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ブックガイド

ユニバーサルデザインのおすすめ本

高橋儀平

 1990年代後半からバリアフリーと並んでユニバーサルデザインという言葉が建築、環境、ものづくりにかかわる人々を覆い始めています。ユニバーサルデザインは、結論から言えば、それを実践する人の「生き方」=「プロセス」をゴールとしているように見えます。昨年末に策定された新しい「障害者基本計画」の中でも、いまや障害者福祉の基本用語である「インクルージョン」という表現はどこにもないのですが、ユニバーサルデザインは3か所に登場しています。まだまだ既存のバリアを解消するための「バリアフリー」という言葉が主体でありますが、新たな変化を政府文書からも読みとれます。
 ユニバーサルデザインとは、一般に「可能な限り多くの人に利用できるグッド・デザイン」のことであり、デザインする当初の時点からしっかりと考えておくことが求められます。そのためには、デザインする過程でユーザー(消費者)の参加が不可欠とされています。ユニバーサルデザインは今、地域によって異なる生活環境や文化、制度を取り込みながらアジアをはじめ欧米諸国で急速に浸透しつつあります。日本では建築、ものづくりにとどまらず、まちづくり、制度・政策、情報など広範な場面での動きが見られます。
 最初の紹介はすでに絶版になっていますが、私自身が入門書としてどうしても取り上げたい『デザインの未来』(1998、都市文化社、古瀬敏編著)です。現在は恐らく公共の図書館等で読めると思いますが、米国で開かれた第1回ユニバーサルデザイン国際会議(1998)の記録を中心としており、初期におけるユニバーサルデザイン論議が興味深く紹介され、現在でもなるほどと考えさせられます。ユニバーサルデザインの提唱者、ロン・メイスはこの会議の直後に亡くなっています。同じく古瀬敏著の『ユニバーサルデザインへの挑戦』(2000円+税、2002、ネオ書房)は、1997年に発刊された『バリアフリーの時代』(1800円+税、都市文化社)を増補したものですが、著者は日本にユニバーサルデザインが定着した理由として、わが国における人口の高齢化問題が強く存在すると述べています。
 川内美彦著『ユニバーサルデザイン~バリアフリーへの問いかけ』(2000円+税、2001、学芸出版社)もまたユニバーサルデザインの考え方を知るうえで格好の本です。内容は1998年と2000年の2回にわたり、米国におけるユニバーサルデザインの専門家約60人にインタビューした記録を中心としています。筆者はこれらのインタビューを通してご自身の考えるユニバーサルデザインの本質を明らかにしていますが、米国におけるユニバーサルデザインの系譜をわかりやすく知ることができます。
 『ユニバーサルデザインの考え方』(2000円+税、2002、丸善)は、ユニバーサルデザインの情報誌で季刊誌『ユニバーサルデザイン』(2000円+税、発行・ジー・バイ・ケイ)の編集長梶本久夫の監修によるもので、デザイン学校での講演記録を加筆したものです。内容は内外の研究者によるユニバーサルデザイン論ですが、B6版としては事例も多く編集されています。
 中川聡監修による『ユニバーサルデザインの教科書』(2800円+税、2002、日経デザイン)は工業製品デザイナーへのメッセージとして書かれていますが、ユニバーサルデザインとは何か、どのようにユニバーサルデザインを進めたらよいかと悩む人々に最適でしょう。内容も考え方から商品の作り方、評価まで総合的で最初のユニバーサルデザインマニュアルと言えるでしょう。
 関根千佳著『誰でも社会へ』(1800円+税、2002、岩波書店)は副題がデジタル時代のユニバーサルデザインとありますように、著者はITの専門家で、だれにでもアクセスできるウェブ情報づくりを進めています。しかし本書は、情報、まちづくり、ユーザー、企業、マスコミ、教育の本質的な意味と社会全体の有り様を問うなど、ユニバーサルデザインを理解するうえでの多面的な読み物となっています。いまはやりのユビキタスにも「誰でも」を忘れないようにと警告しています。
 ユニバーサルデザインは今まさに動きつつある概念ですが、UD&ECO(ユーデコ)と呼ばれるように、内容も含めてさまざまに変化することが予想されます。取り上げた以外にもユニバーサルデザインに関連する本は、必ずしも書名にユニバーサルデザインと題していなくても建築、交通、行政などから多数出版されています。
 また、一般の出版物ではありませんが、容易に入手できるものとして、静岡、熊本、埼玉、福島などの各県が策定している『ユニバーサルデザイン基本方針』などがあります。地域的な特徴を折り込みながらわが国におけるユニバーサルデザインの多様な展開を知ることができます。

(たかはしぎへい 東洋大学工業部建築学科)