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みんなのスポーツ

創造性のスポーツ「アーチェリー」

田中俊之

1.はじめに

 現在、日本における障害のある人のアーチェリー人口は、約650人程度です。そのうち、約350人が日本身体障害者アーチェリー連盟に選手登録をしています。障害のない人の選手登録数は約1万4000人程度と言われていますので、アーチェリーは障害のある人のスポーツの一つとしてしっかり定着していると言えるでしょう。
 アーチェリーは障害のある人とない人がほぼ同じルールで競える数少ないスポーツの一つです。実際、1984年のロサンゼルス・オリンピックではニュージーランドのN・フェアホール選手、そして1996年に行われたアトランタ・オリンピックではイタリアのパオラ・ファンタート選手がそれぞれオリンピックに出場しています。また、選手だけでなく車いすの審判員も国際大会で活躍しており、関係者の1人として大変うれしく思います。ここでは、皆さんにアーチェリーの現状と魅力について紹介したいと思います。

2.アーチェリーを始めるには

 アーチェリーを始めるためには、全国に22か所に設置されている障害者スポーツセンターに問い合わせるか、日本身体障害者アーチェリー連盟に問い合わせてみることをお勧めします。日本身体障害者アーチェリー連盟の傘下団体が現在36都道府県に設置されていますので、各傘下団体の連絡先などを教えてくれると思います。障害のある人を対象としたアーチェリー教室の多くは、運動できる服装で参加すれば、必要な用具については貸してくれるところが多いと思います。将来、自分がアーチェリーを本格的に続けたいと思ったときに、弓具は購入すればよいでしょう。
 通常、アーチェリー教室は週1回コースで1回3時間程度の練習時間を設定しているところが多いようです。はじめは、弓具の取り扱い方法や名称などを解説し、基本射型の知識と技術について学びます。そして、6mから12m程度の短い距離で単独で楽しむことができるように指導してくれます。アーチェリー場によっては、認定制度を設けているところもあり、技術が向上するにしたがって、標的を射ることができる距離も長くなっていきます。上達のスピードは練習時間と比例しますが、週1回~2回程度の練習だとすると、6か月前後で30m離れた標的を射ることができるようになると思います。

3.弓具選びはアーチェリーを楽しく続ける第一歩

 弓には主に「リカーブボウ」と「コンパウンドボウ」があります。「リカーブボウ」は矢を射るためにバネの働きをするリムの反発を利用した弓であり、ストリング(弦)は人差し指、中指、薬指の3本を使って引きます。現在では「リム」と「ハンドル」に分解できるテイクダウンボウという組み立て式の弓が一般的です。一方、「コンパウンドボウ」はリムの上下にある滑車の働きによって、実際の弓の強さの半分以下になる弓です。
 最近、急激に「コンパウンドボウ」の競技人口が増えています。その秘密は「リカーブボウ」と比較すると身体への負担が少なく楽に標的を狙えること、さらにリリーサー(発射装置)を使用するので発射効率がよく、女性をはじめ子どもや高齢者など比較的体力のない人でも、十分な矢とびが得られることにあります。
 どちらの弓にもそれぞれ魅力がありますが、調整をきちんと行わないと矢は上手く飛んでくれません。実際、自分の筋力に対して強すぎる弓を購入したことによってフォームが崩れ成績が悪くなる場合や、肩や肘に障害を起こす場合も見受けられます。これらは、弓や練習方法に対する基本的な知識不足からくる場合が、ほとんどです。
 弓具を購入するときは、指導者やアーチェリー専門店のスタッフによく相談することが必要です。相談はあくまで相談ですから、最終的には自分自身が決めなくてはなりません。「スタッフに薦められたから」とか「そんなことは知らなかった」と言ってもそれはだれのせいでもありません。指導者やスタッフの意見をしっかり理解し、そのうえで弓具を購入しましょう。自分の技術や体力に合った弓具選びは、アーチェリーを楽しく続ける第一歩となります。

4.アーチェリーはだれもが楽しめるスポーツ

 今年の9月に、スペインのマドリッドで、IPC世界アーチェリー選手権大会が行われました。出場選手の中には、右前腕切断であることから、矢を射るときは口で弦を引き、そして放ちます。そのシューティング技術は極めて高く、関係者の注目を集めました。このようなことができるためには、シューティング技術だけでなく、強靭な頸部の筋力が必要です。だれもが簡単にできることではありません。
 南浩一(埼玉県)選手は、常に世界トップクラスに位置している文字どおりのトップアーチャーです。南選手は手指がほとんど動かないことから、リリースエイドという特殊な発射装置を手につけて、矢を放ちます。リリースエイドは選手自身が自分の障害の程度に合わせて独自に工夫している場合がほとんどです。自分で矢を弓につがえることのできない場合には、介助者が選手の代わりに矢をつがえます。また、体幹のバランスを保つため、ショルダーストラップやチェストストラップなどを用いると、安定したシューティングができるようになります。
 同じように下肢に障害があっても、障害の程度によってシューティングの姿勢は異なります。椅子を使用する場合もありますし、立位姿勢を保ったままシューティングをする場合もあります。障害のある人たちがさまざまなフォームで、工夫をしながらアーチェリーを楽しんでいることが、お分かりいただけると思います。アーチェリーは創造性のスポーツなのです。

5.おわりに

 ここ数年、アーチェリーを取り巻く環境は大きく変化しています。アーチェリー場や指導者は少しずつですが年々増加しています。また、コンパウンドボウの広がりには、目を見張るものがあります。
 さらに、視覚障害者を対象とした競技規則の整備も国際的に進められています。視覚障害者のアーチェリーでは、サイト(照準器)の代わりに手の甲にニードルという針のような部品をあてて上下左右を調整します。全盲の方も弱視の方も基本的にはアイマスクをするなどして同一クラスで競技します。日本では一部の地域で取り組みが始められたばかりですが、視覚に障害のある人がアーチェリーにチャレンジする機会も増えていくかもしれません。
 現在、日本ではターゲットアーチェリー(屋外や屋内で決められた大きさの標的に矢を放ち、合計得点を競うもの)が主流です。しかし、実はアーチェリーにはいろいろな楽しみ方があり、国外では山の中や草原に標的を設置し矢を放つフィールドアーチェリーや、雪原をシットスキーで移動しながら標的に向けて矢を放つスキーアーチェリーも行われています。さまざまな形でアーチェリーを楽しむことができる環境が整備され、1人でも多くの方に気軽にアーチェリーを楽しんでいただけたら、こんなにうれしいことはありません。

(たなかとしゆき 埼玉県障害者交流センター)

◆「全国障害者スポーツセンター」一覧と「日本身体障害者アーチェリー連盟」連絡先は、日本障害者スポーツ協会(TEL 03―3204―3993)ホームページ(http://www.jsad.or.jp/)から「協会概要」をクリックすると「全国障害者スポーツセンター」一覧にアクセスできます。また、「競技別障害者スポーツ団体」をクリックすると「日本身体障害者アーチェリー連盟」にアクセスできます。