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当事者参画をめぐる議論と
求められる共通の視点

金政玉

◆日本政府の対応

 私は、会期後半の6月23日~26日に参加することができたが、予想以上に大きな規模の国際会議であり、とくにNGOの会議は熱気に包まれていた。私にとっての関心は、条約策定への道筋にかかわる決定がどこまでなされるのかということともに、前回(第1回)は消極的な対応にとどまった日本政府が、今回の特別委員会にどのようなスタンスで臨むのかという点にあった。

 まず、今回の特別委員会に先立ち、障害者権利条約に関する第1回特別委員会傍聴団(代表・兒玉明氏、以下、障害関係NGOと略)が日本政府との間で行った主な申し入れとその結果についてみておきたい。
 主な申し入れ事項は、1.第2回特別委員会の政府代表派遣については、障害関係(NGO)のメンバーを含む代表団派遣にすること、2.障害者権利条約に関する「日本政府の見解」についての意見交換を行うこと、3.第2回特別委員会での日本政府代表の役割に関して、アジア・太平洋地域関係者をはじめ各国関係者が参加し、意見交換ができるセミナーや会議を行うこと、4.今後、当事者の参加・参画を尊重する観点から、障害関係NGOとの間で、障害者権利条約策定に向けた協議の場を積極的に設けることなどである。
 6月11日、障害者権利条約に関する「日本政府の見解」について障害関係NGOが提出した意見書をもとに「条約に盛り込むべき原則」「障害の定義」「差別の定義」「モニタリングのあり方」「要素―雇用・教育施策等との関係」等について協議が行われ、障害関係NGOとの間で、継続的に条約策定に関する国内協議の場を設けることが確認された。
 申し入れ事項の1については、NGOメンバーを代表団に入れることが承認され、弁護士で当事者の東俊裕さん(DPI日本会議の条約担当常任委員)が障害関係NGOの総意で推薦し決定した。3については、今回の特別委員会において日本政府の代表団と日本から参加した障害関係NGOとの間で1週目と2週目に1回ずつ行われ、障害者の機会均等化に関する基準規則のモニタリングを担当したベングト・リンドクビスト氏も出席した公開セミナー(2週目)についても約40人が参加した。同セミナーでは、国連資料にも掲載されたDPI日本会議のポジションペーパーの説明やRNNの取り組みの報告、ESCAPからのバンコクレコメンデーションの説明とそれへの日本政府の前向きな評価等が各担当者から提起された。
 また、全体会議における日本政府の発言は「日本政府は権利条約の策定に協力する用意がある。障害者の権利促進と保護が最重要課題の一つであると認識している。2月の社会開発委員会や人権委員会における決議の際には共同提案国となった」「昨年5月のESCAP会議の際に、アジア太平洋障害者の十年の延長を提案した。それを受けて新長期計画の見直しを行い、新しい基本計画では条約策定を含む国際的取り組みへの協力を積極的に行うことを確認した」「NGOの代表を含むすべての関係者の協働の重要性について強調したい。日本政府の場合、特別委員会の準備段階において国内のNGOと対話を行い、この分野に専門性を有するNGOの代表で弁護士である人物を代表団に加えて強化を図った」というものであった。こうしてみると、特別委員会に向けた事前の国内における障害関係NGOの取り組みの成果が予想以上に具体的に現れた、というのが第一の印象である。今回の成果を、今後の国内の取り組みに向けた着実なステップにしていく必要があると思う。

◆NGOのワーキンググループ代表委員選出に向けた議論

 最終日に採択された条約案の作成に必要な資料の収集と論点整理をするためのワーキンググループの構成に関する決定事項は、地域グループ(アジア7・アフリカ7・南米5・西欧5・東欧3)による27の政府代表と、特別委員会に認定されたNGO、とりわけ障害者の組織から、障害とNGOの多様性を考慮に入れた形で、途上国やすべての地域から適切に代表される形で、それらの組織によって選ばれる12名の代表も加わるということになっている。
 ワーキンググループの委員選出に関するNGO会議では、委員の選出要件として、障害者の人権問題に精通していることや障害者組織の活動経験がある当事者であることなどが挙げられていたが、強く印象に残ったのは、知的障害の当事者を委員の対象にするかどうかをめぐっての議論である。知的障害の場合、当事者は委員としての活動には限界があるので親を対象にするべきという意見と、原則的に当事者であるべきという意見が出された。議論を聞いていて、日本国内の支援費に関する「上限設定」問題に端を発して行われることになった地域生活支援のあり方に関する検討会においても、知的障害の当事者を正式な議決権をもつ委員として位置づけるかどうかに関して議論されていることと重なる内容であることを感じた。はじめから「できない」と考えるのではなく、適切な常時のサポートがあれば、内容を理解し決定にもかかわることができる、またそれを望んでいる当事者がいるということを前提にする必要があること、当事者参画のあり方をめぐって、どのような視点が共通に求められているのかを考えさせられた。

(きむじょんおく DPI日本会議事務局次長)