音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

アジアの鼓動を世界へ
第16回アジア知的障害会議

金子健

1 アジア会議の誕生と発展

 2003年8月20日から26日までの一週間、茨城県つくば市のつくば国際会議場を会場に、第16回アジア知的障害会議が開催された。
 1973年、アジアの知的障害児者の幸せを願ってフィリピンのマニラに関係者が集いアジア精神遅滞連盟を結成して始まったこの会議は、以後、隔年で14の会員国の持ち回りで開催されてきた。知的障害の医療、福祉、教育、行政などさまざまな分野にわたる学際的かつ実践的な会議として、ノーマライゼーションや権利擁護といった国連をはじめとする国際的動向と、各国の国内的状況を踏まえつつ、協議を重ねてきた。施設処遇から地域生活支援へ、特別の場での教育からインクルージョンへ、この四半世紀の間に時代は大きく変わりつつあった。アジア会議内部でも、ユネスコなどの指導を受けながらインクルージョンの方向への転換を図りながらも、これまでの欧米主導の政策決定から、アジアのことは自分たちで決めようとの意思が高まっていった。

2 エンパワメントを掲げて

 第16回会議を日本で開催するに当たり、主催の日本知的障害福祉連盟とその構成団体である日本知的障害者福祉協会、全日本手をつなぐ育成会、全日本特別支援教育研究連盟、日本発達障害学会では、総合テーマを「Empowerment and Full Participation(主体性の確立と完全参加)」とし、各団体連携して準備に当たった。
 会議には、アジアを中心に28の国から1000名を超す参加者があり、基調講演、2本の招待講演、基調シンポジウムをはじめとする13のシンポジウム、100件の口頭発表、50件のポスター発表などが行われた。

3 皇太子殿下ご夫妻のご臨席

 20日のレセプションと21日の開会式には、皇太子殿下ご夫妻のご臨席をいただき、国の内外から参加の当事者や専門家と間近に懇談をしてくださった。茨城県の施設利用者は緊張しながらも妃殿下と言葉を交わし、握手をして感激していた。
 開会式では皇太子殿下より、「共に学び共に育つことを目指す世界の流れの中で、知的障害のある方々は理解されにくく、これまで発言の機会も少なかったが、これからは専門家や家族と共に連携しあい、社会での活動の場がいっそう広がることを期待する」という趣旨のお言葉をいただいた(全文は宮内庁ホームページに掲載)。

4 当事者のエンパワメント

 今回の会議では、本人招待や本人プログラムなど当事者の活動を大きな柱の一つとした。開会式後の招待講演では、国際育成会連盟副会長で本人委員会代表のニュージーランドのロバート・マーティン氏が、ご自身のこれまでの生い立ちと障害者の権利擁護に向けての国際的活動について話した。障害者の権利条約の制定の必要性を訴え、障害者のことを話し合うときに当事者を加えていただきたいという言葉が印象的であった。
 もう一つの招待講演は、東京大学先端科学技術研究センター助教授の福島智氏。視覚・聴覚の重複障害の当事者として、IT化された現代社会において、知的障害者も含めたインフォメーションディバイドの解消が必要であると訴えた。
 今回の会議では、アジア連盟加盟の13か国から2人の障害者本人と1人の支援者を招待し、それ以外にも本人シンポジウムのために国の内外から本人の方々を招いた。本人シンポジウムやその後の交流会では、それぞれの国での当事者の活動が報告され、今後の連携を約束しあった。

5 質の高い支援の実現

 当事者の集まりが盛り上がる一方で、シンポジウムや研究発表をとおして、最先端の科学的研究成果の発表や、地域生活支援の実践的経験の情報交換、インクルージョンをめざす学校教育の実践報告、国境を超えた友情と連帯の確認などさまざまな議論が展開された。
 山口薫全特連顧問とピーター・ミットラー英国マンチェスター大学名誉教授による「アジアにおいてインクルージョン教育をどう発展させるか」のシンポジウムでは、アジア各国での教育状況のアンケート調査を基に、今後の方向性が議論された。
 アジア各国でもインクルージョンに向けて法改正が行われたり、交流教育が促進されるなど、さまざまな努力が積み重ねられている。各分野共に、地域的視点からの個に応じた質の高い支援を実現していくことの必要性が確認された。次回は、2005年の秋にインドネシアのジョクジャカルタで開催される。

(かねこたけし 日本知的障害福祉連盟常務理事、明治学院大学教授)