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みんなのスポーツ

障害者ゴルフ

佐藤成定

 一般的に「障害者ゴルフ」=「車いすゴルフ」と思っている方が実に多い。
 これが現代の日本における障害者ゴルフに対する社会的認知の現実です。しかし、車いす使用の障害者というのはほんの一部でしかありません。視覚障害、上肢切断障害、上下肢切断障害、知的障害、精神障害、脳卒中などの片マヒ障害、聴覚障害、人工心臓・人工膀胱などの内部機能障害、そして車いすを使用する方々。大雑把ですが一口に障害といってもこれだけあります。細かくは私も知らない障害がいくらでもあります。
 私たちが障害者ゴルフを広める活動を開始してから9年目になりますが、最初のうちは私も障害者=車いすと思っていました。それは車いすでゴルフをするということが非常に困難なことに思えるからです。
 しかし、実際に車いすを使用する方と車いすゴルフに取り組んでみると、車いすでのゴルフはそう大変ではないことが分かったのです。
 結果を先に書くと、DGA(日本障害者ゴルフ協会)の車いす使用者で上位争いをしているスコアはハーフ・47、48というレベルです。進行も他に遅れるということはありません。
 ただし、問題はあります。それは障害が問題なのではなく、ゴルフ場で自由自在に障害者が使用できるゴルフカートが存在するか? という点です。
 DGAではグリーンを傷めることなく、バンカーにも入れ、傾斜地の移動や傾斜地からのショットも自在にできる車いすゴルフカートをメーカーの協力を得て自力開発しました。このカートさえあれば車いすゴルフの70%はクリアされたと言えます。
 車いすゴルフカートを使用してのゴルフは健常者のゴルフに遜色ありません。200ヤードのドライバーショットは難しいことではありません。バンカーショットも健常者と同じように問題ありません。
 車いす使用者にとっては、使用目的に合った車いすさえ入手できれば時間の問題で健常者レベルの活動をすることができます。それは下肢膝下切断者が自分の行動に合った義足を入手することと同じです。
 運動能力や活動という点では、下肢膝下切断者は自分に合った義足を入手することでかなり健常者に負けない生活を得ることができます。DGAの会員の中には膝下義足で、ある県の健常者を含めた短距離記録を持っている人がいます。ちょっと考えられないことですが、事実なのです。
 ついでにもう一つ信じられない話をしましょう。
 現在、DGAには600名弱の会員がいます。DGAの会員の中にはパラリンピックのメダリストが何人もいます。そのメダリストの一人に車いす競技の選手がいて、ゴルフ場の2階の食堂に上る階段を彼はだれの手も借りずに、自力で車いすを操り、上り下りをやってのけます。私の目には私が階段を上り下りするより時間も早く、簡単に見えました。
 信じられない話ならいくらでもあります。
 そろそろゴルフの信じられない話を披露しましょう。
 DGAの会員に300ヤード超えの選手が2人います。一人は、右大腿切断の青山由貴選手(33歳)。青山選手はスコアより飛ばすことに命をかけているようで、スコアはなかなかまとまりません。ハーフ30台でラウンドするも、次のハーフ40台後半のスコアを叩くというゴルフです。ショットをコントロールするゴルフに目覚めれば、ラウンド70台のゴルフの世界が待っています。8番アイアンで150ヤードを打ちます。
 もう一人は左膝下切断の後藤正之選手(36歳)です。後藤選手は父親の影響で20歳の時にゴルフを始めました。その時はまだ受傷前。障害者となったのは2年半ほど前と最近のことです。交通事故だったようです。受傷前はシングルハンディでクラブチャンピオンを競うレベル。DGAの会員になったのは約1年半前だったでしょうか。
 後藤選手が初めて参加してきたのは、今年の6月でした。10月に開催されるジャパンオープン、5月の片マヒオープン、月例会などの会場になっている栃木県今市市のウイングフィールドゴルフクラブ。総支配人の田代直二氏と私を入れた3人でのラウンド。
 1番ホールの第1打で私と田代総支配人は度肝を抜かれる。フロントティー使用で406ヤードのミドルホールです。セカンドショットの残り距離が70ヤード。336ヤード飛んだという計算です。カート道路を利用したとか、フォローの風が助けたというものではありません。緩やかな下りですが、ほとんど平らといっていいホールです。見た目にはとても300ヤードを超える迫力のショットではありません。ごく普通に無理なく打たれた結果の飛距離です。これが1番ホールだけ特別の当たりをしたと思ったら、そうではありません。アウト・イン4つのロングホールすべて、セカンドショットの使用クラブが4番アイアン以下で2オン可能なのです。力みのないショットですから大きく曲がることはなく、80%の確率でヘアウェイを捕らえます。36、40というのがこの日のスコア。「少なく見ても平均275ヤード以上飛んでいるのではないか」というのが田代総支配人の感想でした。
 信じられない話はまだあります。脳卒中で半身不随の片マヒ障害者。実は障害者ゴルフで大問題なのはこの人たちなのです。人口も200万人~250万人いると推計されており、全障害者中最大のボリュームとなっています。主に中年以上の高齢障害者と言われ、この障害は家族に大きな影響を与えます。おおかた、人生をクリアしてきた歳の人間がある日突然病に倒れ、自分のこれまでの人生を否定されてしまう。本人も家族もそう思いこんでしまう障害なのです。精神機能もダメージを受けます。実はこのダメージが問題。疑い深くなり、否定されるようなことを言われると、どれほど正しいこと、当人のためであっても、信じようとせず、その人を遠ざけてしまう。親兄弟でも例外ではありません。あらゆることに憶病になります。特に運動や活動をすることに表れます。
 したがって外出を嫌い、家の中に閉じ込もります。そんな人が四六時中一緒にいるのですから、健康な家族や奥さんをも巻き込んでしまうという結果になります。この障害者が家の外に出て活動する。それだけで、健康な家族に戻れるのです。
 私に言わせれば、ゴルフをやっていた人なら、健全な家族を取り戻すためのリハビリはゴルフが一番。このことはすべての障害者に言えます。そのために設立したのが日本障害者ゴルフ協会なのです。
 前置きが長くなりましたが、大事な話なのでご容赦。
 立つこともやっと、という重症の片マヒ障害の方が、せめて見学だけでもと、月例会などのDGAの行事にやってきます。自分にはゴルフなど最早無理と思い込んでくる。しかし、ゴルフのおもしろさを知った者にはゴルフの魅力は絶ちがたい。
 来てみると、さまざまな障害の人たちが生き生きと楽しそうにゴルフをしている。うまくいかないが生き生きとゴルフをしている。そんな環境にいるだけで、その人はいつのまにかクラブを手にして、カートや仲間、スタッフの力を借りて、ラウンドしてしまう。立つことの大変な人はスタッフが後ろから腰を支えて倒れないように助けショットする。ラウンドを終えてだれよりも驚いているのはご本人と、奥さん。感動して多くの仲間の前で泣いて帰ります。毎月、月例会に参加される方は、半年くらいで見違えるほどハツラツとしてきます。
 好きなこと、おもしろさの力は想像以上です。障害者の方、一人きりで悩んでいないで、DGAの行事に参加するという行動をまず起こしてください。

(さとうせいじょう 日本障害者ゴルフ協会代表理事)

◆日本障害者ゴルフ協会
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