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支援費制度が私の街にやって来た
―開始当初の混乱? 制度設計の失敗?―

戸枝陽基

 支援費制度が始まった。案の定、大混乱だ。介護保険開始の時と比較して、何かが始まる時はこんなものだよという声もいろいろなところで聞くが、あの時の混乱とは、明らかに質が違う気がする。制度そのものに欠陥があるための混乱だと思えてならない。
 支援費制度開始直前のある日、私が働くNPO法人ふわりでは、支援費制度の説明会を行った。私は、集まった人に説明会の冒頭で聞いた。「今日お集まりの方で、まだ、支給申請に行ってない方、手を挙げてください」そろそろと手を挙げたのは、高齢のご家族の方たちだった。支援が本当に必要な人たちが、情報が届かず、また、届いていても理解ができず、申請すらできていない。弱い人から丁寧に包み込むのが福祉だと思うのだけれど。
 4月1日を迎えると、この春ヘルパーを増員したのに、あっという間に、押し寄せる利用申し込みでパンク。「ヘルパーがいないことにはサービス提供ができません」とコーディネーターが電話口で説明するのだが、「役所からちゃんと支給決定を受けているのに、断るなんておかしいじゃないか!」とさらに詰め寄る利用希望者。事業所もヘルパーもきちんと整備せず始まった支援費制度。動きのある方に対応できる男性ヘルパーが特に足りない。
 利用は利用で、限られたサービス提供量の中、いかに必要な人に、必要なサービスを、よりよい組み合わせで届けるかということに時間とエネルギーを使う。しかし、こんな利用の中身のマネジメントまで、なぜ、私たちがしているのかと考えると、どうも割り切れない。
 眠る間もないくらいに突っ走り、4月を乗り越えると、自治体へ提出する支援費の代理受領のための書類と大格闘。支援費制度で許されるサービスの使い方の要綱が自治体ごとで違う。それをすべて頭に入れて、間違いのない書類を作るという難作業。3月まで、介護保険の事務をやっていた事務員が、介護保険と比較にならないくらい事務手続きが煩雑だと言う。
 何より致命的なのは、どうしても介護保険との整合性という概念から抜けきれない自治体によって決められる支援費制度の利用要綱がすごく制約が多く使いづらいこと。とりわけ、重い障害のある方は使うなと言っているかのようだ。移動を公共交通でなんて、ふわりでは、無理な人がほとんどだ。居宅支援は、利用者は使いづらいし、事業所は大変だ。
 結論。財政措置をきちんとし、情報提供とケアマネジメントをする専門的人材を配置し、サービス基盤の整備、とりわけ制度を支える人材育成をきちんとやり、国が利用の要綱などのグランドデザインをきちんと障害のある方の生活実態に合わせて出し直すべきだ。それなくして、各地域で特色のある制度運用をなんて言われても、混乱が増すばかりだ。

(とえだひろもと NPO法人ふわり理事長)