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愛知
あなたの街に「IT講習」をデリバリー

山口里子

 名古屋盲人情報文化センターでは、点字図書や録音図書の製作・貸し出し、便利グッズの販売、点字表示物の製作など、視覚障害者への情報提供に関する事業を幅広く行っています。その中で、ソフトサービス会社の方にもお手伝いいただき、視覚障害者向けのパソコン講習会や、パソコンに関する相談業務も積極的に行ってきました。
 墨字(点字に対し、プリントされた文字のこと)からの情報が得られにくい視覚障害者にとってパソコン、そしてインターネットは、まさしく情報の宝庫といえるでしょう。毎日の新聞をホームページから読むことができたり、他人の目を介さずに買い物ができたり。メールを使えば、普段使用している文字の形態(点字・墨字)にかかわらず、自由にコミュニケーションがとれますし、メーリングリストに登録すれば、多くの人と情報交換ができます。
 しかし、パソコンを使いこなしている視覚障害者は全体の1割に満たないといわれています。パソコン購入からWindows画面音声化ソフトの購入・インストールまで、どのように進めればいいかという情報がない、キーボードだけでの操作をどのようにすればいいか分からない、あるいはWindows画面音声化ソフトを利用すれば視覚障害者がパソコンを操作できるという情報さえも届いていないのかもしれません。このような状況の中、もっと多くの方にパソコン、そしてインターネットの便利さを伝えていきたいと常々考えていました。
 ところが、ここに大きな課題がありました。愛知県で視覚障害者向けにパソコン講習会を行っているのは名古屋盲人情報文化センターを含めて1、2か所しかありません。しかし、名古屋盲人情報文化センターは、名古屋市内でも南の端に位置し、最寄りの地下鉄の駅からも徒歩で8分必要です。移動に不安がある視覚障害者の方が、パソコンに興味があっても、「センターまで行くのが大変」「一緒に行ってくれる人がいないから」と講習を受けることを断念していることが多いのです。「名古屋まで出るのが大変だから地元で講習会をしてほしい」と、地域の盲人協会からの依頼を受けて、当センターのパソコンを車に積み込み、現地の社会福祉協議会などの1室に3日間だけのパソコンルームを作ったことも何度かありました。
 そんなある日、新聞で「ITバス」の記事を見かけたのです。秋田県で活動中のそのバスは、過疎地域のお年寄りの方にパソコン講習を届けていました。パソコン講習に出かけにくいお年寄りのもとに講習会場が出かけて行く、というアイデアは視覚障害者にも生かせるのではないかと私は考え、講習を主催している秋田県へ、そしてバスを製造した、株式会社ゼックさんに連絡をとってみたのでした。
 かくして4月から当センターで「ITキャラバン」と称してITバスを利用して東海地域でのパソコン講習を展開することになりました。全国で2台しかないうちの1台であるそのバスの大きさは、長さが8.2メートル、幅が2.3メートル、高さが3.2メートルあり、10台のパソコンが中央の通路を挟んで5台ずつ配置してあります。他に講師用のパソコンが1台あり、その画面はプロジェクターを利用してスクリーンに映されます。PHSを利用してすべてのパソコンがインターネットに接続できます。5.5KWの消音型発電機を搭載し、エンジンを止めた状態ですべてのパソコンや周辺機器、エアコンを使用することができます。つまり、バスを駐車するスペースさえあれば、どこででもパソコン講習会が実現するのです。
 ITバスで行う視覚障害者の方向けの講習会の定員は、講習の進み具合いに配慮するために5人。内容は、初心者の方を対象にしたパソコン入門編(Windows基本操作・メール操作・ホームページ閲覧)を中心に行う予定です。希望に応じてホームページ作成や住所録作成などにも対応していく予定です。
 4月下旬に愛知県稲沢市でITバスを利用しての初めての講習を行いました。稲沢市でのパソコン講習は実は2回目。前回の講習会の内容は、初心者の方を対象にしたWindowsの基本操作と文字入力の練習にとどまりました。残念ながら会場にインターネットの環境がなく、メール操作やホームページ閲覧の講習ができなかったのです。「インターネットの環境が整えば、ぜひ次回の講習をお願いします」とのご要望をいただいていました。今回の講習ではもちろん、インターネットの体験もしていただけました。ホームページの閲覧では、最新のニュースに興味津々。バス内でのお互いのメール交換に成功したときはみんなで拍手をするほど楽しんでいただけました。5人の受講者の中で、初めてインターネットを体験する方が4人いらっしゃいました。その中のお1人からは「ボランティアさんに手伝ってもらいながらですが、私でもメールの交換ができました。購入したけれど家で眠っているパソコンでインターネットをしてみたいです」という感想もいただきました。
 今後は、視覚障害者向けの講習のほかにも、ボランティアさん(パソコンサポート・点訳・音訳など)の養成講習会にも活用していきたいと考えています(ボランティアさん向けの講習は10人が定員です)。基本的には東海地区が対象ですが、その他の地域でも、視覚障害者の方々の要請があれば、できるだけ対応いたします。料金についても、できるだけご相談に応じます。
 始めたばかりの事業ですので、これからいろいろ模索しながら進めていきたいと思います。皆様からの出動要請はもちろん、ご意見、新しい利用方法などのご要望もどんどんお寄せいただければ幸いです。

(やまぐちさとこ 社会福祉法人名古屋ライトハウス、名古屋盲人情報文化センター)