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介護保険制度の見直しの動向と障害者施策

佐藤久夫

1 介護保険料の上昇

 発足後3年を経た介護保険は、2003年度より2期目に入った。国は介護報酬を改定し、各市町村(保険者)は3年間の介護保険事業計画を立て直し、一号被保険者(65歳以上高齢者)の保険料を見直した。
 この結果、厚生労働省の調査によれば一号被保険者の保険料は全国平均で13.1%アップし、2911円から3293円となった。改訂前には4500円を超える保険者はなかったが、今回、北海道鶴居村の5942円を最高に5000円を超えるところが9つとなった。同時に、低所得者への保険料減免措置を行う保険者は1年前より261団体増えて681となった1)。3293円という保険料は、昨年6月には、3241円と見込まれていた2)ので、介護報酬額の最近の急増がうかがわれる。
 同じ2003年4月には、物価スライドの凍結解除ではじめて年金実額が0.9%減少した。会員150万人を擁する全国厚生年金受給者団体連合会の緊急決起大会が10月1日、東京都内で開かれ、年金給付額の維持などを決議した。緊急決起大会は14年ぶりであり、年金生活者の不安がうかがわれる3)
 こうした中での介護保険料の大幅なアップ決定であった。年金から天引きされる介護保険料は、住民税の確定時期などの関係で9月分までは前年と同額とされ、10月分からの半年で1年分をまとめて納付する。このため、たとえば山梨県市川大門町では本人が町民税非課税(基準額)の場合、8月まで4700円(2か月分)であったが、10月から1万1270円(同)と2.4倍になった。介護保険の赤字解消と利用増対応として、今後3年間の保険料を1.7倍にしたためである4)。この記事では「保険料がすごく上がった。死ねということか。これは暴動起こすしかない」(仙台市、74歳、男性)という声も紹介している。

2 介護保険見直しへの動き

 介護保険を総合的に評価すれば、利用者が増えた、介護の社会化が進んだ、安心できるようになった、サービスを選べるようになった、住民参加で市町村が介護を企画できるようになった、など肯定的に受け止められていると思われる。しかし、ケアの在宅化は進まず(特養待機者増など)、医療から介護への転換も思うようには進まず、ケアマネジメント・介護予防事業・リハビリテーションなどもうまくいっておらず、前述のように保険料や自己負担を払えない人々が増え、財政的な不安が高まってきた。
 2000年4月に218万人であった要介護認定者は2003年5月には352万人となり、2025年には530万人、給付費は約20兆円(今年度約5兆円)と予測されている5)
 前述のように保険料を徴収できない(減免措置)保険者が急増し、また自己負担減額措置も広がっている。市町村は、保険財政逼迫(ひっぱく)に備えて都道府県単位で介護保険財政安定化基金を設置しているが、すでに2001年度にはそこからの借り入れが急増し、特に沖縄県では75%の市町村が借り入れている6)
 介護保険の長所として、保険料を見直して財源を確保できることが強調されている。しかし多くの自治体が、年金天引きの徴収は月3~4000円が限度と考えており7)、全国平均は早くもその限度に近づいた。高齢者にとって、月数万~10数万円の年金からの4~5000円もの保険料は大変苦しく(とくに介護を利用しない10人中8、9人)、またサービス利用高齢者にとってはこれに加えて数千~数万の自己負担が必要となる。こうして加入者を増やし(加入年齢を引き下げ)、財政強化を図れという議論が強まってきた。
 もともと介護保険法はその附則第二条で、「この法律の施行後5年を目途としてその全般に関して検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとする。」と規定している。同条では、その検討の課題に、「被保険者及び保険給付を受けられる者の範囲」、「保険給付の内容及び水準」、「保険料」を含めるとしている。
 2005年度から見直しを実施するためには2004年度中に法律の改正や予算の準備が必要であり、それに向けて2003年5月、社会保障審議会介護保険部会(座長:貝塚啓明中央大学教授)が設置され、見直しをはじめた。対象年齢引き下げが最大の検討課題という。

3 自治体の動き:障害者福祉を介護保険で

 2003年2月15日には「障害者福祉は介護保険で」という7県知事の共同アピールが発表された。理由は、税に全面的に依存していると障害者福祉の市町村での独自の展開が困難であること、介護保険のサービス基盤を障害者も使うことができる、としている。
 169市町村加盟の「福祉自治体ユニット」も2003年8月、年齢で介護サービスを区分する理由はないとして介護保険の年齢制限を撤廃することを提言した。ここではまず財源を統合し、サービスについては障害者サービスを順次検討して介護保険給付に切り替えるべきだとした8)
 さらに同月、13人の知事・市長らによる「長崎アピール」が発表された。それによると、支援費制度は理念はよいが、税への依存のため今後のサービス需要をまかなえるか不安であり、精神障害を対象外とするなど問題が多い。2005年の介護保険見直しでは三障害を対象に組み込むとともに、全身性障害者や強度行動障害者などについては支給限度額の見直しなどきめ細かい配慮をするべきである、とする9)。このように自治体から、障害者施策の充実の観点から介護保険への組み込みが要望されている。

