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1000字提言

あなたは「心の風邪」に
罹ったことはありませんか?

池山美代子

 今、手元に「うつは心の風邪ひきです」という小さなブックレットがあります。仕事上のことがいろいろ重なり、心身共に疲れがどっとでて職場に出て行けないような状態にある私にとって、この小さな本の内容が自分の今の症状にぴったりだと気付かせてくれました。今まで、仕事では多くの利用者に「心の病は、休むことが大切です。1人で悩まないで、専門家に相談するのですよ」と何度言ってきたことだろう。しかし、現実に深く悩む時、人は「この悩みは、だれもわかってくれない、きっと私自身が悪いのだ」と悲観的にだんだん自己を追い詰めていくことをわずかでも体験してみて、周りの理解がいかに大切か改めて考えさせられました。幸い、理解ある職場に恵まれ少し休養をとることができることで気持ちがまた新たになるような気がしています。また、施設の利用者の「心と体のどちらがしんどいの?」「どちらもやね、少し休ませてね」「ゆっくり休んだらいいですよ、温泉にでも行ってきたらいいですよ」の言葉にどれだけ慰められたでしょう。
 今回改めて周りを見回してみれば、いかに「心の風邪」に罹りやすい状況で働いている人が多いかということに考えさせられました。内科外来受診者の3分の1がうつ病と言われています。中高年の男性の場合には職場における人間関係や、ノルマ達成などのストレスが引き金になったり、女性の場合、更年期と重なったりと、人生のライフサイクルにおいて、いろいろな症状を伴って出現します。特に、このような不況の中、また、世界情勢が戦争の危険も孕(はら)んでいるような中、心の不安を感じないで生きていくことのほうが難しのでは。しかし、だからこそ、一人ひとりが自分を見つめどう生きていくか問われている時代でもあるのでしょう。
 少し仕事を離れ自分自身を見つめ直すために出かけた和歌山の田辺地区で、市町村合併が進みつつある過疎地で「こどうの家」という精神障害者のための生活支援の場を見学しました。地域生活支援センター分室に8人ほどの利用者と、1人の職員がのんびりと過ごしておられるだけでしたが、たぶんここがなければいつまでも在宅でになるであろう彼らの将来が予想され、「これが本当の地域支援だ」と原点に帰った思いで感動しました。
 日本の多くの市町村では、行き場のない精神障害者が、在宅で孤独に過ごしているのだろうという思いが巡り、早く元気になりこの仕事に向かわなければと思っている自分自身に気がつき、病は重いことに愕然としたことです。

(いけやまみよこ 社会福祉法人かがやき神戸 精神障害者授産施設なでしこの里施設長)