きが安定しないところにも原因はあったようです。そこで、オールを握る所にテープを張り、オールの箆(へい)の向きが安定するように細工をしたところ、バッチリでした。
 ボートは少しはまともに進むようになりました。後は舵取りのヘルパーさんの指示しだいです。ヘルパーさんの向いている方向にボートは進みますが、操縦者は後ろ向きですので左右を誤った指示が出たりします。今回は曇り空でしたので、方向を定める目標に太陽を参考にはできませんでした。そこで、緩やかな風が吹いていましたので風向きを目標にすることにしました。風が顔に当たる角度でボートがどちらに曲がったかを感じ取ることができます。ヘルパーさんは方向指示と共に、風向きや太陽の当たる方向も指示していくとよいと思います。池の真ん中で留まっていると、小さな池ですが、鴨や家鴨(あひる)がいまして私たちのボートを心配しているように、手を伸ばすと届きそうな所まで来ていました。
 時間も迫ってきたので帰ろうとして漕ぎ出したのはよいのですが、船底でザラッと音がして止まってしまいました。そうです。座礁したのです。「明日の朝刊の一面に載るね。はずかしーい!」なんて、少しあせっていました。オールで池底の砂を押したりしているうちに動き始め、無事に航海は終わりました。ヘルパーさんの目配りも池底までは届きませんでした。この池は大きな波もなく、モーターボートも走っていませんので安全な所だと思います。視覚障害者がボートの体験をするにはとてもよい環境だと思います。もしも不安なようでしたら、救命胴衣の着用をお勧めします。

触って触れる実感!

 芸術は美しいものですが、「手を触れないでください」の注意書きに私たちは残念な思いをしなくてはなりません。触れてよい作品があれば、どんな物でも観賞したい思いは常に持っています。ここにも在ったんです、楽しめる作品が。それは、鳥の巣の中に数羽の鳥が住んでいる物で、芝生の上に生き生きと構えていました。ヘルパーさんからは止まり木にいる鳥を触らせてもらい、説明書きを読んでもらいました。手の届く範囲は触ってきました。横幅が3畳ぐらいあり、高さは2メートルぐらいありますので、屋根までは手が届きません。素材は木の枝。木目細かく組み合わせてあります。このような作品を観賞するときは、ヘルパーさんからは形状・色・説明書きの音読等をしていただくと私たちの関心が高まるのです。
 最後に、今後のガイドヘルパーをめざす皆さんにワンポイントアドバイスです。

ガイドヘルパーのワンポイントアドバイス

 手引きをする時は、杖を持っていないほうの手でヘルパーの肘を持ってもらいます。歩く速度を確認してください。段差・地面の凹凸・道幅等を説明します。2人が並んで通れない場所にきたら、ヘルパーの肘を背に回し縦列になりヘルパーが先に歩きます。以下の点は控えてください。障害者の背を押す・杖を引っ張る・服を引っ張る等。このようなことは恐怖を与えると共に非常に危険です。本人が困ってない時は断られることもありますが、その点はご理解ください。
 楽しい時間はあっという間に終わってしまいました。今回はヘルパーさんにご協力をいただき、紅葉の秋・スポーツの秋・芸術の秋等と、いろいろな体験をすることができました。楽しい時間を過ごさせていただき、ありがとうございました。

(たけいみよし・えつこ 東京都在住)