4 検討課題

 日本障害者協議会が11月の総選挙に際して行ったアンケートによれば、「障害者介護サービスの財源を税でまかなうことについて」、「賛成」は民主党、日本共産党、保守新党、「反対」はなく、「どちらともいえない」が自由民主党、公明党、社会民主党であった。これは必ずしも障害者を介護保険の対象にする是非を聞いたものではないが、与野党の回答の「ねじれ現象」はその背景が複雑で、介護保険と障害者福祉に関して多面的な議論が必要であることをうかがわせた。
 私はまず、本当に税金が足りないのか、実は税金の使い方が問題なのではないか、と思う。消費税の導入もその税率アップも、高齢化社会のためと言われてなされたが、その通りであれば介護保険など不要であったと思う。介護保険の年齢を20歳、あるいは0歳へと引き下げた場合、保険料を払わなかった、払えなかった人への介護保障はどうなるのであろうか。国民年金のみならず、健康保険や国民健康保険の保険料ですら払わない、払えない人々が増えており、年金から強制的天引きもできないこれらの人々の加入をどう確保するのか。
 第2に、表に示したように、介護保険と支援費制度はいくつかの基本的な制度設計が大きく異なり、精神障害者分野の事業費補助制度は支援費とはまた異なっている。
 日本の社会保障制度は縦割り・制度分立の歴史(区別と分断の政策)を経てきており、それが立ちゆかなくなるにつれて年金制度など統合化が図られてきた。この歴史は障害者の福祉分野でとくに顕著で、三障害と難病の4つの縦割り管理が続いている。それを正すべき障害者団体のサイドでも、近年相互協力が進みつつあるとはいえ、たとえば労災関係団体と一般障害団体、障害者団体と高齢者団体とは交流もない。
 政府は、障害者福祉と介護保険を統合する場合であってもダブルスタンダードはあり得ない、つまり年齢による自己負担や支給上限、サービスの種類や内容などの差を設けない、と述べていると伝えられる。これはぜひ堅持してほしい視点である。90歳になっても、100歳になっても旅行をしたり、スポーツをしたり、仕事をしたりと、社会参加したい人がいるはずであり、それをサポートするのが世界に誇れる日本の「介護・支援保険」とすべきではないか。
 年齢によらず一人ひとりのニーズが尊重され必要なサービスが提供されること、介護ニーズの認定審査のプロセスに当事者とその代弁人が参加し発言できること、認定審査の基準作りに障害者・高齢者団体の代表が参加すること、など、一部の自治体で支援費制度に関して実現できていることを介護保険全体に広げてほしいと思う。
 同時に、科学技術と障害者団体サイドでも効率的に自立生活を実現すべく努力と工夫をすべきであろう。可能な限り、1人で4人ものフルタイムの介護者を占有せず、一定のエリアで介護者を共有し、LANの活用で必要な介護を確保するなどである。資金を払うその市町村の住民全体に支持される自立生活でありたい。

表 介護保険と支援費制度の主な相違点

  介護保険 支援費
目的 自立した日常生活 自立と社会参加
財源 税金、保険、自己負担 税金、自己負担
国の負担 25%負担する
(50%は保険料)
居宅=1/2以内で補助できる。
施設=1/2負担する。
利用者自己負担 1割の応益負担 応能負担
市町村の財源主体性 市町村が第1号被保険者保険料を設定 少ない
受給認定 評価・調査対象 本人の心身の状況 本人の状況と環境
内容 介護に要する時間 支援の必要度・希望
区分 1種類7区分 障害の種類・サービスの種類ごとに2~3区分
様式 全国一律 市町村の裁量あり
認定機関 専門家による認定審査会 市町村
サービスと認定 要介護認定→サービス種類決定 サービスと支給額同時決定
サービスの対象 65歳以上(40~64歳の特定疾病患者を含む)の要介護者 障害児、身体障害者、知的障害者
サービス資源整備 市町村の介護保険事業計画、都道府県介護保険支援計画 市町村・都道府県の障害者計画(努力義務で内容自由)
給付額の上限 要介護度による上限あり 居宅支援では建前ではニーズが上限
ホームヘルプ 身体介護と生活援助 身体介護、家事援助、移動介護、日常生活支援
外出介助 通院等の乗車・降車の介助 移動介護(通学・通勤・通所は除く)
ケアマネジャー 制度に内蔵、サービス機関が実施 制度に含まれていない
地域生活促進効果 入所施設待機者の増加 まだ不明

5 おわりに

 介護保険のよさの一つは、公平性である。たとえば要介護認定では住宅環境や家族介護者の状況も無視する。こうした公平性に精神障害者の支援者や精神障害者自身が着目し、その支援を介護保険でみることを検討する研究会も始まった。精神衛生法の1987年改正以降、いろいろな社会復帰施設を多少増やしてはきたが、精神病床数も社会的入院者数も減らし得ていないこの約20年を反省するとき、従来の延長線上での改善に限界のあることは自明である。
 関係者、特に障害当事者団体が反対するか、意見が割れているならば、2005年度の見直しでの障害者の組み込みはあり得ない。しかし生まれつつあるJDF(日本障害フォーラム)がすべての障害者・関連団体の合意を形成し、必要な注文を付けつつ介護保険への参入を要望するならば、それは実現し、かつ高齢者にとっても歓迎すべきものになると思われる。障害種別の縦割り(および難病の別枠)の解消という目標を飛び越して、一挙に年齢による縦割りもなくする総合的な地域生活支援への大きな一歩となり得る。

(さとうひさお 日本社会事業大学教授)

【参考文献】
1)asahi.com 年金ニュース 2003.5.27
2)中村秀一『高齢者介護をめぐる課題と介護保険の新たな動向』月刊総合ケア、Vol.13、No.5、2003.5
3)朝日新聞日刊、2003.10.17
4)しんぶん赤旗、2003.10.26
5)Yomiuri OnLine 医療と介護、2003.5.28
6)田近栄治ら『介護保険財政の展開―居宅給付費増大の要因』、季刊・社会保障研究、Vol.39、No.2、Autumn’3,174~188頁
7)Yomiuri OnLine 医療と介護、2003.10.7
8)Yomiuri OnLine 医療と介護、2003.8.26
9)Yomiuri OnLine 医療と介護、2003.9.23