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コミュニケーション保障は人権保障の基礎・基盤

中岡正人

 今回の新「障害者基本計画」を見ると、生活支援の項目に、『利用者本位の考え方に立って、個人の多様なニーズに対応する生活支援体制の整備、サービスの量的・質的充実に努め、すべての障害者に対して豊かな地域生活の実現に向けた体制を確立する』こと、そのための基本的方向として、『身近な相談支援体制を構築するため、各種の生活支援方策を中心として、ケアマネジメント実施体制の整備やケアマネジメント従事者の養成を図る。なお、これらの相談窓口は、様々な障害種別に対応して、総合的な運営を図る』等があげられています。
 大阪府守口市では、2年前の10月から身体障害者生活支援事業が始まっています。運営主体は、社団法人大阪聴力障害者協会。ろう団体が運営主体となって、地域での障害者の自立生活を支援する取り組みをしている所は、現在のところ大阪のみです。
 地域の障害者からの相談内容は幅広く、守口市をはじめとする公的機関と連携をとりながら、情報提供、精神的サポートなどの対応をしています。また、肢体障害、視覚障害、聴覚障害の障害種別サロンの企画の積み重ねの中で、エンパワメントを高める取り組みにも力を入れています。事例を挙げてみますと、「地域のことを知りたい」という肢体障害の方は、作業所を共に訪問する中で、ボランティアとしてかかわりはじめ、社会参加の一歩を踏み出されました。また、初めての子育てに不安をもつ聴覚障害夫婦の方は、ピアカウンセラーをはじめ、地域の保健師、守口市との連携体制のもと、無事出産し、周囲の支援を受けながら主体的に子育てに励んでいます。
 地域での障害者のための支援は、しっかりした支援体制と日々の地道な支援の積み重ねが大切です。しかし、必ず「社会資源の不足」という壁にぶつかります。生活支援事業の中で的確にニーズをつかみ、足りないサービスをどう資源化していくのか、どのように地域に生み出していくのかが課題として残されています。
 一方、『地域生活への移行を促進する』の文言のもとに、「脱施設」が打ち出されています。『施設(入所)は、地域の実情を踏まえて、真に必要なものに限定する』とあります。「真に必要なもの」とは、具体的にどういうことを指すのでしょうか?「施設」というのは、「地域での障害者の自立のための支援」をする役割を持っています。
 大阪のろう重複障害者に限って言いますと、大阪府下には、ろう重複障害者が600人以上いると推定されていますが、身体障害者授産(入所)施設「なかまの里」(ろう重複障害者専門施設)、知的障害者授産(通所)施設「堺・ほくぶ作業所」の2か所しかありません。在宅福祉(ホームヘルプ、ショートステイ、デイサービス)でも、ろう重複障害者に一定の知識を持ち、援助できるのは、大阪ろうあ会館のホームヘルプ事業ぐらいです。全体的にろう重複障害者のための支援は立ち遅れています。
 ですから、地域の生活基盤の整備・推進も、「入所施設」も地域生活支援の一つとして連携させて、共に充実させていく取り組みが必要ではないでしょうか。そして、重要なのは、たとえ福祉サービス(施設福祉、在宅福祉)が整備されていても、コミュニケーション保障がされていないと、意思決定も自己主張もできず、孤独な生活を強いられます。現実に、一般のサービスでは、ろう重複障害者への対応が困難で利用できなかったり、利用しにくかったりします。
 「コミュニケーション支援体制の充実」のところに、『コミュニケーション支援を必要とする視聴覚障害者に対する手話通訳者、要約筆記者及び盲ろう通訳者の養成研修を推進するとともに、これらの派遣体制の充実強化を推進する』とあります。
 前記と同様で、周囲の人との自由なコミュニケーションが保障されることは、人が人として生きるうえでの必須の前提であり、基本的人権保障の基盤です。コミュニケーション保障は、従って、福祉サービスではなく、福祉サービスの基礎・基盤、人権保障の基礎・基盤をなすものです。
 聴覚障害者の立場で言いますと、コミュニケーション上のバリアをなくし、コミュニケーション保障を実現するためには、1.地域での手話啓発・普及、2.高度な専門的手話通訳の保障、3.ろうあ高齢者、ろう重複障害者への対応、この3つの面での充実が必要ですが、この視点が軽視されているように思われます。
 本来は、分野別施策の基本に、コミュニケーション保障が不可欠の前提として掲げられるべきでしょう。

(なかおかまさと 守口市身体障害者生活支援事業所所長)