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わたしが一番楽しい時

宇野友紀子

 「モンゴルの大草原を馬で移動するツアーがあるんだってよ!」、職場の昼休み、雑誌を見ていた友人が言いました。「うわー! 私、モンゴルに行く。馬に乗れるようになりたい、その乗馬クラブはどこにあるの?」、「JR西明石駅まで行ければそこから送迎ワゴンがあるみたいだから行けるんじゃないかなあ?」、「やったー! 連絡先教えて?」、こうして私は明石乗馬協会に出会ったのでした。
 数回の体験乗馬の後、私は迷わず明石乗馬協会の会員になり、週1回定期的に乗馬をするようになりました。この乗馬協会が、障害者の乗馬に取り組んでいることを私が知ったのは、会員になってしばらくたってからのことでした。
 初めはポニーに乗り、インストラクターに馬を引いてもらいながら歩いたり少しだけ早足をしたりしていました。その頃の私はそれだけでもとてもうれしかったのです。毛がふかふかしたポニー、馬の温かさがとても好きでした。しかししばらくすると、私の中に「もっと上手になりたい、ずっと乗馬を続けていきたい」という気持ちが強くなっていき、回を重ねるごとにどんどん乗馬が楽しくなっていきました。
 練習を続けていくうちに、駆け足までできるようになり、インストラクターから離れて1人で柵で囲まれた円の中を走れるようになりました。走ることの気持ちよさ、それは普段1人では思うように走れない私には最高の喜びでした。「普通の大きい馬に乗りたい」、望みはどんどん膨らんでいき、ある日、とうとうポニーから普通の馬に乗れるようになり、ポニーの時のように1人で走れるようになったのです。それは言葉に言い表せないほどのうれしさでした。
 そして昨年の夏、とうとう私は乗馬協会の主催するモンゴルツアーに行くことができたのです。モンゴルの風はとてもさわやかで、風にそよぐ草の音を聞いていると、なにか心の中にもさわやかな風が吹きこむような気がしました。昼間は、馬に乗って鳥の声や虫の音を聞きながらのんびり歩いたり、乗馬クラブでは経験したことのないほどのすごいスピードで、風を切って長い距離を走ったりしました。そして夜は、牛や馬が草を噛む音を聞きながら眠るのです。日常の生活とはまるで違う体験、トイレがないことも、お風呂がないことも少しも気にならないほど、なにもかもが新鮮で大自然を満喫してきました。
 今は、決められた図形をもっともっと正確に馬を動かせるようになることが目標です。おそらく私はこれから先もずっと乗馬を続けていくでしょう。単調になりやすい毎日の中で、こんなに好きなことに出会えて本当によかったです。

(うのゆきこ 大阪市在住・明石乗馬協会会員)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年3月号(第23巻 通巻260号)