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1000字提言

石の文化にふれて

藤村和靜

 ある団体の招きで11月中旬にドイツを訪問した。大聖堂でお馴染みのドイツ北部ケルン市で、自立生活運動「ケルン自己決定の会」のゼーク氏の自宅を訪ね、彼の案内で市内のバリアフリーの状況を拝見した。
 ゼーク氏は脳性マヒのため電動車いすを使用、市内の民間アパートで自立した生活をされていた。アパートは入り口にスロープが造られ、24時間の介護者(介護人3人が1人4日サイクルで交代勤務)とともに暮らしている。西欧は石造りの古い建物が多く、障害者が利用するためには改造が必要であるが、法律では「アパートはフレンドリーに」との規定しかなく、住宅の確保が大変と言う。それでも明るく、満足げな表情が印象的である。
 さて、ケルン市街のバリアフリー。ドイツ鉄道のケルン中央駅と地下商店街とは、つい最近、大型のエレベーターで昇降が可能となったが、さらにその階下にある地下鉄への昇降は一般のエスカレーターしかなく、車いすの利用はできない。彼は行政の連携の悪さを嘆き、現在行政と折衝中と説明する。また、ドイツ鉄道の客車(新型特急などを除く)は入り口に階段があり、車いすで列車を利用するには専用のリフトが必要、このリフトを操作できる人が限られ、列車を利用するためには3日前までに連絡しなければならない。
 さらに、ケルン市内には障害者用トイレが3か所整備され、その一つは大きな楕円の建物(設備は機能的)、トイレは施錠されていて障害者には鍵が配布、旅行者には鍵の貸し出しが行われている。
 ゼーク氏の案内から、ドイツ鉄道と地下鉄との連携には不満、リフト利用の3日前までに連絡は当然のこと。そして、障害者専用施錠式トイレは自慢げにさえ感じられ、とても不思議な感覚を味わった。なぜだろう?
 西欧は石の文化、この文化独特の国民感情や生活習慣、特にドイツは、新しい思想を無条件に受け入れることはなく、頑なに伝統的な文化、体制や習慣を守ってきた。鉄道と地下鉄との連絡など一部でなく全部すべき、でもリフト使用には、ドイツの厳格な職業訓練・資格制度(資格と実務能力の一致が基本)では専門職員が必要であり、事前連絡は当然(日本では半日研修で全職員が操作可能?)なのである。さらに、施錠式トイレにはいささか反論したかったが、なぜか専用思想がそれなりのステータスと感じてしまっては?
 ドイツの保守的、厳格な国民性が窺(うかが)われたと同時に、資格と実務能力の一致の大切さを痛感した旅(目的は職業教育・訓練)だった。

(ふじむらかずよし 丹沢自律生活センター)