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ブックガイド

福祉を学ぶ学生におすすめの本

成田すみれ

 障害のある人々の生活支援や、就労就学など社会参加の現場、そして障害福祉に関する何らかの職務に携わることを考えている学生の方々へ、また現在職務に就いている方も含めて、上田敏著『リハビリテーションの思想第2版 人間復権の医療を求めて』(2000円+税、医学書院、2001年)を図書としておすすめします。
 この本はリハビリテーションに携わる関係専門職(医師、看護師、理学療法士、作業療法士などのセラピスト、ソーシャルワーカー、義肢装具士、介護福祉士など)とこれら職種をめざす学生を対象に、リハビリテーションの思想と「こころ」を理解してもらうために書かれたものですが、障害者福祉におけるリハビリテーションという重要な理念を、障害の概念と構造化についてていねいな解説を加えながら、理論的にかつ実証的に分かりやすい言葉で伝えています。
 リハビリテーションという言葉がわが国に登場して以降半世紀近くの歳月が経過しましたが、今なお悪くなった手足の「機能回復訓練=リハビリテーション」との社会的常識がまだ一般的な理解です。
 ここでのリハビリテーションとは「人間らしく生きる権利の回復」、言い換えると「障害」という心身の条件状況のもとで、人間が人としての存在を創るための諸々の行為や活動を含めた総合的な営みとそれを支える思想(=考え方)を総称しています。障害者福祉に関係する方々に、ぜひとも読んでいただきたいところでもあります。
 著者が1983年に書いた理論書『リハビリテーションを考える―障害者の全人間的復権』(2500円、青木書店、1983年)を土台に、1987年にリハビリテーションの考え方についてより多くの人々の理解を図るために事例等を加え分かりやすく書かれたのが、この本の第一版でした。
 私自身も障害者福祉の仕事を本格的に選ぶ契機のひとつが、上記『リハビリテーションを考える』との出会いでした。最初はとても難しく一度ならず何回も読み返しながら、言葉を咀嚼したものでした。その後リハビリテーションセンターでの15年間の仕事を経験して、今またこの本を読み返してみると、人が「障害をもつ」ということがどういうことなのか、日々の生活を営むうえでの困難・不自由さ・不利益が生きることまでをも左右し、個々人の生活や人生の変更や修正を通じて、また新たな生き方を創生していくこと、それがリハビリテーションなのだということが実感として理解できるまでになりました。
 今日、リハビリテーションを巡る社会的状況は大きく変化を遂げ、医学・医療としてのリハビリテーションの進歩発展のみならず、障害という人間の状況をどう捉えるか、障害の概念と構造についての理解も、WHOの国際障害分類(ICF:国際生活機能分類)改定による変化もあり、社会的存在である人と社会的環境との関係から捉える《新しい障害の概念化》が著者らにより検証整理されるなど、総合的な実践手法としてのみならず支援の思想として周知されるまでになりました。
 この本では、リハビリテーション医としての出発から、これまでの豊富な実践経験を素材に臨床での事例討議の解説や、具体的事例の紹介などを交え、リハビリテーションとは何かを分かりやすくやさしい言葉で的確に語っています。
 リハビリテーションとは、障害者・患者個々人に見合った最適な生活や生き方を、当事者とともに支援者らが協働して創っていく人間的営みであること、それはまた人が生きていく歳月の経過において構築されるものであることなど、いくつかの貴重な指摘も随所に見受けられます。
 併せて、終章のリハビリテーションに携わるものは、障害がある人々の人間的立ち直りを支援しながら、同時にそれによって得がたいものを受け取り、自分たち自身を人間的に豊かにしていくことができるという文章は、人が人を支援するヒューマンサービスにおける極意として、リハビリテーションのみならず障害者福祉領域にかかわる人々への著者からの大きな励ましとも言えるでしょう。
 またリハビリテーション従事者として常に謙虚にこのことを受け止めていく姿勢も忘れてはならないと思います。仕事に就きながらも時おりこの本を読み返すことで、大切なことやリハビリテーションのあり方を確認するうえで大きな羅針盤として活かしたいものです。
 その他、上田敏先生が書かれた本でぜひ読んでいただきたいと思うのは、『リハビリテーションを考える―障害者の全人間的復権 障害者問題双書』(2500円、青木書店、1983年)、『自立と共生を語る』(大江健三郎他と共著、1553円+税、三輪書店、1990年)、『回生を生きる―本当のリハビリテーションに出会って』(鶴見和子他と共著、2000円+税、三輪書店、1998年)、『新しい生き方を創る医学 リハビリテーション』(本体900円+税、講談社ブルーバックス、1996年)などです。

(なりたすみれ 横浜市総合リハビリテーションセンター)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年4月号(第23巻 通巻261号)