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新「障害者基本計画」のさらなる充実を求めて
―視覚障害者の立場から―

藤野高明

はじめに

 「障害者の完全参加と平等」をメインテーマとして国連が提唱した国際障害者年を契機に国内においてもノーマライゼーションと、リハビリテーションの理念を基調とする長期計画が立案され、国の政策のなかに生かされるようになったことは、長年障害者の生活と権利を守る運動に携わってきた者の一人として大きな喜びと時代の進歩を実感する。
 昨年12月に発表された新しい「障害者基本計画」にも、重点的に取り組むべき課題と分野別施策の基本的方向が、包括的、具体的に明示されており、これらのことが真に障害者、家族、関係者の誠実な願いと実生活を反映する形で推進され、実現されたならば、私たちの生活は大いに改善されるだろうと考えた。
 しかし「基本計画」の全体を見渡して、いくつかの重要な課題について欠落や不十分さを感じるところもあるので、率直に私見を述べてみたい。

平和と人権の視点を明確に

 「21世紀を活力に満ち、国民一人一人にとって生き甲斐のある安全で安心な社会を目指す」とある。「安全で安心な社会」とは、戦争を断固否認した憲法の精神に裏打ちされた平和が維持され、すべての国民が個人として尊重されると共に憲法25条の生存権が保障される福祉社会でなければならない。また別の箇所では「21世紀わが国が目指す社会は、障害の有無に係わらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重しあう共生社会とする必要がある」と書かれている。ここでも人格、個性と共に、基本的人権の尊重を明記すべきだろう。

ほとんど触れられていない参政権保障

 視覚障害者がはじめて点字による投票行為を行って、今年はちょうど75年にあたる。しかし、主権者として当然の権利である私たちの参政権の行使には、いまださまざまな制約と不利な条件が押しつけられている。にもかかわらず「基本計画」では電子投票の導入について一言あるのみで、その他の課題は念頭にもないらしい。これもまた「公職選挙法」の改正につながる課題で「基本計画」の主旨になじまない、と言われるとしたら納得しがたい。
 たとえば点字の郵便投票は復権されず、点字または録音物による選挙公報は法制化されず、最高裁判所裁判官の国民審査も改善されず、投票所へのガイドヘルプサービスの活用も断られる場合が少なくない。全国の点字使用者が約3万人という状況下で、点字投票はおおむね1万強に止まっており、正式な調査こそないものの、見過ごせない極めて低い投票率であることを指摘せざるを得ない。

障害をもつ親の子育て支援

 「基本計画」においては、障害者の自立に重要な役割を担う家族への支援策の充実が付け加えられる一方、障害の早期発見、早期治療に着目した「健やか親子21」などの推進も記述されている。ところが全視協(全日本視覚障害者協議会)女性部などが長年厚労省と話し合い、要求し続けてきた障害をもつ親の子育て支援策については全く触れられていない。このことは少子化対策の一貫であると同時に、障害があっても新しい生命を生み育てる生きがいと社会参加を保障する見地からも非常に重要な課題である。
 点字の「母子健康手帳」の交付、障害特性を熟知した保健師の配置、および相談、指導業務の充実、参加しやすく受講してよく分かる「母親教室」等の開催、視覚障害者にも使いやすい子育てグッズの開発と商品化などをトータルな立場から調整し、推進する支援システムの設置について、ぜひ重点的検討課題に挙げていただきたい。

鉄道駅ホームの課題

 いくつかの課題を残しているとはいえ「交通バリアフリー法」の施行は、移動の安全と自由を確保するうえで大きな前進に違いない。しかし視覚障害者のホームからの転落事故は後を絶たず、深刻な事態を招くこともめずらしくない。いま、ホーム柵の設置が進みつつあるが、ホームドア、可動柵、固定柵などの選択にあたっては、経費面よりも人命重視の見地から検討されるべきである。また点字ブロックや各種音響誘導システムの開発、普及も重要なテーマではあるが、「人の誘導に勝る安全なし」という視点から、ホーム要因の適正な配置および無人駅の解消などが「基本計画」のなかにきちんと位置づけられるよう強く希望したい。

おわりに

 支援費制度、情報バリアフリー、防犯、防災対策など、紙数がつき触れることができなかった。いずれにせよ真に生きがいある共生社会の実現をめざし、この「基本計画」に積極的にかかわっていきたい。

(ふじのたかあき 全日本視覚障害者協議会前会長)